第3話 田所修1-3 逆恨みと失恋


「裏切ったな亜理紗!なんでなんだよ!!」


 亜理紗が第一志望の高校に進学すると聞いた俺は、亜理紗を公園に呼び出し怒りのままに問い詰めた。夕暮れ時の公園には俺達しか人影はなく、遠くに聞こえるカラスの鳴き声以外に音もなかった。


「俺が私立に行くっていうのに、なんでお前は第一志望に行こうとしてるんだよ。幼馴染だろ?!」


 そんな俺の言葉に、亜理紗はじっと下唇を噛んで言葉を堪えていた。


「ふざけんなよ、お前――――俺の事が好きだったんじゃないのかよっ!!」


 激高した俺はそう言いながら、感情のままに亜理紗に喚き散らした。


「――――シュウ君のばかっ!!!!」


  そう言って、堪えられないというように亜理紗が叫んだ。その剣幕と、何より亜理紗がぼろぼろと大粒の涙を零しながら俺を視ているという事に返す言葉を失い、何も言えなくなってしまった。

  

「そうだよっ!私、ずっとシュウ君の事、好き、だったよ……!

 だから一緒に頑張ろうって、シュウ君があの学校に行きたいっていったから、一緒に頑張ろうって、同じ学校に行こうっていうから、同じ高校を志望したんじゃない!!だからシュウ君が真面目に勉強をしていないときに、声をかけたんじゃない!でも、シュウ君ぜんぜん、聞いてくれなかったでしょ……!!シュウ君に一緒に勉強しようって誘っても、Vtuberとか、ゲームに忙しいからって、そっけなく断って……私が何を言っても馬鹿にするみたいにしてたじゃない!うああああああああああああんっ!!」


 スカートのすそを握り、涙をぬぐう事もなく叫ぶ亜理紗の様相は、今までの俺がみたことないものだった。


「私、頑張ったんだよ?!塾に通って、毎日、家に帰ってからも勉強して、復習して、あの学校に合格するのって難しいって言われてたから、毎日こつこつ、頑張ったんだよ!だから私があの学校に通って何が悪いの!?なんで私、シュウ君に責められなきゃいけないの??」


「一緒の学校に行くっていうなら俺と同じ学校に来てくれたっていいじゃないか!!!そうすれば高校も一緒に入れるんだし――――」


「ふざけないで!!!私がこの1年、どれだけ頑張ってきたと思ってるの?たくさん勉強して、努力してきたもんだよ?お父さんもお母さんも頑張ったねって褒めてくれたんだよ?私頑張って受かったんだからあの学校に通うよ!!」


「じゃあ俺はどうするんだよ!?俺は違う高校に通えっていう事かよ?!」


「――――そうだよ!!だって、そうするしかないじゃない!!」


「はぁ?!ふざけんなよ!!!!お前俺の事が好きなんだろ?告ってこなかったけど知ってるんだぞ!!そうだ、それならせめて一回ぐらいヤラせろよ――――!!」


「――――ふざけてるのはシュウ君の方だよ!何でそんな自分勝手なこと言えるの?!子供の頃のシュウ君は、優しくて、いつもニコニコしてて、人を笑わせるのが好きだったじゃない。私はそんなシュウ君が好きだったんだよ。でも今のシュウ君の――――自分勝手な田所くんのことなんか全然好きじゃないよ!!!!!」


 今日一番の叫びが響く。ひっく、えっぐとしゃくりあげながら肩を震わせる亜理紗の剣幕と姿に、俺は何か決定的な事を間違えたような気がして何も言葉が出なかった。


「……さよなら、田所くん」


 そう言って涙をぬぐいながら走り去っていく亜理紗をおいかけようとしたが、腰から下の力が抜けて情けなく崩れ落ち、追いかける事が出来なかった。震える足をパシンパシンと叩くが動こうとしない。くそっ、動け、動けよ俺の足!だがそんな風に地面にへたり込んでいる俺の事を一瞥もすることもなく、亜理紗は走り去っていった。


「まて、待てよ亜理紗!おい、ちょ待てよ!!!亜理紗!亜理紗ぁぁぁぁぁっ!!」


 陽が落ちようとする公園に、俺の絶叫だけが虚しく響いた。


―――これは、俺の人生の中で一番最悪な記憶だった。両思いだと思っていた幼馴染との決定的な決別の思い出。俺の初恋が失恋した瞬間だ。


「ふーむ、これは普通に幼馴染さんが可哀想ですね。同じ男としては君を軽蔑します。自業自得のクズムーブですね」


 ジョンが俺の事を冷たい目で見ている。誰がクズだてめえこの野郎!どこにクズっと言われるような所があるんだよ。


「うるせえ!!俺のいったい何がいけなかったっていうんだよ!!」


「全部だと思うなぁ、言ってることとやってる事がクズとゲスのフルコンボすぎて君を擁護する要素が見つからない」


 チクショー!!おまえみたいなイケメンイケボにはわかるまい、寝取られ男の悲哀なんかよぉ!!なんか手袋を口で噛んで脱がしてそうなイケメン執事さんはお帰り下さいウワァァァァァン!!


「……貴方が彼女と同じように毎日コツコツ努力していれば、2人とも一緒に合格している未来だってあったのではないかしら?それなのに相手が悪いかのように責め立てるのは良くないわ。穏やかじゃないわね」


 ジェーンも俺を憐れむような視線を向けている。なんなんだよこの2人組ィ、異世界転生の審査だかなんだかしらないが失礼すぎるだろ?!


「何なんだよお前ら偉そうに!俺の気持ちも知らないで!俺だって毎日大変だったし色々と忙しかったんだから仕方がないだろう!!何様のつもりだよ!!!!!」


 カッとなって絶叫したが、ジョンが静かに首を振りながら答えてきた。


「何様と言われればジェーンはお嬢様かな?はっはっは。いやつまらなかったねごめんごめん。それはさておいてもジェーンは異世界転生の審判官だというのを忘れてはいけないな。

 それにこれは別に君を辱めるためでも責めるためでもない。君の今までの人生を振り返り、異世界転生するべきか否かを見極めているだけさ……さぁ、そんなことより審査を続けないとね。よろしいですか、お嬢様?」


 そう言ってジェーンに続きを促すジョン。穏やかで柔和な態度とは裏腹に、その言葉は淡々としている。くそっ、なんて屈辱だ。こんなの異世界転生して超絶チートをたくさんもらいでもしないと割に合わないぞ。

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