●第十四話● 密談は、ヒミツの場所で
《人類の敵》居住区になっている構造物の内部に、
カグヤ・タワー並みの厳重なセキュリティを抜け、七本の石柱と無機質なブロックが幾何学的に組み合わされたその施設に入ると、中は迷宮のようにいくつもの細い回廊に分かれていた。
ブルー・スライムは、エントランスから最も近いタイル張りの部屋に居を構えていた。
さっきの模擬戦で相当消耗しているのか、ブルー・スライムはどろんと体を床に横たえている。
ずいぶんと小さくなったブルー・スライムを見て、
「……あれぇ? お水切れちゃってるみたいだね。
どうしたんだろう?」
すると、
「もしかして、『
「岩子さん?」
「
「
「はい。もう少し奥の部屋に住んでるんですよ。
他にも住んでる方がいます。
悪戯好きのニンフちゃんとか、お手紙と本が大好きな
「そんなにいんの?」
「ここは、《人類の敵》用の寮みたいなもんなんだよ。
皆気難しいから、人によっては会ってもらうのも難しいんだけどね。
でも、
その
「……やっぱり岩子さんがお水を使ってるみたいですね。岩子さんに、お水をこちらにまわしてもらえるように頼んできましょうか」
○
「――しかし、ドラゴンって、マジ?
そんなん、捕まえられんの……?」
「
ハルは、去年の
日本中、大騒ぎだったんだから。去年の
興奮した
まるで、自分のことを自慢しているみたいだった。
留学に向けて勉強漬けだった
「ドラゴンのために、この《人類の敵》居住区は大改築されたんだからっ。
ここから地下五十メートル掘ったところに、ドラゴンの部屋があるんだよ。それでね、それでね……」
……やっとのことで辿り着いた岩子さんとやらの部屋からは、ほかほかと湯気が溢れ出ていた。
それから、サーッと流れるシャワー音。
なるほど、確かに彼女は風呂好きらしい。
今も入浴中のようだ。
さすがに入浴の場に踏み込むのは遠慮して
「――あの、
……えっ? あ、あの本、ですか……? それはまだ……。
は、はい、読めてないんです。ごめんなさい……。岩子さんのお友達がせっかく書いてくださったのに……。
いえ、あの、前にも言った通り、いくら岩子さんのお願いでも、わたし宛にいただいた女の子達からのお手紙は渡せません。確かにたくさんいただきますけど……。
え、ただの手紙じゃなくてラブレターじゃないかって? そ、それはわかりませんが……。
でも、その、やっぱり、わたしのために皆さんがわざわざ書いてくださったものですから……」
なにやら、交渉は少々難航しているようだ。
「手紙って、なんだ?」
「うーん、なんだろね……? 確かに深羽は後輩の女の子達からいっぱいお手紙もらってるんだけど、それのことかなぁ」
月穂にもよくわからないらしい。
すると、深羽はようやく岩子さんの承諾を取りつけたようだ。
ブルー・スライムの部屋にもやっと水がまわり、あっという間にブルー・スライムがその体積を取り戻していくのを確認する。
しかし……。
(……回復速度、速すぎねえ?)
これは、コイツらが単純構造のスライム系だから特別なのだろうか。
もし《人類の敵》居住区から脱走するようなことになったら――、果たしてどうなるのだろう……?
○
「――うふふ、うひっ、うひひひひ。
相変わらず、
ああでなくっちゃ、こねくり甲斐がありません」
「こら、あんまり調子に乗るんじゃないの。
あんたみたいな馬鹿がしゃしゃると、上手くいくもんも上手くいかなくなるわ。
それにしても、本当に
――今年の
「うふふふふふ。岩子ちゃんったら、本当にクソみたいな性格してますねえ。
ワタクシ、岩子ちゃんのそういうところ、だぁい好きですよぉ」
「あっそう。あたしはあんたのことはそんなに好きじゃないわ。
太ってるし、垢抜けないし」
「あんっ。酷ぉい! ワタクシたち、親友なのにぃ~」
存外嬉しそうな嘆き声と、陰険な笑い声が交じり合う。
「ああん、この
ワタクシの願いが、本当に叶うんでしょうか? 楽しみで仕方がありませえ~ん」
今度の
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