第11話 つくもせんぺい
何が起きてる?
男が現れてから、混乱と嫌な予感が消えない。
男はジリジリと近づいてくる。妖しく光る瞳に応えるように、ざわざわと神殿に伸びる木の根が来た道を塞いでいく。
「チィッ! 退路が! クレタ様、わたくしの後ろから離れないでください!」
「なんで木が勝手に!?」
「アイツ、たぶん黒の国の民。あの目で催眠を使ってる。ムーンフォレストはあなたに危害を加えたりしない。でも生きてるから、操れる」
淡々とした口調。でも頬に汗を浮かべながら、ジェーナはオレの疑問に答える。
「調査隊サマは理解が早くて助かる。ならこれの威力も分かるだろ? 大事な坊っちゃんを傷ものにされたくないなら紋章を渡せ。記憶がないらしいが、元はそれが望みだろう?」
男が腕を上げると、黒い蔓のようなものが巻きつき身体まで達していた。手首に砲身、さっきの光線の正体であることは予想ができた。
「させない!」
二人がオレの前に立つ。ハレーが先行して男に飛びかかるが、余裕の笑みを浮かべたまま男はそれをかわしざまに彼に蹴りを入れ、木に叩きつける。
「まだだ」
「止めとけ止めとけ。ほら、坊っちゃんもボーッとしてると仲間がやられるぞ? 早くよこしな」
嫌な感覚は消えない。ダメだ、二人では敵わないと、オレの中で警鐘が鳴り続けている。
身体が覚えている。一度戦ったりしたのか?
「もしかして、お前がオレの記憶を……。音もお前が──」
「ハァ、クレタさま。それは違いマス。記憶がナクナッタのは仕方がナイデスが、いい加減場にナガサレスギです」
疑問は手元から聞こえた声に遮られる。
「ルーナ! お前、大丈夫なのか?!」
「大丈夫ジャないですガ、ソノ内修復しまス。ソレよりも、王族とモあろうクレタサマが守られテばかり。情けナイ」
足をカシャカシャと鳴らし、ルーナはオレの頭に乗る。そして、何をすべきかよく見ろと変わらない呆れたような口調で言った。
何をすべきか? このピンチに? 守られているオレが?
ルーナは告げる。さっきまでとは違い、流暢に、言い聞かせるように。
「知らない方とハレーもいますが、クレタさまの調査はワタシと共に単独で来ました。なぜですか?」
問いかけ。そんな暇はないと言いたいけど、不思議とするすると考えが浮かぶ。
始めはオレ自身が守られるべき存在だと思っていた。王族だから。でも、違う。逆だ。
オレ自身でなんとかできるから、単独でいいと王族であるオレがきっと決めたんだ。
なら、どうして?
オレにあるモノ。月の紋章と……。
「ルーナ! オレとお前で、なんとかできるんだな?! よく分かんないけど!」
「……まぁ、良いでしょう」
ルーナに呼びかけると、ルーナはオレの右腕に移動して何本もの脚で手甲のように巻きつく。
背中のところが開き、小さな台座が現れる。
「クレタ、紋章を。何をするかイメージして。大丈夫、ワタシもムーンフォレストも、あなたを見守っています」
「……やってみる。ルーナ、なんだか母上みたいだ」
思わずそう言葉にしていた。
「ふふ」
無機質な口調のはずのルーナから、そう聞こえたのは気のせいじゃない。
紋章をルーナに置く。まばゆい光がオレを包んだ。大きな蝶の形を成し、舞う。
羽ばたきに合わせて、鐘の音が鳴っていた。
神殿に呼応する【音】。
「行くぞ! ハレー、ジェーナ! 離れて!」
オレは叫び、男に対峙する。
書き手:つくもせんぺい https://kakuyomu.jp/users/tukumo-senpei
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