第5話 田所修1-5 フルボッコな異世界自爆ざまぁ
「―――お嬢様。……正直に申し上げて、僕は彼が異世界転生をするべき人間ではないと思います」
「なんだとてめーこらっ!!これをみて俺を可哀想だと思わないとか、人の心とかないんか?!どうみても俺悲劇の主人公だろ、完全に異世界転生する導入っしょ!間違いないっしょ!」
ジョンの言葉に俺は椅子から立ち上がり叫ぶと、ジェーンがじっと俺を視てきた。きらきらと済んだ瞳と目が合い、吸い込まれそうになる錯覚に腰を抜かすようにして椅子に座ってしまう。
「……残念だけれど私も貴方が異世界転生に足る人ではないと思います。……田所修さん。それでも貴方は異世界転生がしたいですか?」
ジェーンの言葉に俺は即座に頷く。
「当たり前だろ!っていうか最初から言ってるだろ!!はやく俺を異世界に行かせろぉ!」
そんな俺をじっと見ていたジェーンが、目を閉じ少し考え込むようなそぶりを見せた後、静かに答えた。
「貴方の希望はわかりました。……ですからこうしましょう。これから貴方に疑似的に異世界転生を体験してもらいます。それで納得がいけば、異世界への転生を許可する事にします」
「はぁ?なんだよそれまどろっこしい。いいから―――」
「田所修さん。異世界に転生するときの“祝福”……チートと呼ばれるような能力は、何も無条件に与えられるものではありません。前世での行いや努力、磨いた才能などを考慮して与えられます。
なので率直に言って、現時点で貴方に与えられる祝福は――――『ありません』。
だからそれでも異世界に行きたいか、満足するまでシュミレートしてから決めてください」
「はぁ?!何だよそれふざけんなよ!なんでチートなしなんだよ!!俺が何をしたっていうんだよ!!!!」
「何をした、ではなく何もしなかったからチートがないのです。
現実世界で頑張っていたならそれに応じたチートを与える事が出来ますが、貴方は何も頑張らなかった。だから異世界に転生するとしてもその身一つで転生してもらう事になります。
これは私の決定です、貴方が駄々をこねても変わる事はありません。それが不服なら、この話はここで終わりです」
威圧するように俺を視てくるジェーンの視線の、有無を言わせぬ迫力にたじろぐ。なんだよその横暴!!クソ、と文句を言いたくなるが……だがシュミレートとやらをしてからなら異世界転生できるんだろ?いいさ、なんでもいいやってやる。異世界に行きさえすればあとはなんか前世の知識とかで何とかなるだろ、多分。
「……チッ、わかった。そのシュミレートとやらをやって俺が納得したら、異世界に転生できるんだな?いいぜやってやるよ!!」
「では、シュミレートを開始します。ジョン、準備はいいかしら?」
ジェーンに声をかけられたジョンが頷き、みればいつのまにかその手には黒い取っ手のついたハンドベルが握られていた。
「畏まりましたお嬢様。それでは田所君――――グッドラック♪」
そう言いながらジョンがハンドベルを鳴らすと、リィン、澄んだ鐘の音と共に視界が暗転し、次の瞬間には俺は森の中にある開けた場所に立っていた。
「お、おぉぉ?!みたことない植物?マジで異世界かここ!」
シダのような植物や、みたことのない草花の生えた森の中に立っていた。シュミレートといっても随分とリアルじゃないか。
いやぁ、わくわくするなぁ。此処から俺はどんどんモンスターを倒して強くなって美少女に囲まれたハーレムを――――っと、そんな事を考えると近くの繁みがガサゴソと動いている。そうか、最初の敵だな?スライムとかの弱い雑魚がでてくるんだな。
『ヴァオオオオ!!!』
繁みをかき分けて出てきたのは、一本角を生やしたクマのような生き物だった。口からはみ出た乱杭歯やところどころに結晶体のような甲殻があるから厳密にはクマじゃないんだろうけど……いきなりクマァ?!そいつは4足歩行でゆっくりこちらに向かってきている。牙をむき出しにしながら俺を視ているので俺を狙っているのはわかる。最初の敵が異世界クマ(仮)ってなんなんだよおかしいだろ!
くそっ、やってやる。武器、武器…ねぇ!武器がねぇ!!!!!!身一つで転生するってマジで武器も何もねーのかよ、初期装備位普通渡すだろあいつらァァァァァッ!!
「ヴォフッ、ヴォフッ」
間近に近寄ったクマ(仮)が後ろ足で立ち上がり、両手を広げている。まずい、完全に攻撃してくるモードじゃんかよォーッ、くそーっ!しかしクマって本物を近くで見るとこんなやべーのかよめっちゃ怖い!!
