第12話 十六夜水明
神殿の空気は、ピリピリとした緊張を含んでいた。
その緊張は感性的な物ではなく、オレを中心に稲妻のようなものが駆け巡っている。
それは、時を刻むごとに範囲を広げ、遂には黒髪の男の手前にまで達していた。ハレーやジェーナがその稲妻に触れても何もないということは、どうやら味方には影響ないのかもしれない。
にしても……。
なんか、みんなオレのことを遠まわしに見てない?なんか変なものでも見るような引き具合じゃん?なんだよ、その自分がどうなってるか見てみろよみたいな感じの目。
どれどれ……。……。……。……!?
「ッ?!」
なんか、すっごい髪伸びてるし金髪になってないか?服だってなんかシルク質の‟魔法使い”みたいなローブになっている。キラキラしているように見えるが、月光石を散りばめているようだ。
なんか、今のオレなら何でもできそうだ。
そういえば、あいつ何者なんだ。
「……お前、黒の国の者と見るが名は何だ」
「ッ?!」
……、へぇ?なに、これ。今の俺が言ったの?なんか、雰囲気違くないか? 黒い男なんて、さっきまでの気弱さは、どこへ行った、といわんばかりに目を見開いている。
「これは失礼。
なんか、体が自分ものではないみたいだ。声色もいつもと違うし、変に堂々としている気がする。オレ、本当にどうしちゃったんだ?
「ダークエル……ですって?」
「知っているんですか?」
「……えぇ。まぁ」
ジェーナは、どうやら黒髪の男の性に聞き覚えがあるらしい。
と、そんなことはどうでもよくってさ。なんか、体がうずくんだけど、大丈夫そう?
「挨拶は程々にして、月の紋章を渡してはいただかませんか?無駄な争いは避けたいのです。それは元々は我々が手にするはずのものですから」
「手を引く、とは言わないのだな」
「……っふ。あたりまえでしょう」
社交辞令のような薄っぺらい笑みを張り付けている様子から、そんな気はさらさら無いらしい。
今、手放した方が絶対に楽だと思う。でも、それはしてはいけないって右腕にある月の紋章が訴えているように感じるのだ。
「こちらとて、そう易々と渡さぬよ」
口が勝手に言葉を発する。
「では、力尽くで奪うのみです……!」
そう口にした黒の国の男‐グリフ・ダークエルは、右手を前へオレに向かってかざした。
「▲sywg……▽▲wg▽lhs……」
何かの呪文を唱えているのだろうか…………。
「っ?」
男の動きに違和感を覚えたオレは、男の右腕に意識を集中させた。そして、
ッピュン――――。
男の右手からレーザーが放たれた。
そのため、その攻撃を防ぐようにオレは、レーザーに向かって左手を前に出す。そして…………。
ッビュイン――――。
その左手を神殿の天井に向けると同時に、空間がねじ曲がったようにレーザーの進む方向がオレの前で天井に変化した。
「………やはり、月光の髪に夜蒼の瞳、、、それに、この力は、、、貴方が選ばれし者なのですね」
その男の言葉は、オレには届いていなかった。
書き手:十六夜水明 https://kakuyomu.jp/users/chinoki
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます