第9話 西しまこ

 少女について、オレとハレーは道を進んで行く。

「ねえ、君の名前、何ていうの? オレはクレタっていうんだ」

「わたしは、ジェーナっていうのよ」

 ジェーナと名乗った少女は、愛らしく笑った。ジェーナは月光のような長い髪と、夜のあおを集めたような瞳をしていた。

 ジェーナはドレスをひらひらさせながら、歩いて行く。暗いトンネルのようだった道は、ジェーナが進んで行くと、ぽわっと灯りがともった。この道は、むき出しの土ではなく、整備された通路だった。かつんと足音が響く。そして、ジェーナの髪からは、月の光がこぼれているように見えた。

 

 ふいに、明るい場所に出た。

 そこは、白く優しい光に包まれた、神聖な場所のようだった。

「ここは?」

「ムーンフォレストの地下神殿よ」

 ふと見ると、祭壇のようなところに、水が入った革袋の刻印を同じ模様があった。まんまるの円の中で、大きく手を広げた樹。

 ふいに触りたくなり、誘われるように、祭壇のその刻印に、オレは触れた。

 すると、眩しい光が放たれ、思わず目をつぶった。

 光はしばらく神殿内を満たし、それからふっと消えた。


「やはり、あなたが、王の血筋を引いているものなのね」

 ジェーナが嬉しそうに言った。

「『月の紋章』も、喜んでいるわ」

 ふと気付くと、オレの胸で「月の紋章」も、光を放っていた。

 その光は温かくやわらかく、ときどき強くなったり弱くなったりしながら、何かを訴えかけているように見えた。


「ムーンフォレストは世界の源、命の源なのよ。そして、この森自体が生きているの。ずっとそうして、平和に暮らしてきたのよ。でも――」

 そのとき、また耳を引き裂くような大きな音がした。

「危ないっ!」

 ハレーが言って、オレはハレーに抱えられて地面に伏せた。

 顔を上げると、不敵な笑みを浮かべた男が立っていた。


「さあ、『月の紋章』をいただこうか」




書き手:西しまこhttps://kakuyomu.jp/users/nishi-shima

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る