●第十五話● いやだから、着替えはキツいって
(――見ないように、見ないように)
そう念じながら、
なんとこの駆除用作業着、下着を着用せず裸で着る仕様なのだ。
だが、どうしてもそんな気になれず、
「くっ……、キツいな。上まで上がらねえ……」
どうやっても、トランクスが引っかかって上手くいかない。
どうやらこの駆除用作業着は、
「はぁー……。仕方ないか」
今日の一時間目は、駆除科の模擬戦なのだ。
そして、
昨日の
ちなみに、
昨夜ダイニング・ホールで暴れたブルー・スライムの分身が校内で見つかって、駆除に当たるんだって。
(……それにしたって、俺は転入してきたばっかりだってのに、ハードすぎないか?)
まあ、
だけど、さすがの
意を決して、
「み、見ないぞ……、見てないぞ……」
いくら双子とはいえ、相手は女だ。
プライバシーとか人権とか恥じらいとか、とにかくそんな感じの理由で、とにかく裸を見るのはよくない。
これまでの生活でも、極力『下』だけは見ないようにしてきた。
幸いなことに、男と違って女のそこは目を逸らしていればそうやすやすと視界に入ってくるものではない。
ちなみに上は、下ほどは苦労しなかった。
「
率直に言って、上半身だけを横に並べられてもどっちが
『――おいコラ、誰がまるっきり一緒だ⁉ 聞き捨てならんぞ、お兄っ!』
急に脳内にホットラインが繋げられて、
「……
なんつー時に〈イン・ジ・アイ〉回線を繋いでくれるのだ。
今は――妹の体をすっぽんぽんにして着替えをしている真っ只中だというのに。
『お兄が失礼なことを言うからだろうが! まったく、誰がまな板だ、誰が。
レディのデリケートな部分に対して物言いをつけられる身分か、このゴミカスめ。このままただで済むと――』
「うるせえ! 俺の思考は、思想の自由によって憲法で保証されてるんだ!
余計な口出しされる覚えはねえっ!」
なんだかすべてが馬鹿らしくなって、
さすがの
「あー……。なんか、気ぃ遣ってんのが本気でアホらしくなってきたぜ……」
やり方さえ知ってれば、脳内の〈イン・ジ・アイ〉を使えば一瞬にしてどんな過激な画像でも動画でも閲覧できる時代だ。
世界人口の半分にくっついているもんをちょっとやそっと見たか見ないかなんて、そう深刻に考える問題でもない気がしてきた。
……そりゃ、その対象が知っている女となれば話は別なんだけど。
無心になって、
○
神埜家が研究開発したのは、快晴をイメージしたと思しきスカイ・ブルーを基調とした駆除用作業着だった。
女子高生の制服なんて目じゃないくらいの強烈な女装――と思っていたが、そうでもなかった。
支給された駆除作業着の下半身が、スカートだとかフリルではなくパンツタイプだったからだ。
ゴツい踵のブーツを履くと、ちょっと背が高くなったように感じた。
上半身はピッチリ体にくっついたコルセットのような仕上がりで、首輪みたいな飾りがついている。
「……俺は犬か」
がっくりと肩を落として、晴矢は無我の境地で駆除用作業着を着た。
悟りを開いた時の仏陀も、こんな気持ちだったのかもしれない。
駆除用作業着、装備完了。
さあ――更衣室の外で、深羽が待っている。
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