第13話 結音(Yuine)

 静けさが、冷たさを増す。


「クレタさまが『月』を解放されました」

 暗闇の中に、ルーナの機械音。

「・・・・・・以上が、報告になります」

 

 「ありがとう、アルテミス」

 女の人のやさしい声。


「あ。今は、ルーナと呼ばれております」

 「そうなの?」

「クレタさまが、命名してくださいました」

 「まあ!」

 ふわり、と。

 甘い香りがルーナを包む。


 「では、アルテミス。否、ルーナ。これからも、クレタを頼みますね」

「もちろんです。ダイアナさま」


 氷柱に閉じ込められた女神。

 動かせないはずの身体で、やさしく微笑んだかのような幻影。

 かろうじて届けられる声は、クレタへの慈愛に満ちて。


 ルーナは、女神ダイアナを刮目する。


 クレタの覚醒した姿が、

 氷柱に閉じ込められた女神と酷似していることは、

 今はまだ この暗闇の中に閉じ込めておこう。



 ムーンフォレストの奥深く、

 忘れ去られた地下神殿の 祭壇裏に閉じ込められた 女神ダイアナ


 その力を制御させるために氷柱に囚われて。

 わずかな力で、アルテミス改めルーナを操って、クレタを解き放ったのに……






「ルーナ、これは一体どういうことなの?!」

 クレタの声を、ルーナが感知する。


「では」と、微笑むはずのない 囚われの女神に一礼して、

 ルーナは本体へと意識を切り替える。


 甘い香りは何処にもない。



 斬撃の ぶつかり合って 焦げた 匂い。



 ルーナは、機械音でこたえる。

「クレタさま」


 目の前にいるのは、女神ダイアナではなく、クレタなのか。

 錯覚によるバグを抑制しながら、

 ルーナは、クレタをもう一度見つめた。




書き手:結音(Yuine) https://kakuyomu.jp/users/midsummer-violet

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