第10話 KKモントレイユ

 オレは怒りが込み上げた。

 オレは赤の国の王であり、ムーンフォレストのあるじでもある。国のために何が最善か考えることは大切だ。

 しかし、その前にオレはセレナの兄だ。助けを求めている妹を救うことができなくて、何が国民を守るだ。

 薄っぺらい言葉を重ねて何もしない王など国民は求めていない。自分のためとか、王家のお家騒動ばかりに躍起やっきになっている王など国民は必要としていない。

 今は海の化け物に苦しんでいる人たちを救うのが王ではないか。目の前の災厄に苦しんでいる人たちが見えていなくて誰の王だ。苦しんでいる国民を一刻も早く救わなくてはならない。

 オレがセレナを守れるか、全国民が見ている。


「セレナ、必ず君を守る。化け物のことを知らなければならない。オレに協力してくれる信頼できる者を集めたい」

 そこへバートがやって来た。

「クレタ様、お手伝いさせて頂きます。このバートが信頼できる者を急ぎ集めます」

「ありがとう。バート」

「クレタさま、こちらへ」

 バートが二人を案内する。城の中は敵に攻められたときのために、いろいろな抜け道やここに住んでいる者でも知らない部屋がたくさんあった。

 たどり着いた部屋の扉を開けると数人の側仕えがいた。

「ここは?」

「ここはカルロ様やフィオレ様も知らない部屋です」

 石壁の部屋で城のどの辺りなのか分からないが窓から城外の景色が見える。

 礼拝堂のようにも見えるこの部屋は城内の者からも見つかりにくい構造になっているらしい。


「クレタさま、ここはかつて、ダイアナ様に仕えていた者たちが控えていた部屋でございます」

 バートが天井を指差した。

 天井を見上げたクレタは、今までの不安が一瞬で消え去った。

「母上」

 そこには美しいダイアナの肖像画が描かれていた。クレタの瞳に涙が浮かんだ。

「ここには今もダイアナ様にお世話になった者たちが集まっています。あなたの味方です」

「バート、ありがとう」

「必要なものは私たちに申しつけください」

「情報、情報が欲しい。化け物の情報。そして、信頼できる強い仲間……」


 その時、バン! と扉が開いて一人の少女が入ってきた。誰だ……一瞬、全員に緊張が走った。

 月光のような長い髪と夜のあおを集めたような瞳。白いドレスに身を包んだ少女が現れた。

「君はルーナジェーナ、どうやって、ここに」

 セレナもバートも信じられないという表情だった。

「お久し振り。お困りのようだから。心の回廊がつながっているの」

「でも、どうやって誰にも見つからず」

 ルーナジェーナは人差し指を立ててクレタの目の前でくるっと手を回した。すると、まるで周りの景色が歪むように旋回した。一瞬めまいを感じた。


 その時、バン! と扉が開いて一人の少女が入ってきた。誰だ……一瞬、全員が振り返った。

 月光のような長い髪と夜のあおを集めたような瞳。白いドレスに身を包んだ少女が現れた。

「な、何をした!」

 クレタもバートも何が起こったか理解できなかった。セレナも目を丸くしている。

「ほんの少し時間を操れるようになったみたい」


 アルテミスがくるくる回って喜んだ。




 書き手:KKモントレイユ https://kakuyomu.jp/users/kkworld1983

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