第12話 「 ヒロシとカイ 」

 ヒロシは一匹の猫、カイを飼っていた。それもだいぶ年取っている猫だ。ある時カイはヒロシに言った。「おい、飯の量を増やせ」するとヒロシは言った。「何言ってるんだい。お前を飼ってるだけでも俺の生活は大変なんだぞ。お前の方こそ遠慮しろ」それでもカイは譲らない。「飯の量を増やさないと俺はもうここを出て行くぞ」ヒロシは笑って応えた。「全くお前って奴は自分の立場を分かってないなあ。どうぞどうぞ、好きに出ていくがいいさ。かえってせいせいする」それを聞くと猫のカイはずいぶん頭にきたと見えて、珍しくすっくと起き上がると縁側の戸をわざと大きな音を立てて開け、そのまま外へ出ていってしまった。「せいせいするよ」ヒロシは同じことを二回言って開いたままの戸をピシャッと閉じた。外ではうすら寒い風がぼーぼーと音を出している。

 しばらくするとまた戸が開き、見覚えのある猫がぬっくりと入ってきて、そして言った。「どうだ。少しは頭を冷やしたか?」ヒロシは猫に言う。「馬鹿言ってないでたまには自分で戸を閉めろ。部屋が寒くって仕方がない」すると猫はそれには直接応えず、黙ってヒロシの膝の上に乗っかる。「おい。今、そこに座られたら戸が開いたままになるだろ」ヒロシはそう言ったが猫はもう目を閉じ、軽い寝息を立て始めている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る