バーチャルに恋する~推しVTuberと一般リスナーのオレがラブコメする話~

真心 糸

1章 推しVTuberはリアルでも可愛い

プロローグ

「だから……だからね!ホントにありがと!ひまね!キミにすっごく感謝してる!」


 夜の公園、誰もいない公園のベンチの前で、オレは、街灯に照らされた推しVTuberに感謝の言葉を述べられていた。


「いや……オレなんか、なにも出来なくって……」


「ううん!そんなことないよ!ひまはね!キミのおかげで!これからもVTuber続けようって!そう思えたから!」


 〈ひまちゃんがこれからもVTuberを続ける〉さっきの記念配信で聞いた言葉ではあったが、実際に目の前で聞くとジーンときてしまう。

 そっか……ひまちゃん、ホントに引退しないんだ……


「あれ?キミ泣いてる?あれあれ〜?そんなにひまのこと大好きなのかなぁ?」


 ニヒヒ。オレの推しがイタズラっぽい笑みを浮かべていた。


 この子は、花咲ひまわり、大手VTuber事務所の初代VTuber、今となっては伝説のVTuberの1人だ。黒髪ロングに白いメッシュを絡めた三つ編みを前髪にぶら下げた、とても目立つ見た目をした美少女だった。


 3Dモデルと見た目は違うが、中身は配信そのままの、オレが大好きなひまちゃんがオレのことをからかってきている。控えめに言って、死んでもいいくらい幸せだった。


「うん……うん……オレはひまちゃんが大好きだから……引退しないでくれて……すごく嬉しくって……」


 オレは半べそで、情けないセリフを吐く。


「え?……えへへ……そんなハッキリ大好きなんて言われたら……さすがのひまも照れちゃうなぁ〜」


 ひまちゃんは赤くなって、バツが悪そうにほっぺをぽりぽりとかいていた。


「あ!今日のお礼にさ!キミのために歌うよ!なに歌ってほしい?どの曲がいいかな!」


「ええ!?そんな!?そんな贅沢許されないよ!!」


 オレは両手を前に出して慌てて断る。一般リスナーの自分が推しの生歌を聞くなんて、さすがに恐れ多いからだ。


「しゅーん……ひまの歌……聞きたくないんだ……」


 がっくりと暗い顔をするひまちゃん。


「いやいや!!聞きたい!!すごい聞きたいです!!」


 チラ、顔を上げるひまちゃん。


「だよね!もーう!最初から素直にそう言いなよー!!」


 満面の笑みを向けられてしまった。


 あ……演技だったか、やられた……でも、可愛いから、まっ、いいか。


「じゃあねじゃあね!今日の記念ライブでも歌ったひまのオリ曲歌うね!」


「う、うん!お願い致します!!」


「うふふ♪えーっと、音源はないからアカペラで!いきまーす!」


 タタッと少し離れた位置に移動し、右手でマイクを持つようなポーズをとるひまちゃん。そして――


「〜♪」


 とても綺麗な歌声が聞こえてきた。オレはペンライトの代わりにスマホを持って、合いの手を入れ続ける。すごい、すごい体験だ。

 あの、あの推しのひまちゃんが、オレだけのために歌ってくれている。こんな幸せなことがあって、良いのだろうか。そう思って、感動しまくってるうちに、あっという間に曲は終わってしまった。


「パチパチパチパチ!!」


 オレは全力で拍手を送る。


「ありがとー!!」


 両手を振って拍手に応えてくれるひまちゃん。そこにはアイドルそのもののオレの推しがいた。3Dの姿ではないけど、オレの目にはハッキリと画面の中のあの子の姿が映っていた。


 ひまちゃんが、こちらに向かってタタタッと近づいてきてくれる。


「どうだったかな!?」


「最高!最高だった!!感動した!!泣きそう!!ううん!泣いてる!!」


「あはは!ホントだ!うるうるしてるね!キミ!」


「う、うん……ぐすっ……」


 ひまちゃんがオレのために歌ってくれた。それに引退しない。その安心感からオレはフラフラとしてしまう。今日までの無理が祟ったようだ。なんせ、数日間、寝た覚えがない……

 そのまま、ベンチの方にもたれかかる。右手でベンチの背もたれを掴むが、目の前がクラクラしだした。それに、足元もふらつく。


「え?どうしたの?大丈夫?」


「う、うん……ちょっと眠いだけ……最近寝てなくて……」


「そうなの?無理しないで?」


「うん……じゃあ……」


 オレは、お言葉に甘えて身体の力を抜くことにした。


「きゃ!?」


 そこでオレの意識は一旦途切れる。



 ポタッ。


 なんだろう?頭の後ろが柔らかい。うっすらと目を開ける。目の前には口を片手で抑えたひまちゃんがいた。

 目を閉じる。

 あれ?これって膝枕では?いやいや、夢だな。夢オチおつ。


 ん?てか、〈ポタッ〉ってなんだ??それにさっきのひまちゃんの顔は?


 ポタって……もしかして、涙?泣いてる?ひまちゃんが?


 そこまで思い当たり、オレはすぐに起き上がった。


「ひまちゃん!!大丈夫!?」


「んむっ!?」


 オレの目の前にひまちゃんがいた。ドアップだ。可愛い。めちゃくちゃ可愛いオレの推しがオレの目の前にいた。


 むにゅ……なんだか口が、唇が柔らかい気がした。


「ぷはっ!」


 ひまちゃんが少し離れて、オレを見つめる。どんどんと真っ赤になっていく。


 オレは、なにをした?き、キス??まさかそんな……


「な、なな!?なにしゅるの!?」


 ひまちゃんが心底びっくりしたという問いかけを投げかけてくる。


 オレは、一体、これから、どうすればいい?社会人になってからも、学生のときだって、恋愛経験が一切無いオレには、これからの対応が全くわからなかった。

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