●第六話● 月穂のピンチ⁉ 初めての駆除科模擬戦
「――神埜さん、ほら、見てください。あそこで、
潜めた声で、
本日二時間目授業科目――〈駆除科〉。
教室棟を出て、カグヤ・タワーのエントランスに設置された無数の監視レーダーや生態認証センサーによるチェックを越え、超高速エア・チューブに乗ってこの地下深くまで降りてきたのだった。
……しかし、あいかわらず、この
頬が触れそうになった気がして思わず深羽の顔から視線を逸らすと、制服の下の大きな胸元が彼女の呼吸に合わせて上下しているのが見えて、
すると、
「大丈夫ですよ。そんなに心配しないでください。模擬戦っていっても、動きに制限をかけた《人類の敵》と、戦う練習をするだけですから」
「う、うん」
今
一見して、バレエのレッスンでも始まりそうな真っ白なダンス・フロアのような空間だった――が、床、壁、天井すべてに縦横にマス目が走り、それぞれ衝撃吸収材できっちり守られているようだ。
よく見ると、空間上にもマス目状に光線が走っている。実戦に備えて、ここで自分や敵の攻撃が届く範囲を〈イン・ジ・アイ〉だけではなく目測でも確認して、体で覚えておけということなのかもしれない。
「神埜さん、あそこにドアが見えるでしょう? あの奥に更衣室があって――」
「ああ、うん。
……えーとさ、ハルでいいよ」
「え?」
「呼び方。この桜ノ宮じゃ、皆下の名前で呼び合ってるんだろ……呼び合ってるんでしょ?」
「はい、そうなんです。
それじゃ、ハルちゃんって呼ばせていただきますね。わたしのことは、
「了解」
頷くと、ちょっと照れたように、
「
ハルちゃんも、〈イン・ジ・アイ〉も併用して、よく見ててくださいね」
誰も彼もが、自分の目と〈イン・ジ・アイ〉双方で、これから始まる模擬戦を観戦しようとしている。
○
「ほら、
深羽の視線の先を追って、
制服を脱いで、体育着やジャージならぬ〈駆除用作業着〉に身を包んで。
生徒が着用するのはカスタム・メイド品で、それぞれ極秘の〈特能〉を有しているそうだ。
月穂の駆除用作業着は、淡いレモン色を基調としたもので、レオタードにスカートが付属したようなデザインだった。
余計な空気抵抗や摩擦が起こらないように、ぴったりと
左手首と足首に鈴が揺れて、チリチリ鳴る音がここまで聞こえてくるようだった。
その月穂の前に、半透明の小さな粘液状の物体が現れた。
真っ青なアメーバを思わせるドロドロとした形状のそれは、――ブルー・スライムだ。
遠目からは、立体映像なのか模造体なのか、それともまさかのホンモノなのかまではわからない。
さあ――《人類の敵》駆除科模擬戦が、始まった。
○
(――結構やるじゃん、
無限に分裂して増えていくブルー・スライムを、
〈イン・ジ・アイ〉には、積み上がっていく
月穂の討伐数を眺めていると、そこから、クラス全員分の累積討伐数にアクセスできることに気がつく。
すると、お遊戯でも眺めているみたいに
「スライム系の敵を相手にする場合、分裂速度より速く殲滅することがなにより優先されます。
近距離の敵を相手にするのには向いてませんが、ブルー・スライム程度なら問題ないはずです……あら?」
太鼓判を押したはずの
ブルー・スライムに囲まれ出した
けれど、すぐに目を逸らす余裕はなくなって、戦闘に集中を戻した。
「え……? え、えええ?
なんであんなに、分裂スピードが速いの?」
七緒がおろおろしている間にも、ブルー・スライムが鼠算式に膨れ上がっていく。
七緒の左眼に、〈イン・ジ・アイ〉の偏光が浮かぶ。
急いで情報を閲覧し、七緒は叫んだ。
「やだ……! プログラム難易度が書き換えられてるわ! どうして……⁉」
(――って、暢気にんなこと言っている場合か!)
悠長な七緒の対応に、
考えるより先に、急いでの前の対衝撃特殊ガラスの窓を開ける。
「え……⁉ ちょっと、神埜さん⁉」
「――
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第六話まで読んで頂き、ありがとうございます。
第七話は明日公開する予定なので、引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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