第2話 ここ・イズ・どこ?

 僕はスマホの画面をタップした姿勢のまま、異国情緒溢れる街へと投げ出されてしまった。

 周囲は石造りの家が建ち並び、500mほど先にはヨーロッパ風のお城がどーん。

 城下町なのか、目の前をファンタジー味あふれる格好をした人たちが通り過ぎていく。


 青色の髪をした女性。緑色の髪をした男性。

 ここまではまだわかる。

 東京じゃたまに見かけるしね。


 樽のような体型をした髭面の中年が通り過ぎる。

 ひょっとしてドワー……いやいや、まさか。

 ちょっと中年太りが過ぎただけだろう。


 甲冑を身につけた一団が通り過ぎる。

 て、手の込んだコスプレかな?

 近くでそれ系のイベントがあるとか?


 ネコ耳の女の子が目の前を通り過ぎる。

 ……ギリ。ギリわかる。

 ネコ耳は可愛いもんね。つけたくなるもんね。

 秋葉原のコンカフェの客引きでよくいるもんね。


 けれども――


「あの人、頭部が完全に犬なんですけど?」


 こんどは頭部が犬の男性(たぶん)が通り過ぎ、続いて人型のトカゲが通り過ぎ、おまけで二足歩行する虫(?)が通り過ぎ、僕は頭を抱えることになった。


 わからない。

 ここがどこなのか、ぜんぜんわからないよ。

 じーちゃん助けて!


「え? なんで? なんでこんなことになってるの!? 夢? 幻覚? 僕、疲れてるの?」


 軽くパニック。

 理由があるとすれば――


「これか? この『異世界へGO』が原因なのか?」


 ゲーム画面をタップした瞬間、僕はここに立っていた。

 ひょっとしてマンガやアニメなんかである、『ゲームの世界に閉じ込められてしまう系』のやつだろうか?


 それとも異世界転移?

 どちらにせよ、事前説明ぐらいあってもいいでしょうが。


「ど、どーすれば元の世界に戻れるんだよ!」


 パニックからそう叫んだ瞬間だった。


――ティリリリリリリンッ♬


 スマホが鳴った。

 画面を見れば、『母さん』の文字が。


「……電話?」


 ――繋がるのか?


 震える指で通話ボタンをタップ。

 スマホを耳に当てる。


「……もしもし」


『あ、怜央。引っ越しは終わった?』


「母さん? マジで母さんなのっ!?」


『なーにその反応は? オレオレ詐欺――あ、この場合はお母さん詐欺かしら? やーね。詐欺の電話だと思ったの? それとも母親の声を忘れちゃった?』


 マジで母さんだった。

 僕はファンタジー全開な世界にいて、目の前をトカゲ人間が通り過ぎているのに、いま千葉に住んでる母さんと電話してるよオイ。


『前に勤めていた会社の事情は理解しているわ。お父さんにはわたしからうまく言っておくから、怜央はお爺ちゃんの家でゆっくり過ごしなさい』


「か、母さん! 大変なんだ! ぼ、僕いま異世か――」


『あ、ピンポンが鳴ったわ。きっとmamazonに頼んでいたものが届いたんだわ。じゃあね怜央、また電話するわ』


「あ、まっ――」


 待って、と言う前に切られてしまった。

 すぐにかけ直そうとして――スマホの電波がフルで立っていることに気づく。

 それも5Gで。


「……電波が繋がってる?」


 試しにブラウザアプリを開いてみる。

 余裕で繋がった。


 普段使っているショッピングサイトにニュースサイト。

 それどころか、SNSや動画サイトにだって繋がった。


「よく分からないけれど、この世界でもスマホが使えるってことはわかった」


 周囲を見回す。

 やっぱり全力全開で異世界している。


「ふぅ」


 よし。やっと落ち着いてきたぞ。

 再びスマホに目を落とし、『異世界へGO』アプリを再度開く。

 画面にはデフォルメされたお城が拡大され、その中にドット絵でデフォルメされた男性キャラが笑顔でピコピコ手を動かしていた。


「ひょっとして……このキャラが僕?」


 自分のキャラ(?)をタップしてみる。

 すると、


【元の世界に戻りますか? YES/NO】


 と表示された。

 僕は迷わず【YES】を選択。

 次の瞬間には、


「……戻った」


 じーちゃんの家に戻っていた。


「……」


 もう一度、画面のお城をタップしてみる。

 一瞬で異世界(仮)へ。

 スマホをタップし、またまたじーちゃんの家へ。


「はいはいはい。なるほどね」


 何度か繰り返すことによって、やっと『異世界へGO』のことがわかってきた。


 まず、この『異世界へGO』を使えば、僕自身があるいは異世界(仮)へ行けるということ。


 次に、異世界(仮)に行っても普段通りスマホが使えるということ。


 最後に、じーちゃんの家と異世界を行き来するには回数制限があること。

 けれどもこの回数制限は、時間経過と回復すること。だって『回復まであと57分』って表示されてるし。


 つまりこの『異世界へGO』アプリを使えば、いつでも異世界(仮)に行くことができる上、スマホも普段通り使えるということだ。

 となれば、だ。


「日本と異世界を行き来して満喫……いや、異世界でのことを動画投稿サイトにアップしたり、なんなら異世界から配信することだってできるんじゃないか? 5Gだし」


 そして、投稿した動画サイトでおカネも稼げるのではなかろうか?

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