魔法、魔法とか何か出ないのかよと試しに手をかざしてみるが何も出ない。それどころか、俺がかざした手をクマがかるく薙ぎ払うと、腕が曲がってはいけない方向に折れていた。
「あんぎゃああああああああああああああああああっ?!」
遅れてきた激痛に絶叫するが、そんな俺の声を引き金にしたかのようにクマが俺の顔面を殴りつけてきた。顔の中央に激しい痛みが走り、鼻や歯や頭蓋骨が砕けた感触を感じる。片目も潰されたのか、右半分の視界がない。てめえこのクマ公、将来この世界を統べる英雄っ!になるこの俺になんてことをしやがる畜生、どんどん痛みが強くなる。痛い痛い痛いイタイイタイイイイイイ!!頭の中がシェイクしているような感覚と吐き気に動けず膝をつく。……そして俺に向かって口を開きながら迫るクマが俺の足に食らいつき、俺の身体を持ち上げては何度も地面に叩き付ける中で俺は意識を手放した。
『―――――YOU DEAD』
そんな機会音声が聞こえた気がして、目を開けると俺は元の部屋に戻ってきていた。俺を視ながらドンマイ、とでもいわんばかりに手を挙げるジョン。
「瞬殺かぁ……残念だったね」
「残念だったね、じゃねーんだよモルスァ!いきなり目の前にクマとかどういう了見してんだ!ふざけんなクマがどれだけ危険な生き物かわかってんのかよ!!クマに襲われたら人は死ぬし喰わる事もあるるんだぞ!!!!」
そんなジョンの言葉に思わず反論する。熱くなりすぎて支離滅裂に叫んでしまったが、そこはどうでもいい。いきなり人間が無防備にクマの前に放り出されてどうにかなるわけねーだろ!!
「うん、そうだね。だから異世界はそういう危険な生き物が跋扈している世界ということだよ。君もゲームやアニメや小説でよく知っているだろう?……確かに君がいた世界では種類は違えど人の生息域にこういった危険な生物が出没する事もあったみたいだけど、異世界ではそれが当たり前の状態なんだ。ちなみに君がやられたあの生き物はホーンクリスタルビーストという生き物なので正確にはクマではないよ」
何を今さらといった様子でジョンが言ってくるが違う違う、違うそうじゃない。あとあの生き物がクマかそうでないかとかそう言う問題でもないッ!!
「――――あと丸腰ってなんだよ普通に死ぬわ!!!何か装備とかないのかよせめて何か寄越せよ!!今のはノーカンだ。今のは武器がなかったからだ!!もう一回!!次は負けねぇ!!」
「えぇっ?!君は注文が多いなぁ」
ジョンはすごく不満気だが、ジェーンはそんな俺の言葉に静かに頷いた。
「……いいわ、ジョン。次は武器を持たせてあげて」
「畏まりましたお嬢様。……それじゃ、もう一回いくんだね?」
「当たり前だ!次はあの糞クマぶっ殺してやる!!!!現地住民の安全のために俺がクマの頭数減らしてやらぁ!!!!俺は頭ハッピーにクマを殺すな可哀想っなんて言わねーんだよオラァァァァァァァッ!!」
――――そしてさっきと同じ森の中にいる俺。
草むらからまたさっきのツノつきのクマが出てきたが、俺の手には鉄の剣と木の盾が握られている。いかにも~な初期装備だが、無いよりましだ。盾を構えながらクマに対峙していると、ファンタジーの主人公になったみたいで高揚するぜ。
「へへっ、今度は武器があるんだ!てめえなんて怖くねぇ!!やろう、ぶっ殺してやぁぁぁぁぁるッ!!オラァ死ねやクマ公!!」
『ヴォッ、ヴォッ』
警戒しながら俺に近づいてくるクマに、先手必勝と斬りかかる。甲殻の所は硬そうなのでそこを避けて斬りつけた剣がクマの身体にめり込む。勝った!!
―――――うん?めり込む?
クマの身体は毛皮と肉のはずなのにかたく、斬りつけた筈なのに斬れていない。はあぁぁっ?!何でこんなに硬いの!?
そう驚いている一瞬の隙にクマが立ち上がり、口からビームを吐いた。ビームゥゥ?!木の盾で受け止めたが盾はあっさりと破壊され俺の胴体にクマの攻撃が命中ッ!!
……俺の身体は蹴られたサッカーボールの如く宙を舞った後に地面に叩き付けられた。
「ウッ、おああああっ」
全身が痛い、そして動かない。身体中の骨がバラバラにでもされたかのようだ。そしてそんな俺にクマがゆっくりと近づいてきて、かぶりつかれる。ガブッ、ブチィ、クチャクチャ。
「いぎゃあああああああああああああああああああああっ?!?!?」
腹に喰らいつかれ、自分が咀嚼されていく音を聞きながら絶叫を上げ続ける事しかできない。そして段々と意識が遠くなり……
『―――――YOU DEAD』
また、機械音声が聞こえた。なんだよこれ、異世界転生ってこんなんじゃないだろ?!こんなの、俺が思い描いていた異世界転生じゃない!どぼじでごんなごどになるにょぉぉぉぉぉ?!……あんまりだぁぁあぁぁぁぁぁっ……!!
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