●第四話● お嬢様学校という名の監獄
とはいえ、である。
ぶっちゃけ、
〈イン・ジ・アイ〉に渦巻く情報の坩堝に頼らずとも、日本人なら常識だ。
その苗字は日本を代表する
確か、
おそらく斎院
そんな風にごちゃごちゃと考えていた、その時だった。
「――
(……いや、だからさ。ちょっとは待ってくれよ、マジで。
「神埜さん? 大丈夫?」
黙りこくっていると、長い髪を後ろできっちりと纏めた七緒が、顔を覗き込んでくる。
「もしかして、具合でも……」
「……い、いえ。大丈夫……」
(な、ワケあるか。今にも卒倒しそうだっつーの!)
女だ。
どこを見ても、見事に女だらけ。
女たちが、山のように連なって
それも、どこかで見かけたことのあるような顔がちらほら。
間の抜けたバラエティや音楽番組じゃなく、お堅いニュースの端っこで見かける少女たちだ。この教室には、有名どころのお嬢様方が集まっている。それも、報道に乗るレベルの。
知らない顔も、蓋を開けてみればきっと腰が抜けるような名家の娘なんだろう。
なんてこった。
「……どうも、神埜デス。よろしく」
やっとのことで
「神埜さんは、中学校までは普通の学校に通っていました。
皆さんは幼稚部から
――特に、我が
クラスで一丸となって、彼女をサポートしていきましょうね」
七緒が両手をきゅっと握って言うと、
「「「はぁいっ!」」」
爽やかな返事が、何十奏にもなって教室中から帰ってきた。
ここは幼稚園か? と、思わず突っ込みたくなる雰囲気だった。
ニコニコ笑って、保母さんみたいに七緒も頷いている。
なんだろう、このやたらと現実離れした牧歌的な空気は。
今日から
○
……それからしばらくの間、教壇の前で公開処刑が続いた。
「はいはいはぁーいっ! 神埜さんは、誕生日はいつなんですか?」
「血液型は? 趣味は?」
次々に手を挙げるお嬢様達から、
「……えーと。五月二十日生まれ、双子座のAB型。趣味はゲームと勉……読書。特技は――」
個人情報を山ほど話して、やっとのことでお許しが出ると、
(――誰も見るな、俺を見るな)
拳を握りしめて眉間を寄せながら念じたのが通じたのか、クラスの注目はすぐに教壇に移った。
しかし、ホームルームが始まってしばらくすると、肩をツンツンと叩かれた。
「……?」
顔を上げてみると、隣の席の女子が
肩に届く程度に伸ばした髪を切り揃えた彼女は、ちょっと笑ってこちらにぺこりと会釈してきた。
「あ……」
無視、はないよな。さすがに。
「ども」
目立たないように、
口許に指を伸ばした手を当てて、その子は囁き声でこう言った。
「はじめまして、神埜さん。あたし、
あのね、
だから、
神埜さんのことは、なんて呼べばいい?
「あ……、ええと」
一瞬、戸惑う。
呼称問題か。
通りのいいあだ名なら持っている――〈あの天才・神埜
生まれてこの方、どこへ行っても天才系変態妹の名がついてまわる人生である。
が、当然ながらちっとも気に入ってない。
少し考えて、
「……じゃあ、ハルで」
「ハル?」
「そう。ハル」
家でも学校でも、〈ハル〉なんて呼ばれたことはない。
けど、
月穂は、こくんと頷いた。
「わかった、ハル、ね。
ハルは、
あたしも最初そうだったよ。
でも、大丈夫。
皆お家は凄いけど、案外普通の子たちばっかりだから。でも、家も含めて一番普通なのは、たぶんあたしだけど」
ここは笑うところなのかどうか、月穂は小さく〈えへへ〉と笑い声を立てた。
笑うと、目がなくなってしまうような優しい顔だった。
とりあえず
すると、ふいに壇上に立つ七緒と目が合った。
けれど、今日だけは特別ということか、七緒は片頬で微笑み、すぐに
「……これから仲良くしようね、ハル」
「そう……、だ、ね……」
頷きながらも、
(……なんだろう、これ。女の子って、こういうもん?)
この
それとも、親身に見えてアレか?
しばらくすると便所に呼び出されてシメられたり、集団でシカトされたり、悪口を書いた小さい紙がまわってきたりするのだろうか。
……なんだか、考えたくない。
すると、ふいに一時間目開始を告げるチャイムが鳴った。
それは――、本格的にこの
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第四話まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
第五話は一週間以内に公開する予定ですが、ちょっと込み入った世界観の説明だったりするので、さらりと読み流してもらえたらと思います。
一応続きの話と一緒に公開するつもりです。
引き続き読んでいただけたら本当に嬉しいです!
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