第3話 十六夜水明

 それにしても、ここは本当にただの森だろうか。

 この森全体が、一つの生物のように呼吸しているんじゃないか?

 森に対して、そんな疑念を持ちながら足を進めていくと草原が広がる開けた場所に出た。

 穴から出てから、もう随分経っているのに頭の上のやつから起きる気配が感じられない。取り敢えず歩き疲れたから休むか。そう思って、入り口にある古そうな巨木に体を預ける。


「ふぅ」

 何かしなければならないとすると、この森の調査なのだが……。〖音〗ってなんだよ。今まで歩いてきたが、そもそも異常なくらいに音がしない。

 音、音、音……。

 …………。やっぱり何も聞こえない。

 森といったらやっぱり、川の音や生き物の鳴き声が聞こえてくるはずだ。


「…こいつ、噓言ってたりしないよな?」

 吐く息と共に呟き、頭の上で未だに静かな自我を持つ観測機にそっと触る。節足動物みたいに節のある小さな体。だからといって、生物のように温かみも感じないし、甲殻類の硬い殻よりも硬そうだ。


 ……石のモンスター?いや、そんなわけないか。ここでそんなのが居たら大変だよな。それにモンスターは、人と言葉を交わせない。あれは、石とは別のよくわからない物質のようだったし。


 まぁ、それは後で考えるとして……

「喉、乾いたなぁ。なんか水分。何でもいいから水分」

 それは、切実な願いだった。


 川は見当たらないし、果物か何かあるといいんだけどな。

 水分を探すため、巨木から体を少し起こして辺りに目をやるが、やはりなさそうだ。


「困ったなぁ」

 疲れてるから、あんまり動きたくないんだよなぁ。

 腹が減っては戦はできぬというけど、疲れてたらもっと何も出来ない。


 ……休むか。

 そう結論付け、瞼を閉じる。今思えば、ここは寝るのにうってつけだ。音は全く聞こえないし、邪魔してくるものもない。まぁ、あったとしても頭の上のやつだけか。


「……。……。」

 どうでもいいと思ったのか、すぐに寝ることができた。

 

▲▽▲▽▲▽


 丁度そこは、木で日陰になっていた。

 古い巨木は、柔らかな木漏れ日をクレタの艶やかな濃紺の髪に落としている。


 彼の首には、金の月の輝きを持つ石が紐によってネックレスのように掛けられていた。




書き手:十六夜水明https://kakuyomu.jp/users/chinoki

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