第18話 UD
リライの頭の上にある混沌はあの時の自分とアルテミスのようだ。
記憶をなくしたオレと、オレを守るために存在するアルテミス。
同じように混沌はリライを守るために存在しているのではないだろうか。
だが何かおかしい。
ルナイの話ではリライは太陽。
月の雫のようにムーンフォレストに降り立った光を受け止めた混沌とは違う、別の存在ではないのか?
もしそうなら……
「おまえに名前をやる。お前の名はエクリプス。深淵の闇、光を覆う混沌」
エクリプス?
それがぼくのなまえ?
「ああ。人間は弱くて脆い。俺たちは常に迷い悩み、少しずつ前に進むんだ。光と闇だけじゃないんだ、エクリプス」
「ひかりとやみ、だけじゃない?」
「そう。赤の国の民はオレが、王がいない間、進むべき道を探していたんだ。もちろん皆が正しい道を進めるわけじゃない。ま、赤の国だけの話じゃないけどな」
クレタの話を聞きながら、頭の上のクラゲのようなエクリプスはゆらゆらと揺れている。
「でもリライが……」
「大丈夫、リライも一緒だ。オレの隣にいてくれないか? 一緒に赤の国の民みんなのことを見守ってほしいんだ」
「でも、でもにんげんはかってで、ぼくからなにもかもうばっていったよ!」
エクリプスから黒い靄が伸び、リライの周りに黒い靄が広がる。
エクリプス自身、自分の力をコントロールできていないようだ。
「なあ、リライ。君は世界を見て回ったんだよね?」
「あ、ああ」
突然のクレタの質問に戸惑うリライを見ながらクレタは続ける。
「そこで多くの人たちの争いや怒り、妬み、悲しみを見てきたんだよね」
「そうさ。だから僕は絶望したのさ」
「うん、オレもそうだった。だけどな」
リライを見つめるクレタの髪が金色に変化していく。
「なにもかもを飲み込んでしまってはだめなんだ。そしてそのために誰かを供物として捧げさせるなんて許されることじゃないんだ」
クレタの身体から炎風が巻き起こる。
それを察知したエクリプスはリライを守るために黒い靄でリライを包み込む。
クレタはゆっくりと黒い靄に近づいていき、炎と黒い靄がぶつかり合う。
「もう終わりにしよう、リライ。君にもわかっているはずだ。オレの炎は
烈しくぶつかり合う炎と黒靄の中でリライに変化が起こる。
ルナイと共に過ごした日々。ムーンフォレストの恵みの中にいる人々。
「……リプス、エクリプス。ごめんよ」
「え? リライ、どうしたの?」
「僕の、僕のせいなんだ。君を巻き込んでしまった。僕は、僕の中に混沌を作り出してしまったんだ。エクリプス、君は僕だ」
リライの告白と共にエクリプスの黒い靄は小さくなりクラゲの形もなくなってリライの周りをふわふわと黒い光を点滅させながら飛んでいる。
それを見たクレタの炎もおさまり、髪の色も元に戻っていく。
「リライ。生贄にされた人たちを元に戻して。そして、オレと、みんなと一緒に一度、赤の国に戻ろう」
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