●第七話● 蝶のように優雅に
大急ぎで、
ブルー・スライムくらいなら、一般人でもそれなりに対応はできる。
退治方法もよく知れ渡っていて、スライム状の体のどこかに生じた目玉を潰せばいいのだ。
まだ幼かった頃の妹ですら、流し台の下を覗いてブルー・スライムに遭遇した時にはベシャリとスリッパで一撃を食らわせたものだ。
スライム系は酸性の粘液を体内に持っているから注意が必要だが、この程度の《人類の敵》ならば、一般人でも注意すれば対応できる。
ただし、こんなに数が多くなければ、……だが。
(うう。……つい勢いで動いちまったけど、ちょっと後悔かも……)
とはいえ、
そう判断して無数のブルー・スライムの上に落ちてみると――二分の一の賭けに勝ったことを
模擬専用に出てきたブルー・スライムには実体があって、ボヨンと弾みがついて着地の衝撃を吸収してくれた。
床に着地したとしてもこのくらいの高さなら大した衝撃はないだろうとは思っていたが、痛くないに越したことはない。
「
「ハル……⁉」
涙目になった月穂が、驚いたようにこちらを見た。
「ハル、ダメだよ、戻って!
制服のままじゃ、いくら模擬戦用のブルー・スライム相手でも危ないよっ」
「俺のことより、前見ろ前!」
「へっ……? わ、わあっ」
ブルー・スライムの一群に襲いかかられて、
(――お、おまえ、
「逃げるぞ、
「う、うん……」
緊急事態だから、照れがどうとか言っている場合じゃない。
「は、はわわ……。あたし、腰が抜けちゃったみたい……」
「おいこら、マジかよ⁉」
おまえは本当にこの
なんとか
敵か――と思って目を上げて、息を呑む。
「ハルちゃん‼」
「……み、
「わわっ、深羽!」
抱き留めた深羽の体は、彼女の名前の通り羽のように軽かった。
地面に少しでも落とすまいと思わず腕に力を込めると、深羽は恥ずかしそうに
「ナイスキャッチ、ありがとうございます。重くなかったですか?」
「いや、全然……。大丈夫」
「よかった。
ハルちゃん――ここはわたしに任せて、
音も立てずに
その手には、輝くような刃を光らせた大剣が握られている。
「――ええいっ‼」
まるでテニスでスマッシュでも決めるような掛け声をあげて、
ひと際大きな目玉群があっという間に斬り裂かれると、ブルー・スライムは徐々に勢いを失くした。
深羽の振るう大剣が、まるで淡い色の炎を噴き出しているかのようだった。
まるで繊細な蝶が舞いでも踊るように、深羽はブルー・スライムを蹴散らしていった。
「す……、凄え……」
目を見開いて――。
気がつけば、
いつの間にか――、深羽によってブルー・スライムはすっかり小さくなって、二時間目の終わりを告げる鐘が鳴っていた。
○
……が、その後が問題だった。
カグヤ・タワーを出るなり、
「――ちょっと個人指導室まで来てくれるかな? 神埜さん」
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第七話まで読んでいただき、ありがとうございます!
次の話は日常パートに戻るので、読んでいただけたら嬉しいです!
(もちろんフィクション前提なのですが、次の話はもしかすると世情と合わないかも…一応少々手直しはしたのですが、かなり前に書いた作品なので、ご容赦くださいませ)
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