●第十三話● 桜ノ宮女学院の女王蝶
「――うにゃぁっ⁉」
変な声を出して、
じゅっと嫌な音がして、
スライム系の《人類の敵》は総じて、酸性の粘液を体内に持っていることが多い。
「ごめんなさい、動かないで、
謝ってから、
絡みついた
その途端に、ホールは騒然となった。
「――きゃああ、ブルー・スライムよ!」
「訓練室から逃げ出したんだわっ……‼」
食卓から、生徒たちが一斉に離れた。
戦闘モードならともかく、今は制服を着た普通の女子高生だ。
武器も持たずに《人類の敵》と交戦なんて、お嬢様が素手でスズメバチの巣を駆除するくらいにあり得ない状況だ。
「水か……!」
女たちが下がってくれたのはよかったが、
食卓の上には、豪奢な生花の飾られた花瓶に加え、よく冷やされたウォーターデキャンタまで乗っている。水を吸収合体すれば、ブルー・スライムは水の質量分巨大化して強力になる。
今まさに、ブルー・スライムが水分を求めてアメーバ状の体を変形させ始めて、
しかし――ブルー・スライムが移動を開始する前に、ひゅっとなにかが至近距離を横切った。
「え……、うわっ⁉」
……気がついた時には、晴矢のブレザーの肩先がちょっと裂けていた。
「なっ……⁉」
(なにが起きたんだ⁉)
ぎょっとしているうちに、ホールの空気が凍る。
驚いて、
(なんだよ、この空気は……?)
一瞬前まで悲鳴と動揺が満ちていたはずなのに、いつの間にか、ホール中が水を打ったように静まり返っていた。
すると――、
食卓の上でのさばろうとしていたはずのブルー・スライムの小さな目玉に、銀色のナイフが突き立てられていることに。
あれが、
(だけど、いったい誰が――……)
答えは、すぐにわかった。
ホールにいる生徒全員が、たった一人を見つめていたからだ。
彼女たちの視線の先には、食事を終えて口許をテーブルナプキンで拭いている女がいた。
その女は、
真っ黒な髪を腰の下まで伸ばしたその女は、向かいに座って自分の他にたった一人動じていない眼鏡の女と一緒に立ち上がった。
「……この程度のことにも冷静に対処できないなんて、今年の一年生は本当に間抜け揃いね。嘆かわしいわ。
いつからこの
冷めた声でそう言い放つと、女は
……いや、
その女の顔は、声からイメージした通りどこか冷たく、けれどとても整っていた。
真っ黒な瞳がとても鋭く、……美しい。
だが、彼女はすぐに目線を外し、連れの眼鏡の女を見て優雅に立ち上がった。
「――さあ、もう部屋へ帰りましょう」
○
黒髪の女とその連れは、静かに去っていった。
その間、誰もなにも話すことはなかった。
二人が去ってようやくホールに音と活気が戻ったと思ったら、今度上がったのは歓声だった。
「……見た見た⁉
「本当、見惚れちゃった! さすがだったよね!」
思わず
(なんの騒ぎなんだ、これは。
さっきの女は、有名人なのか?)
不審に思いつつも、キャアキャア騒いでいる女子たちを掻き分けて、
「大丈夫か? 二人とも」
「はい」
「……な、なんとか」
頷いた
「……っ」
慌てて目を逸らして、まだ震えている
視線のやり場に困って、とりあえず制服のブレザーを
それから、ふと止まる。
――さっき立ち去った女と
すると、
「……あの人、わたしの姉なんです。気にしないでくださいね。姉が言ったのは、わたしだけのことですから」
「……もう行きましょうか。ブルー・スライムさんの様子も気になりますし」
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ここまで辿り着いてくださった方……神様のようです!
ありがたやありがたや。
アクセスあるだけで幸せです。
本当にありがとうございます。
続きは一週間以内に更新予定ですので、またお時間のある時にでも読んでいただけたら嬉しいです。
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