第6話 田所修1-6 異世界秒殺RTA~まるでクソ映画のように~


 ……その後も散々なものだった。


 そもそも森の中で最初の敵がクマなんておかしいだろ!!もっと平地とか安全な場所からスタートさせてくれ!!と言ったら平地からスタートさせてくれたがゴブリンの集団に襲われた。あっさり頭をカチ割られて……


『―――――YOU DEAD』


 ゴブリンとか数が多くて集団で来るし凶暴なモンスターだろ、そんなの俺が最初から戦って勝てるわけないじゃん?!せめて最初はスライムとかそういう弱いモンスターからだろ!!と言ったらスライム種しか出ない草原からスタートされたが、斬っても叩いてもダメージは通らずに丸のみにされて生きたままと消化されていくのを感じながら、窒息の中で意識を手放した。


『―――――YOU DEAD』


静かな!静かな湖畔の森の陰からならきっと安全!!チェンジで!!!ふぅ、次は静かな湖畔の森の陰からっ、静かな湖畔の森の陰から―――お、異世界の村人だろうか?湖畔を若いカップルがボートでデートしてる。手を振っておこう、おーい、おーい!異世界での住人に初遭遇かぁ……と思っていたらボートが破壊されて湖に放り出されたカップルが次々と喰われた――――巨大なワニに!!なんでワニがおんねん!!!!B級モンスターパニックの導入じゃないんだからさぁ!!もぉっぉぉっ、ちょ、おま、逃げるっきゃねぇ……アギャー?!なんでワニが追いかけてくるにょおおおおおおおおお?!?!ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あっ――――――バクン。


『―――――YOU DEAD』


 クソッ、なら海だ海。バカンスのリゾート地にしてくれよ!!

 ……おぉ、まぶしい太陽と浜辺、薄着の若者。フーッ、こういうのでいいんだよこういうので。ザ・異世界南国って感じ、ワイハーみたいでいいじゃない。こういう所から始まる冒険の始まりってのもアリでしょ。目の保養だ目の保養~それじゃ俺は異世界ライフを……うん?所で俺はなんで桟橋にいるんだ。浜辺の人達が俺の方を指さして何か叫んでいる。えっ、後ろ?

 ……サメェーッ?!?!巨大なサメが竜巻で舞い上がってこっちに向かってきてるぅぅぅぅぅ?!

 あぁっサメが、サメが。だめだこれ……?!オギャアアアアアアアアン!!!


『―――――YOU DEAD』


 チッキショーッ!!Z級のモンスターパニック映画の雑な導入じゃないんだぞ!!冒険の導入といえばルールはあるだろ、ルールはどうなってるんだルールは?!

 あれ、今度のスタート地点は何か密林か熱帯雨林みたいな……ヒィィィィィィィィィッ、何かいる!木の上に何かいる!!へ、蛇ィ?!モンスター映画おなじみの……もしかして蛇ですかァーッ?!体長10メートル以上はある、あれアナコンダ?アナコンダなのぉ?!蛇映画だと最初は名作だけどシリーズ化する段々尻すぼみになっていくって違う、ウォォォォォ逃げるんだよォー!!!!

 大体アナコンダとか巨大な蛇は水中にいるのが普通なので地上を元気に徘徊したり樹上を移動するなんてZ級クソ映画のあやしい蛇ぐらいなもんだぞもっとしっかり生態系勉強しろ異世界ィーッ!!あ、いや異世界だからそう言う生態なのか?

 ……なんて思わずクソ映画的展開へのツッコミをしながら走っていたところで追いつかれてぐるぐるとまきつかれた。万力のような力でボキボキゴキゴキと身体が砕かれて……


『―――――YOU DEAD』



 コラァァァァッ、クソ映画の冒頭のお約束メドレーしてるんじゃねーぞ!!!

 あと俺はクソ映画ソムリエだからあんまり雑に展開するZ級映画みたいにモンスターが登場するのは受け入れられない。そんな冒頭で適当にモンスターが登場して人を襲うなんてせずに、もっとこう、見ている人間にこれはクソ映画だなってわかりつつも一応みるかって思うようなクソ映画なりの作り方見せ方ってものが……って違う!!!思わずツッコんじまったけどこれ俺の異世界転生シミュレートだッルォ?!鳥のロゴのZ級映画ブランドみせられてるじゃないよな?!


 その後も街中でスタートしたら金銭もないままに彷徨い、悪い奴らに身ぐるみはがされて殺されたり、異世界転生者だってアピールしようと王城に行ったら怪しい奴と衛兵につかまって拿捕されて牢の中で獄死したり、モンスターのいない平和な村でスタートさせてくれと泣いて懇願したら平和なはずの村が蛮族に襲撃されて皆殺しにされたり、エトセトラ、エトセトラ。


 数えるのも嫌になるぐらいに延々と再スタートと死亡を繰り返し続けていき、半ばムキになって挑み続けていたけど次第に回数を数えるのも億劫になり、かといってこのリトライをやめたら死がまっていると考えると後にも引けず無間地獄のような時間を繰り返しながら、俺は死に続けた。

 運よくスタートを生き延びても、結局ただの人間でしかない俺は異世界では長生きできない。モンスターに襲われるのか、人に襲われるのか、飢えるのか、理由は色々かわるが結局死ぬ。いったい何十回、何百回、何千回死に続けたかはもうわからない。けれど、死に続ける中で俺の心はついに折れてしまった。

 異世界の生活は、現実世界よりもずっと厳しく、つらい。文明の利器もない。

 異世界のシミュレーションを繰り返し続ける中で、当たり前にあった毎日がどれだけ恵まれているかを実感した。自分の力だけで不自由な世界を生きていくなんて、俺には無理な話だったんだ。安全があって、家族がいて温かいご飯も寝る所もある毎日の勝ちが、今ならわかる。

 その中で我儘を言い続けていた俺が駄目な奴だったという事も。だから俺は、声を絞り出した。


「……もう、いいです。俺、異世界転生、無理です」


 再スタートを待つ中で呟くと、次の瞬間には元いた部屋に戻って俺は椅子に座っていた。ジェーンとジョンもいる。


「お疲れ様。異世界で生きるという事の過酷さ、大変さを感じてもらえたようだね」


 ジョンがにこやかに話しかけてくるが、そんな態度に突っ込む元気も返事をする気力もない。終わりなく死に続ける事で俺は疲弊しきっていた。


「くそっ、くそっ、俺は……異世界に行っても駄目な負け犬の一生なのかよ!現実世界で上手くいかなかったからせめて異世界ではって思ったのに……うっ、うっ、敗北者、敗北者、俺はクソザコ敗北者……」


 自分がカスの敗北者である事、そして異世界に行っても俺は都合よくチートで無双する事なんてできないことを思い知らされて、背中を丸めて咽び泣く。だがそんな俺に、ジェーンが優しく声をかけてきた。


「―――田所修さん、大丈夫。貴方はまだ戻れるわ」


 戻れる、という事はどういう事だろうか?ただ、その言葉に光明を感じて縋るように顔をあげた。

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