第8話 「 とんぼ空 」
ケンカばかりしている兄弟。兄は体が丈夫で腕っぷしが強く、弟は病気がちだが知恵があり、口と手先がよく効いて兄をやり込めることもしばしば。
ある時いつものケンカで追いかけっこになり、弟が転んでケガをしてしまう。入院する弟。
しばらく家に一人でいることになった兄は初めこそせいせいしていたが、親には叱られるは、それはそれで退屈はで何かと持て余す毎日。そのうち弟のケガも治りひと安心したところに弟の精密検査の結果が出る。弟の身体に重大な病巣が見つかったというのだ。事情をうまく飲み込めない兄。すぐさま弟は大きな街の病院に転院することになった。
急に不安になる兄。「もしかしたら僕のせいかも」いつも一緒にいながらもケンカばかりして弟を泣かせていた自分。学校で顔を合わせてもわざと知らんぷりをして意地悪だった自分。思い起こせば悔やまれることばかり。
ふと弟の好きなプラモデルの発売日に気づく。そしてそれどころではない親に代わって、その飛行機のプラモデルを弟に買って行ってやることを決心する。しかし問題はその代金。兄は何でもパッパッとお金を使ってしまう性格なのでお小遣いはいつも足りないくらい。仕方なく仏壇のお賽銭に手を出し、こっそりプラモデルを買ってくる。しかしその晩親に見つかり大目玉を食らってしまう。そしてその場で弟が難しい手術をしなければならないことを聞かされる。
手術当日。運ばれていく弟に親は黙って兄が買ってきたプラモデルを渡す。
「兄ちゃんが買ってくれたんだよ。お前が頑張れるようにって」
寝台の上で弟はそれを大事そうに受け取る。「ありがとう、兄ちゃん」
言葉もない兄。そして弟は手術室に運ばれていく。家族はただただ祈るしかない。
手術の結果は大成功。弟は元気を取り戻す。そして待ちに待った退院の日。なまった足で駆け出そうとしてよろける弟をオンブする兄。空にはできたばかりのひこうき雲がきれいな線を遥か向こうにまで描いている。その線を縫うかのように一対のシオカラトンボがどこまでもどもまでも、自由自在に飛び交っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます