第3話 小鳥遊まふゆ
「ねえねえ。」
声がした方を振り向くとそこには女子が立っていた。身長は150センチくらいで髪の毛は肩あたりまで伸ばしている。
ただ俺は座っていたため見下ろされる形となった。確か彼女は隣の席の人だ。どうしたのだろうかと思っていると、彼女は口を開いた。
「食わず嫌いはだめだよ。」
ななはを言っているのかいまいち分からなかった。さらに不思議そうな顔をする俺をみて、彼女は小さなため息をつくと、なぜ呼びかけたか説明し始めた。
「さっきパイナップルピザのこと嫌いって言ったでしょ? でも食べてもないのに美味しくないって決めつけるのはだめ。食べてから美味しいか美味しくないか決めて。」
どうやら俺がパイナップルピザを否定したのが気に食わなかったらしい。個人の好みなんだからほっとけよと思わないこともないが初対面の女子に言えるはずもなく。それに言っていることには一理ある。
一理はあるのだが、これだけは言わせてほしい。料理にパイナップルはありえない。
「それは俺が悪かった。ごめん。謝る。」
「分かったらいいよ。」
案外サクッと許してもらえた。ここでそれじゃあと言って帰ればよかったと後になって後悔することになるのだが、この時の俺は知らない。
あまり女子と話すことのない俺は、少し間の沈黙が辛くて余計なことを聞いてしまったのだ。
「そう言うお前は好きなのか? パイナップルピザ。」
すると彼女は目の色を変えて、
「うん。」
と言った。
「他のピザよりも? 」
翔真の場合は彼が照り焼きが好きなのを知っていたから具体的に出せたが、彼女の場合はそうはいかない。でもこの質問には絶対悩んだ挙句、やっぱり他のピザの方が美味しいと言うに違いない。そう俺は思っていた。
「うん。」
しかし即答だった。聞き間違いかと思い、
「店に言って一種類しか頼めなくなったら何頼むんだ? 」
と聞き直すと、
「パイナップルピザだよ。」
これまた即答だった。
そして俺は一つの解決策に至る。よし分かった。この子はちょっと味覚が変な子なんだ。できるだけ刺激しないようにしてこの場を去ろう。
「それほど好きなんだな。パイナップルピザ。」
「そうだよ? 」
「で、どの辺が美味しいんだ? 」
前から疑問に思っていたことと、機嫌を取るために話題を振った。そう聞かれると彼女はさらに目を輝かせて言う。
「全部だよ。チーズの塩っけとパイナップルの甘さが美味しいんだよ。私が頼むときはいつも、チーズとパイナップルを2倍にして、耳は中にチーズが入ってるやつにするの。」
うーん。何言っているのかよく分からない。さらにチーズを増やすならもうそれはチーズが好きなだけでは? 適当に流そうかと思っていたけどやめた。やっぱりパイナップルピザは認められない。
「それはチーズが美味しいだけなんじゃなくて? 」
「ちがうの! チーズとパイナップルが合うの。一緒に食べるのが美味しいの。分かる? 」
「いーや分からないね。絶対別々に食べた方が美味しい。合わせる必要がない。」
「だからそれは食べてから言って! あったかいパイナップルが美味しいの。」
「果物を温めるのが意味わからないんだよな。」
「あっためたらもっと甘くなって美味しくなるの! そこまで言うなら今から2人で食べに行く! 」
「おおいいよ。どうせ別々で食べた方がいいに決まっているからな。それでパイナップルピザなんてあり得ないことを証明してやるよ。」
そこまで言い合ったところで気づく。どうやら思ったよりヒートアップして声量が上がっていたみたいだ。
結構目立っていた。彼女も気づいたらしく2人して顔を赤らめた。
「それじゃあ着いてきて。」
声量小さめにそう言ってカバンを持った彼女の後を、黙って着いて行くのだった。
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