第6話 コラボ企画をプレゼンしてみた

『今日もひまの配信にきてくれてありがとー!もうすぐ登録者100万人だね!いつも応援してくれてる皆のおかげだよ!100万人になったら記念ライブやっちゃおーかな〜?みんなきてくれるぅ〜?』


―――――――――――――

【コメント欄】

 もち!

 一緒にお祝いしたい!

 ぜったいいくでー!

――――――――――――


『ありがとー!じゃあ……どれくらいだろ?今月末くらい?また近くなったらTwitterで告知するね〜!よろよろー!じゃあ、今日はこれくらいで!おつひま〜。ばいばぁ〜い!』


 カチッ。マウスを動かして、グッドボタンを押す。そして、アカウントを切り替えた。


「はぁぁ……今日のひまちゃんもかわいかったなぁ〜……」


 2回目のグッドボタンを押しながら、またアカウントを切り替えて、グッドボタンを押した。これは、ひまちゃんの動画を見るときのオレの習慣である。アカウント3つで3人分の〈いいね〉をお届けしているのだ。


 もうすぐ100万人を達成するひまちゃんにこんな些細な応援、無意味ないかもしれないけど、少しでも応援したい、と思って続けていることだ。ま、自己満足というやつだね。


「さぁ、そろそろ寝て明日の仕事に備えるかー。明日は勝負の日だしな!」


 独り言を言いながら、ベットに向かうと、ピロン♪とLINEの通知音が鳴った。スマホを持って内容に目を通す。


『オジサン、ちょっと相談したいことがあるので、週末時間ありますか?』


 ???こと様からのメッセであった。


 新人VTuber 洲宮 琴、新しくはじめた剣道道場という企画で今バズってる女の子だ。ちなみにその企画を発案したのはオレ、ホントになんとなくの提案だったが、それが上手く世の中に受け入れられたのだ。


 こと様と出会ったあの日、企画を提案したところ、「おもしろいかもですね」と、こと様が呟き、「具体的なことを相談したいのでLINE教えて下さい」と言われたので、連絡先は知っていた。

 そのあと何度か、どういう企画にするか相談にはのったのだが、それっきり連絡は来ないものだと思っていた。

 だから、突然、こと様からメッセが来て、少しドキドキする。


「えと、とりあえず返信しないと……」


『もちろん大丈夫ですが、なにかあったんですか?』


 送信。


『お会いして直接話します』


 相変わらず、ぶっきらぼうである。


『わかりました。じゃあ、また渋谷のあのカフェでどうでしょう?』


『大丈夫です。では、土曜日の10時に。よろしくお願いします』


『わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします』


「ふぅ……」


 女の子と連絡するなんて、今まで機会がなかったためドキドキしてしまった。といっても、こと様の文章はシンプルだし、ひまちゃんほどの破壊力はないのだが。

 ひまちゃんのLINEは♡がたくさん付いてて、つい勘違いしてしまいそうになるのだ。


 さて、週末は、こと様と予定ができたが、明日やることは変わらない。この3ヶ月で必死に取り組んできたある企画が通るかどうかの会議がある。それに備えるため、オレはベットに横になることにした。



-翌日、会社の会議室-


「――ということで、近年では、VTuberというものが世の中で流行っており、トップVTuberはチャンネル登録者数が300万人をこえています。日本人YouTuberのトップが1000万人ほどであり、そこには劣りますが、VTuberはアイドルとしての要素が強く、物販での売上は相当なものだということがこのグラフから分かります。つまり、当社のお菓子とVTuberがコラボすることにより、更なる売上拡大が望めると考えます。コラボ相手を仮にディメコネのVTuber3人と仮定すると、チャンネル登録者数と影響力から、こちらのグラフ程度の売り上げ増加を見込めると考えております。以上でプレゼンを終了します。ご清聴ありがとうございました。何卒ご検討のほど宜しくお願い致します」


 オレは、何度も練習したプレゼンを話し終わり、偉い人たちに向かって頭を下げた。どうだ!オレの渾身のプレゼンは!

 顔を上げ、皆さんの反応を伺う。


「……ふ〜む。なるほどねぇ〜」


 偉い人の1人が、資料を見ながら難しい顔をしている。オレは、勤務するお菓子メーカーにて、次のコラボ先をディメコネにすべく、プレゼンに臨んでいるのだ。

 ひまちゃんのファンになってからずっと考えていたことだが、突然なにか企画を考えろと言われたので、迷わずこの企画を選んで今日に至る。


 公私混同のようだが、会社にもメリットがある。実際、ディメコネとコラボすれば売り上げがあがるのは間違いないのだし、決して、ひまちゃんに職場でも会いたいからではない。決して違うのだ。


「なるほどね。たしかにある程度の売り上げ増加は見込めそうだけど、VTuber?っていうのはホントに世の中に浸透しているのかね?わたしは今日はじめて聞いたよ」


 企画部の部長がそう話す。


「はい。たしかに全ての年代の方には浸透していないかもしれません。しかし、スマホがあたりまえになった今の世の中ではYouTubeをみることもあたりまえになっています。それは当社のお菓子のターゲットである若年層に最も当てはまる傾向でして、効果はしっかり出ると考えております」


「ふ〜む……しかし、VTuber?とコラボして失敗するより、アイドルとかとコラボしたほうが確実なんじゃないかい?ほら、最近話題のアイちゃんとか!かわいいし、きっと売り上げも伸びるぞ〜」


「た、たしかにアイドルとコラボすることでも一定の効果は発揮するでしょう。しかし、お菓子のパッケージに使われている当社のポップなイメージは、アイドルよりも、VTuberとの方が親和性が高いとも考えます」


「……なるほどねぇ。ま、キミがこういうのをやりたいってのは分かったよ。でもさ、新しいことをやるのってリスクあるから!わかるかなそれって。もし失敗したらキミ責任とれるの?」


「せ、責任ですか……それはなんといいましょうか……」


「ほらね!自信ないんじゃん!はいはい!じゃあこの企画はボツ!んじゃ、次の人どうぞ〜!」


「あ!」


「ん?なに?」


「いえ、なんでもありません……ありがとう……ございました……」


 矢継ぎ早にダメ出しをされて、為す術も無かった。オレは、うなだれながら会議室の扉に手をかける。


「……」


 退室時、終始黙っていた社長と目が合ったような気がした。



「はぁぁぁ……」


「おっ、新井くん、プレゼンどうだった?って、その様子だと聞くまでもないか。どんまいどんまい」


「あ、先輩、ありがとうございます……」


「まぁ、企画なんてほとんど通るもんじゃないから!毎月何十件、年間何百って企画があって、選ばれるのはその中の一つとかだしさ!あんま落ち込むなよ!」


「はい……ありがとうございます……」


 ポンポンと先輩はオレの肩をたたいて席に戻っていく。


「ふぅー……」


 悔しいけど、次に期待するしかないか。まだチャンスはあるかもしれないし。


 現実逃避気味に、スマホを覗き込む。LINEに新着メッセの通知が来ていた。


『明日よろしくお願いします』


 こと様からであった。リマインドとは律儀である。


『こちらこそよろしくお願いします』


 送信っと。さぁ、切り替えて残りの仕事を片付けるか!

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