第1話 そのどうしようもないVTuber
-数か月前-
『つかえねーな』『こんなこともできねーのか』『非常識だろ』
そんな言葉を毎日なげかけられ、仕事のやりがいを見失っていた。
「やべぇ……今日も日付けかわってる……なんか、たべないと……でも……めんどくさいな……」
そう呟きながらパソコンを起動する。オタクにとってPCは友なのだ。帰宅したら自然と電源ボタンを押している。
検索条件【アニメ 面白い】
カチカチカチ。とりあえず何か面白いもんでもみないとやってられんわー。そう思いながらネットサーフィンをしていると、
「うっ……」
唐突な吐き気が襲ってきた。
「……」
オレは身体のSOSを無視して、マウスを握る手をとめない。カチカチカチ。
検索条件【死】、デリート。【死に方】、デリート。
「ははっ……何調べてんだろなー……そんな気ぜんぜんないのに……うっ!?」
強がっているのだと薄々は感じていた。でも、それを身体は許してくれなかった。
♢
ジャー(トイレを流す音)
「うっぇ……これ……やばいかも……だれか、だれかと話さないと……」
-01:42-
「こんな時間にだれに……かあさん……」
オレはすがる思いでスマホを取り、頼れる人に電話をかける。
トゥルル、ガチャ。
「もしもし、どなたですか?こんな時間に〈非常識〉では?」
「あ……」
〈非常識〉、そのワードを聞いて、会社でのことがフラッシュバックする。
「ん?新人(あらと)か?」
「あ、あぁ、そうだよ、とうさん」
「どうした?こんな時間に?」
「……いや、べつに……かあさんは?」
「もう寝てるに決まってるだろ。なんだ?なにかあるから電話してきたんだろ?早く言いなさい」
「……いや、ちょっと、会社でイヤなことがあって……」
「……おまえ入社して何年だ?」
「え?……1年くらい?」
「そうだよな?だったらそんな甘いこというな。みんなつらいときがあるんだ
とうさんだってな――」
ガチャン。手に力が入らなくなってスマホが床におちる。なにか音が聞こえてくるが内容は聞こえない、というか何を言ってるのか言葉がわからない。
やばい、クラクラする……もう寝なきゃ……でも、少しでも楽しいことしないと……
なにげなくYouTubeを開く。【つらい 楽しい動画】カチカチカチ。
オレが朦朧としながら検索すると、ライブ配信中の動画がトップに表示された。
Live:人生がつらい人を楽しくしたい!ヘタクソマインクラフト【花咲ひまわり、ディメコネ】
「なんだこれ……VTuber?もういいやこれで……」
カチ。
『こんばんはー!今日はライブにきてくれてありがとー!ヘタッピだけどみんなに笑ってもらえるよう今日も配信していくよー!』
「あ、これ知ってるゲームだ……昔よくやってたな……」
表示されたのは、学生時代、友達とやっていた箱庭ゲームだった。四角いブロックで形成されたオープンワールドをキャラクターが動き周り、好きな建物を作ったり、冒険したりする自由度の高いゲームだ。
『このゲームやるの はじめてだけど、とりあえず洞窟いってダイヤ?を手に入れたいと思います!』
「いや、最初からそれは無理だろ……」
『さぁ!いくぞー!みんなー!見てみて!防具は、ことちゃんにもらったんだー!これで最強でしょー!』
「いや……まぁ。初期装備にしてはいい方だけど、準備不足……」
配信をしている女の子は元気満々でなにか言っているが、キャラが装備してるのは鉄製の防具で、初心者が一人で洞窟に行くには心もとない装備だった。しかし、その子は楽しそうに探索をはじめてしまう。
『あ、これが洞窟かなぁ?いってやるでー!え、てか暗くない?こわいよー……』
「いやいや、松明ないからあたりまえ……」
『あ!なんかあのへん明るい!いくしかないでー!なにこれぇ?コポコポいってる~。なんかレアなのかなぁ?』
「いや、それマグマ……」
『とってみよー!』
ひょいっ。キャラがマグマの中にダイブしてしまう。
「あ……」
ジュッジュッジュッ。キャラが焼ける効果音が鳴りHPが減っていく。
『え?あー!なんかくらってる!いたいいたい!しんじゃう!しんじゃう!たすけて!たすけー!』
女の子の叫び声は虚しく響き渡り、ゲーム画面に無情なメッセージが表示された。
--------------------------------------------------
<Himawari>は溶岩遊泳を試みた
--------------------------------------------------
『あー!?しんだぁ……なんでだよぉ……ひま、なにもわるいことしてないのにぃ……』
しょんぼりしながら、キャラがリスポーンする。彼女は、セーブポイントで寝ていないので、このワールドの初期位置にリスポーンしたようだ。初心者の彼女は自分の位置を見失ってしまう。
『え?どこここ?あー!裸になってるー!ひまの鎧はー?!え?マグマで死ぬと無くなる?なんでだよぉ……なにかわるいことしたのかよぉぉ……つ、つらいよぉ……』
「ぷっ……なにやってんだよwそりゃそうなるよw」
「ははっ……」
ポロ。ポロポロ。
「……え?なんだこれ?」
ポロポロポロ。
「おもしろいのに、なんで……ははっ……すごい……おもしろいのに……」
その日、オレは、そのどうしようもない女の子に救われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます