第4話



あれから日々がたっていた。


カレンダーをちらっと見ると、えりかさんのオーディションは明日。


あの日から俺たちは毎日のように練習していた、時に公園、時にファミレス、時に電話越し。


緊張感が貯まるのはごく自然とも言えるのでしょうか?時計が23時を指していたころに、えりかさんから電話が来た。


『ャハロー!すばるさん?まだ起きているですか?』

『ヤ、ヤロ!あ、ま、まだ起きていますね』

『明日だね』

『そうですね、心の準備は?』

『緊張で倒れそう』


彼女の柔らかい声に相まって可愛らしい笑いはちょっとあまかった。


『明日14時ですね?』

『そうそう!あ、でも明日は雨ので、電車は大丈夫のでしょうか?』

『大丈夫よ!絶対大丈夫です!』

『すばるさんやっぱポジティブだね』


クスクスと笑うえりかさんの姿が頭の中に浮かんでくる。上品でもどこかでぎこちない仕草は俺の目にとって愛しいものだった。


『じゃ、寝る!』

『もう寝ますか?』

『う、うん…すばるさんの声が聞きたかっただけ…なんかすばるの声を聞くと安心するというか…あ、変な意味じゃない!』

『おっ』

「おやすみ」が喉にひっかかった。どうしても出てこないばかりか顔もどんどん熱くなっていく。


『ご、ごめん変なこと言いましたですね??』

『い、いや大丈夫!お、おやすみ』

『うん!おやすみ!本当はアニメみたかったのに!』

『だ、だめでしょう!ちゃんと休まないと…』

『わかってる…ま、おやすみ』

『うん、おやすみ!』


電話を切った直後、俺はベッドにダイブインした。なぜだろう?心身が変、心拍数が普段より速いだけではなくお腹も張り切っている。


寝る準備は電話前に済ませてあったので不必要なことに、俺はベッドから起きる気はしなかった。


明日はオーディションとその事が脳内を支配し、他のことを考えなくなった。俺じゃないのに、心配でまんじりともせずに夜が明けていた。


成人とはいえ、経験の少なさは自分はまだくちばしが黄色であることを思い知る。やっぱり人間は恋の前に歯が立たない。


冷徹にいられない自分の不甲斐なさにかまけて朝のアラームが部屋中に響いた。


「もう朝かよ」


カーテンから日の光が漏れている。窓の外にはまるで灰色の絵が描いてあったかのように。


空模様は曇天、青空が見当たらない濁した雲の海。ところに重い、ところに軽い、落ちそうな空はモノクロームで今日を彩られる。


窓を開けてみると、風が眠気を吹き飛ばした。風が肌の温もりを去っていくけどそれは意外と心地がいい。


街の木々を揺らす風は濡れた土と花の匂いが鼻腔に届く。


「雨か…しかもすごい雨だね…」


不安な気持ちに駆られながら、俺はRIMEを開いてえりかさんの名前をクリックした。会話画面が目の前に広がる。


『えりかさんおはようございます!今日は頑張ってください!』




………







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