第4話 異世界言語


異世界こっちの言葉を……話せる? 」


 自分が異世界の言葉を理解していることに驚く。

 不思議な体験だった。

 いきなり母国語が一つ増えたような感覚だ。


「当然だ。この道20年の大ベテランであるワシが、魔法で共通言語を坊主の記憶に転写してやったんだからの」


 驚く僕を見て、占い師風のおじさん改め、魔法使いのおじさんはドヤ顔を披露。

 どうやらこちらの言語を話せる魔法を僕に使ってくれたようだ。


「てんしゃまほー……?」


「なんだ坊主、転写魔法を知らないなんざどこの国の出だ? 共通語を知らぬぐらいだから、相当な辺境から来たようだが?」


 おじさんが怪訝な顔をする。


「いえ、まあ……なんと言うか、もの凄く遠いところから来たんですよ。たぶん」


 なんせ別の世界から来たからね。


「ほう。別の大陸の者か? 言い辛いなら無理に言わんでいい。だからといって値引きはせんがな。さあ、坊主の腕輪を渡してもらおうか。渡さないなら詐欺師として衛兵に突き出すことになるぞ」


 魔法使いのおじさんが僕に右手のひらを見せ、お代を要求。


「渡す前に確認しておきたいんだけど、その転写魔法とかいうのは時間制限とかあるのかな? 効果が切れたらまた言葉がわからなくなる、みたいな」


「心配せんでいい。転写魔法は坊主の記憶に直接焼き付ける魔法だ。故に解呪もできん。何年経とうが坊主が死ぬまで消えることはない」


 おじさんの言葉を信じるならば、半永久的に効果が持続するようだ。

 僕は腕時計を外し、おじさんに渡す。


「はい、これでいい?」


「うむ。確かに受け取った。それにしても珍しい腕輪だのう。水晶まで使っているのか? この精巧な作り。さぞや名のある職人の物に違いない」


 ニタリと笑うおじさん。

 お代以上の物をゲットしたぜ、とでも思っているのだろう。


 けれどもそれは僕も同じだ。

 この世界の言葉をネイティブレベルで話せるようになるだなんて、4万円じゃ安すぎるぐらいだ。


 駅前留学だってもっと高いもんね。

 そんなことを考えながら、したり顔のおじさんを見つめていると、


「……なんだ坊主? この腕輪はもうワシの物だ。返せと言っても返さないからな」


「いやいや。返してくれなんて言わないよ。でも、そうだなー……うん。ついでにこの世界……げふんげふん。このについていくつか教えてもらえるかな?」


「この国のことを? 共通言語も知らないぐらいだからな。いいだろう。坊主がこれ以上苦労せんようにワシが手を貸してやろう。何が知りたい?」


「じゃあ、まずは――――……」


 それから僕はおじさんに色々と質問をした。

 あまりにも色々と訊くものだから、終盤は顔をしかめるほどだった。

 けれども、そのおかげでこの世界についていくらか知ることができたぞ。


 まずは現在地。

 僕がいまいる街は領都アルタテといって、セナル王国の西に位置する都市なんだそうだ。


 街の中心にそびえ立つのは領主の城で、領主の伯爵をはじめ、ご家族や身分の高い方々が住んでいるのだとか。

 城下町っぽいとは思ってはいたけれど、本当に城下町だったんだな。


 次に通貨。

 この国は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の七種類があり、国ごとに貨幣が違うそうだ。

 この質問をしたとき、おじさんはドン引きしたような顔で、


「この商売をはじめて長いが、ここまでカネのことを知らない奴に会ったのははじめてだぞ」


 と言っていた。

 なので所持金をこの国の通貨に両替しようとしたら、財布ごとスられてしまった、とごまかしておいた。


 ちなみにこの国でおカネを稼ぐ手段を訊いてみたところ、肉体労働系のバイトはいくらでもあるとのことだった。


 日当がだいたい銀貨1枚とのことだったので、日本円に置き換えると銀貨1枚で6000円~1万円ぐらいかな?


 ついでに読み書きについても訊いてみる。

 転写魔法で得られる知識は『会話』のみ。

 文字の読み書きは自分で勉強しろと言われた。


 なんでも言葉と違って文字を転写するには、より複雑な魔法が必要になってくるそうだ。

 ただ、高位の魔法使いなら文字の転写も出来る人がいるとかいないとか。


「なるほどなるほど。最後にもう一個だけいい?」


「……ま、まだ訊きたいことがあるのか?」


「お願い。これで最後だから」


「本当に最後だぞ」


 うんざりした顔で念押ししてくるおじさん。


「この街で物品の買い取りをしているところってあるかな?」


「ほう。買い取りか。坊主の持ち物を売ろうというのか?」


「当面のおカネを得るには、働くより所持品を売った方が早いかなって思ってさ」


「……ふむ。こんなにも上等な腕輪を持っていたぐらいだからな。他にカネになりそうな物があるなら、商人のところに行かずともワシが買い取ってやってもいいぞ?」


 そう訊いてくるおじさんの顔は、道行く女性を狙うナンパ師のようだった。

 この顔。安く買い叩く気でいるな。


「ありがたい申し出だけど、この街の商人とも顔を繋いでおきたいんだ」


「……そうか。商人なら南地区にいくらでもおるぞ。だが彼奴らには気をつけるんだな。彼奴らはこっちの足下を見て――――……」

 

 この後、僕はおじさんから愚痴っぽい話を30分ほど聞かされることに。

 いろいろあったけれど、僕はこうして『異世界言語』を習得(?)したのだった。

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