第6話 理解不能
しかし、問題が起こった。
耳の中に入ったチーズを堪能し、2枚目に差し掛かった時だった。
俺はふと思ってしまった。確かに美味いことは美味い。それは認める。でもこれってチーズがうまいんじゃね?
試しにパイナップルのないところだけを食べてみる。もちろん美味しかった。そこにベーコンがあったらと思うと。それに他のピザだとそこにサラミや照り焼き、海鮮が乗っていることを考えると……
あれ? パイナップルじゃなくて良くね?
気づいてしまった。やっぱり俺の考えは正しかったのだ。初めての味に少し惑わされてしまったけど、やはり邪道は邪道。
なんて考えていると、彼女はジト目こっちを見ていた。
「ん? 」
圧がすごい。「ん? 」の後に何か言いたい事でも? と続きそうな感じがする。
「美味しいぞ? 」
「そうだよね? 」
これ絶対パイナップルハラスメントだろ。やっぱりない方が良くね? とは言えない。でも言いたいことはある。
「これ、ベーコンあった方が…… 」
「いらない。」
「いらないんだよね。」
「うん。ベーコンは邪魔。」
食い気味に言ってくる。どうやらいらないのが正解らしい。て言うか、ベーコンは邪魔とか言う言葉を初めて聞いた。入っていたら無条件に嬉しい類のものだろ、ベーコンって。
すでに彼女は食べ終わっており、することもないのかこっちを見ていた。
見られると食べづらいんだけど……
気にしていない風を装い、残りのピザを平らげた。
その後店を出て、駅まで一緒に行くことになった。俺はそこからバス、彼女は電車らしい。行きよりかはだいぶ雰囲気が柔らかく、少しだけ会話が弾んだ。
そしてもうすぐ駅に着くと言う時、彼女は急に立ち止まった。
「ん? どうした小鳥遊? 」
俺が問いかけると彼女はまっすぐ俺の目を見つめて言った。
「食わず嫌いはだめ。これからは、どんな料理でも食べてから美味しいか美味しくないか決めてほしい。」
どうやらそれが言いたかったらしい。確かにごもっともだ。誰かを傷つける意図がなかったにせよ、教室での発言は良くなかったかもしれない。
「ごめん。そんなつもりはなかったんだけど。」
素直に謝る。もしかしたらこれまでも彼女の舌を理解してくれる人がいなかったのかもしれない。もしかしたら今回勇気を出して誘ってくれたのかもしれないと思うと謝らずにはいられなかった。
「いいよ。でも約束して。これからは食わず嫌いはしないって。」
「分かった、約束する。」
俺がそう言うと彼女は嬉しそうにはにかんだ。
まだ俺はパイナップルピザみたいな邪道を素直に認められないけど、頭ごなしに否定するのはやめようと思う。
「そう言えば」
別れしな小鳥遊にふと思ったことを聞いてみる。
「どうしてパイナップルピザにはまったんだ? 」
普通に生きてたらそんなものに手を出そうとは思わないはず。何かきっかけでもあるのかと思っているのだが。
「んー? それはね。中学生の頃に食べたステーキにたまたまパイナップルが乗っていたの。それでお肉と一緒に食べてみたらあったかいパイナップルとステーキがとても合ったの。それから好きだよ。他にもハンバーグとか、ハンバーガーとかにも合うし、あったかいパイナップルは何にでも合うんだよ? あっ、オムライスにも合いそう!」
そう嬉々として話す小鳥遊まふゆ。それとは対照的に表情が引き攣っていく俺。
「??? 」
この子らいったい何を言っているんだ? 少しでも歩み寄ろうとした俺がバカだったのか? 確かに食わず嫌いなのは良くないとは理解した。理解はしたが、オムライスにパイナップルは料理への冒涜だろ。
そんな俺の心境も知らずに、
「また明日ね! 」
とにこやかに言い、去っていく小鳥遊。そんな小鳥遊に対して、
「おう、またな。」
俺は複雑な気持ちでそう返したのだった。
舌がちょっと変でも、美味しかったら、一緒に〇〇食べてくれますか? 天白あおい @fuka_amane
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