●第二十四話● お嬢様の縁談事情
作業している深羽の顔を眺めて、晴矢は、生徒会室での盾羽とのやり取りの続きを思い出した。
○
「わたしは
あの時、斎院
「……ああ、そう。そういうことですか」
「あまり驚かないのね。予想していたの?」
「まさか。でも、わざわざこっそり呼び出すあたり、あんまり良くない話だろうなとは思ってましたけど」
晴矢は、肩をすくめた。
仲は良くなさそうだと感じていた。
が、
けれど、実際はこうして、
(なんだってコイツら、こんなに仲が悪いんだよ?)
……そう思ったところで、すぐに晴矢は考えを改めた。
(まあ、俺ん家だって、人のことをとやかく言えるような兄妹仲じゃないしな)
旧約聖書のカインとアベルを持ち出すまでもなく、兄弟は他人の始まりというわけだ。
「それで、答えは?」
焦れたように、
「嫌です。深羽とは友達だし。それに、こういう陰でコソコソやって人を嵌めるようなことは好きじゃないんで」
ニヤッと笑って、晴矢はこの盾羽がいかにも嫌いそうな表現を使った。
「ま、いかにも『女』がやりそうなことですけどね」
「キミね、いい加減にしないと……っ」
また
「ふーん、そう。わたしたちの意見は完全に対立したわけね」
「そうみたいですね」
「……模擬戦でも、君の判断力は素晴らしかったわ。この桜ノ宮学院に編入生なんてほとんど来ないのだけれど、君にはその価値があると思っていたのに……。残念だわ」
はっとして、晴矢は目を見開いた。
では――つまり、月穂が戦ったあの模擬戦の時、ブルー・スライムの増殖速度が上がっていたのは、……この盾羽の差し金だったのだ。
すると、
「ねえ。こうなったからには、賭けでもすることにしない?」
「は?」
「ほんのお遊びよ。いいでしょう? 賭けの内容は、――斎院
「……」
「わたしは当然、斎院深羽の退学に賭けることにするわ。君はそれを全力で阻止しなさい。君の望み通り、斎院深羽が無事この桜ノ宮女学院に在学し続けた暁には――」
盾羽は、晴矢の顔から目を逸らし、窓の外を眺めた。
「深羽は今年度中にはひとまわり以上年上の男と婚約し、十八の誕生日と同時に入籍ね。
それがあの娘の運命よ。君は全力で祝ってあげたらいいわ」
「……!」
――婚約、だって?
目を見開いた晴矢に、盾羽は冷笑を浮かべながら続けた。
「その時には賭けに負けたということだから、わたしも敢えて意見を差し挟むのはやめましょう。
あの男は本当はわたしの婚約者となる予定だったのだけれど、あの
足手まといだとばかり思っていたけど、あのノロマな妹にも使い道があったわね」
それだけ言うと、
「お手並み拝見といかせていただくわ。せいぜい頑張りなさい。深羽の
――いつの間にか
それが、退室の合図だった。
○
(……婚約、だってさ)
……いや、正直なところ、どこかでわかっていた。
巨大
黙って見ていたくはないけれど、かといってどうしていいのかもわからない。
敢えてなにかをするべきかすら、判断がつかなかった。
だけど――。
少し考えて、晴矢は、目の前の深羽にこう答えることにした。
「……いいよ、わかった。俺も協力する。その、
晴矢が頷くと、深羽は嬉しそうに微笑んだ。
「本当ですか? ありがとうございます、ハルちゃん。一緒に
その時ちょうど朝の予鈴が鳴って、晴矢たちは席を立ったのだった。
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