第18話 西しまこ
クレタはムーンフォレストの民が封じたという伝説の剣をダークエルに振り下ろす。
そうだ。
この剣は「月の剣」。ムーンフォレストの王だけが使える剣。
ムーンフォレストの番人、ルーナジェーナが欠けた記憶を取り戻したように、クレタも「欠けた自分」を取り戻しつつあった。姿がムーンフォレストの王のものとなり、世界に干渉する力を取り戻し――損なわれていた、「王としてのクレタ」が修復されつつあるのを感じた。
「クレタさま、危ない!」
ルーナ――アルテミスの声で、後ろに下がる。
ダークエルの催眠の力によってクレタを狙う木の根がすぐ目の前に迫っていた。クレタはそれを薙ぎ払い、ダークエルに向かう。
「どうして、お前なんだ! お前が八年も放置していたから、ムーンフォレストの怒りが黒の国に悪しき力を及ぼしたんだ! お前のせいで」
ダークエルの悲痛な声が響く。ダークエルは宙に浮いて、クレタを狙う。クレタは力と「月の剣」を使い、ダークエルの攻撃をかわしつつ、ダークエルに迫っていく。
美しい地下神殿は大きな音を立てて無残に破壊されていく。
黄の国の女王スファレ・ライト、ムーンフォレストの番人のルーナジェーナ、そして前ムーンフォレストの王ダイアナの意を識るルーナはドラゴンの背から、その様子を見ていた。青の国のハレーは崩れかけた神殿の足場が残っているところになんとか立っていた。
「ムーンフォレストと黒の国の境界付近の村にいた、私の母はそのせいで死んだのだよ! お前が、自分の責務を果たさないから! 私は……私にも、黒の国の王の血が流れているんだ。だったら私がムーンフォレストの王となってもよいだろう? クレタ! 全てお前のせいだ!」
硬質な音がして、クレタの剣の刃が太い樹木の根に当たった。
「クレタさまのせいではありません! クレタさまは、ご自身の一部を先代の王アルテミスさまと一緒に氷柱に封印されていたのです!」
ドラゴンの咆哮とともに、ルーナジェーナの声が響いた。
「王から王へ受け継がれる、ムーンフォレストの記憶もな」
黄の国の女王スファレが言う。
ダークエルの顔が奇妙に歪んだ。
「ダークエル。おぬし、限界が近いのではないか?」というスファレの言葉に、ダークエルはかっと目を見開き、黒い靄をいっそう黒くしてさらに靄を辺り一面に拡散させながら、四方八方に木の根を飛ばした。ダークエルの目からは血が流れていた。
クレタは張り巡らされた木の上を駆け、ダークエルに向かった。
「月の紋章」を取り戻し、姿を真の姿に変容させ力を取り戻し、「月の剣」をも得た。クレタはもうすこしで自身の封印が解けるのを感じた。
「クレタさま!」
そのとき、ルーナがクレタの方に飛んできて、クレタの肩に乗った。
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