第17話 月森乙

「くっ……!」


 ダークエルは唇をかみしめた。そして、クレタたちを見ながら何か口の中でぶつぶつと言葉を唱え始めた。


 ゴゴゴゴゴ。


 小さな振動。


「何事……⁉」


 最初に気づいたのは黄の国の正統な王家の血を継ぐ、と言われている女性だった。


 キャアアアアアアアアッ。


 ドラゴンが悲鳴を上げた。女性は地面に下ろされたドラゴンの翼に足をかけ、背中まで一気に駆け上がった。


「みんな、早く!」


 その間にもダークエルは体を丸め、滴る血もそのままに両腕を胸の前で組んだ。口の中でつぶやく言葉が大きくなり、それにつれて振動が大きくなる。


「ジェーナを先に!」


 ルーナを抱えたジェーナを先に登らせる。


「クレタ様!」


 ジェーナがクレタに手を伸ばした。

 クレタがドラゴンの翼に足をかけた時だった。


「させるかああああっ!」


 地面が大きくかしいだ。

 ドラゴンはバランスを崩し、そのまま大きな翼を広げて宙に浮いた。


「ああああっ!」


 クレタもバランスを崩して床に転がった。


「クレタ様!」


 ハレーがクレタに駆け寄ろうとするも、ふたりの間の地面が割れた。ハレーはその場で立ちすくんだ。

 その間にも轟音を上げ、地面がひび割れていく。

 ダークエルは黒い靄をまとい、地面からふわりと浮いていた。冷たい笑みを浮かべ、クレタを見つめた。


「おまえだってわかっているのだろう? 自分にムーンフォレストの主となる力も、そのような器も備わっていないこと。選ばれたのが何だというのだ。わたしはこの八年間、力を蓄え、この時を待ち望んでいたのだ! 選ばれし者に資格がなければ、奪い取るのみ。……大人しく、月の紋章を渡すのだ!」


 ダークエルが両手を広げた。


 ガラガラガラ。


 天地がひっくり返るような揺れ。神殿の床が、壁が、崩れていく。クレタは崩れるがれきに足をかけ、高く飛んだ。


「お前なんかに、渡したりはしない!」


 そして空中で、持っていた剣を正眼に構えて振り上げた。


「お前の様なものを、ムーンフォレストの主にしてたまるかああああっ!」




書き手:月森乙 https://kakuyomu.jp/users/Tsukimorioto

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