第十四章 記憶の話
前世の記憶がある子供の話を聞いた事があるだろうか?
前世の記憶、母親のお腹の中の記憶。
自分がお腹の中にいた時に、両親が話していた会話を覚えている子供もいるようだ。
これは、そんな子供の話。
結婚して、10年目に、やっと授かった女の赤ちゃん。
スティーブンは、その子を溺愛していた。
仕事が休みの日は、一緒に公園へ出掛けたり、夜は、絵本を読み聞かせ寝かせていた。
その子の名前をマリアとしよう。
マリアが五歳になった頃、スティーブンは、いつものように、マリアを連れ、公園へと向かっていた。
マリアは、前世の記憶があるのか、言葉を話すようになってから、いろんな事を話すようになった。
自分は、とても貧しい家に生まれ、父親は、働き者だったが、家庭は、なかなか裕福にならず、いつも一つのパンを分け合って生きていた。
母親は、とても優しくて、いつも子守唄を歌って聞かせてくれた。
等々。
最初は、子供の妄想かと思ったが住んでいた町や両親の名前さえ、はっきりと話すマリアを見て、この子には、前世の記憶が残っているのだと、スティーブンも感じていた。
公園へ向かう途中の路地裏で、マリアは、フッと足を止めた。
「どうしたんだい?」
尋ねるスティーブンに、マリアは、言う。
「ここなの。」
「んっ?この場所がどうしたの?」
優しい口調で尋ねるスティーブンに、マリアは、声を震わせ、こう言った。
「ここで、私は、殺されたの!」
「殺された……?いったい、誰に?」
マリアは、ゆっくりと顔を上げ、瞳を震わせ、スティーブンを見つめた。
「あなたによ。」
それを聞いたスティーブンは、深く溜息をつくと、無表情になる。
「いいかい、マリア。世の中には、思い出しても、口に出さない方がいい事もある。その事を忘れてはいけないよ。」
そう呟く、スティーブンの両手がマリアの細い首に伸びていった。
前世の記憶が残っていても、それを話してはいけない……らしい話。
ー第十四章 記憶の話【完】ー
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