●第三話● こんな美少女、現実にいるんですか?
「……童貞切れったって、こんな体でどうしろっていうんだよ。チキショウ……」
いや、こんなトコロでそんないかがわしいこと、する気はないけども。
とにかく、だ。
なぜコッチについてなきゃいけないモノがアッチについてて、アッチについてなきゃいけないモノがコッチについてるのか――早急に謎を解明しなければ。
そして、一刻も早くこの学校を脱出し、それから体の異変を戻して、なんとかしてアメリカに行って、
とりあえず、今
晴矢たち双子の〈イン・ジ・アイ〉をあの悪魔が魔法のような超技術によって悪用し、意識の交換を行った。
つまりは、現実の
……しかし、それをどう是正するか――解決の取っ掛かりさえ、浮かんでこない。
すると、ふいに、誰かが
「――どうてい……。
〈僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる〉。
……そうですよね。桜ノ宮女学院の生徒になったんですから、自分の道くらい自分の力で切り拓かなくては。
ふふ――綺麗ないい言葉です」
「……えっ⁉」
ぎょっとして隣を見ると、いつの間にかそこには、
「な、なに……?」
「え? あの、今、〈
一瞬思考が停止した後で、高村光太郎が誰であったか、〈イン・ジ・アイ〉ではなく
理系はともかく、文系は好きじゃなくてあまり勉強してなかったから焦った。
けれど、これでも
「……あ、ああ、どうていか! う、うん、言ってたよ。童貞切……、じゃなくて! 〈道程〉が綺麗、ね。高村光太郎が書いた詩のことだよね、うん」
「〈道程〉は、こんな日にはぴったりな詩ですね。
なんだか、あなたとは気が合いそうです。
そう言って、彼女は――柔らかく、とても柔らかく、微笑んだ。
「……」
その笑顔を見て、
(――広告動画の、あの子……?)
印象的な無音のあの広告動画に出ている少女の顔は、はっきりとは画面に映らない。
だから、確信はなかった。
だけど――目の前に立っている女の子は、彼女に似ている気がした。
脳裏に、
妹は病的な大嘘つきだが、この桜ノ宮女学院の生徒が美少女揃いというのは、真実だ。
……いや、真実以上だった。
少なくとも、今目の前にいる女の子に限っては。
淡雪のように繊細で真っ白な肌に、潤んだ大きな黒い瞳。
さくらんぼみたいにぷっくりした、愛らしい唇。
瞬きをするたびに、長い睫毛が小鳥の羽ばたきのように軽やかな音を立てるよう。
そして、腰まで届くふわふわの長い髪。
こんなに綺麗な女の子が、現実にいるなんて――……。
彼女は、
「あの……。お名前、訊いてもいいですか?」
「えっ?」
「あなたのお名前です。
この
……あ、でも人に名前を訊く前にまず自己紹介からですよね。
わたし、
「
彼女は頷き、膝を折ってスカートの裾を摘まむと、優雅に会釈した。
「お見知りおきをお願いいたします。
あの、それで、あなたのお名前は?」
「あ、ああ。俺は……じゃなくて、ボ、ボクは、
神埜
何度も不自然につっかえながら、なんとか
が、この男子禁制の全寮制女子高で中身が男だとバレたら、たぶん凶悪犯罪者として即刻逮捕される。
だから、偽名を名乗るのも致し方ない。
致し方ないはずだ。
つまりこれは、正当防衛の嘘。
許されて然るべきであって――という具合に
「神埜
「あ……、そ、そう?」
優しく褒められて、なぜだか
「先生から聞いたんですが、わたしたちは今日から同じクラスです。
わからないことがあったら、なんでも聞いてくださいね」
彼女は、
思わずギョッとする――距離の詰め方が、妙に近い。
吐息が今にもかかりそうだった。
(……女同士って、いつもこんな距離感なの?)
物心ついた頃から最先端の教育を受け、超進学校の小中学校へ通っていた
男同士なら暑苦しすぎて、こんなのはあり得ない。
動揺の渦中で、ようやく
「あ、う、アリガトウ……斎院さん」
「それじゃ、とりあえず職員室に行きましょうか。神埜さん」
そう言って、彼女は自然な仕草で
「!」
女の子と、手を繋いでいる。
こんなことは、生まれて初めてだった。
緊張と驚きで手も指も一切動かすことができない
「さあ、こっちですよ」
出来の悪いロボットにでもなったみたいにぎこちない動きで、手を引かれるままに
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第三話まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
第四話も引き続き読んでいただけたら嬉しいです!
ぜひよろしくお願いします!
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