●第二十五話● ええまあ、【男】のことはよく知ってますよ?
教室に入ると、ちょうど時期だったようで、ホームルーム早々に席替えがあった。
あっという間に、
「――ねえねえ、ハル! もうご存知? この間の駆除科の
「ハルって凄いのねえ。あの時の討伐数、開校以来最高成績の
「そ、そうなのか……?」
初めての駆除科の授業を終えたせいか、一気にクラスメイトたちとの距離感が近づいているようだった。
一年A組の少女たちは、頬を紅潮させて、夢見るような瞳になった。
「ハルとどう接したらいいか、少し戸惑っていたのですけれど……。でも、ハルもやっぱりわたくしたちと一緒で、《人類の敵》駆除を頑張ってる方なのですね。
ハルが強いのって、やっぱり双子のお兄様の影響なのかしら?」
「羨ましいですわ。ハルの双子のお兄様、いつかお会いしてみたいものです……」
ほう……と、まるで白馬に乗った王子様を夢見るようなため息が、教室に溢れ返る。
同年代の男というだけでなにやら素敵な存在に脳内で変換されているのは、どうやら
微妙な気持ちになって、
「あー……。んな期待しない方がいいぜ? 現実の男なんて、そんな大それたもんじゃないって」
「わぁ! その台詞っ、最高にカッコイイですわ!」
「
おほほほ……と、突っ込み待ちなのかと思わせるような笑い声が続く。暢気で優雅。絵に描いたようなお嬢様方に、
すると、コイツらに輪をかけてのほほんとした
「当然です。だってハルちゃんは、『男のことならなんでも知ってる』んですからっ!」
その宣言の直後、教室中が騒然となった。
「え……、えええ―――っ⁉」
「お、お、男を知ってる……⁉」
(……待て。おまえら、微妙に表現が違うぞ)
○
さっきまで同級生のお嬢様連中何人にも囲まれていたはずが、……今はすっかり後ずさりされていた。
それぞれ、顔を真っ赤にしたり口をぽかんと開いたり、はたまた隣の女子とヒソヒソやったり、――同じく固まっている担任の七緒先生になにやら耳打ちして質問したりしていた。
しかし、当の七緒はといえば、茹で蛸のようになって今にも卒倒しそうな形相である。
「……あ、あれ?」
そう呟いて固まっているのは、当の
【ハル凄い!】の延々ループにでもなると思っていたのか、
『……あの、わたし、なにかまずいことを言っちゃいましたか?』
〈イン・ジ・アイ〉の個人ルームに、
『まあ、アレだ、気にスンナ、ヨ……』
とりあえず
このお嬢様たちの輪に入るのなんかどうせ不可能なんだから、まあ、ちょうどよかったのかもしれない。
すると……。
「ハ、ハル! あなたに質問があるんですけれどっ!」
さっき
「……はーい。なんでもどうぞ」
面倒くさくなってそう答えると、その女の子は目をキラキラさせて質問してきた。
「も、も、もしかしてハルは、と、殿方との……、こ、こ、ここ、交際経験なんかがおありなのかしらっ……?」
白目を剥きそうになる質問に
「きゃ――‼ 男子との交際経験⁉」
「この前まわってきたイケない雑誌に載っていたアレね⁉」
今度は、誰も彼もが手近なクラスメイトと手に手を取り合ってきゃあきゃあ騒ぎ出した。
「こっ、これよね⁉ 確かに二四九ページの読者投稿欄に載ってます! 現実にあるお話だったのね……⁉」
そう言った女子の胸には、古い時代のヨレヨレになった時代錯誤な少女雑誌が抱きしめられていた。……あの雑誌が、この規律の厳しい閉鎖的な全寮制女子高に通う歴代お嬢様方の『イケない反抗』というわけらしい。
(ささやかすぎるというか、健気というか……)
そのうちに、またじりじりと輪が狭まってきて、再び
「ハル、男の子ってどのような方々なんですのっ⁉」
「朝起きたら、やっぱり顔を洗うのかしら。それとも、歯磨きが最初なのっ⁉」
「……はあ~……」
「あー、馬鹿らし」
その呆れ声にまた教室の中がざわつき、そばの誰かが小さくその子の名前を呼んだ。
「あ……、
……って、誰だっけ? クラスメイト?
〈イン・ジ・アイ〉に
(――
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