第2話 田所修1-2 自業自得なサボりの代価

 どうして異世界転生がしたいか?……それは、俺の人生が狂う原因になった高校受験がきっかけだ。

 しょうがない聞かせてやる、この俺のあまりにも悲しい寝取られ物語を。何の非もない俺が理不尽に幼馴染を奪われた、悪夢の記憶を……!!


 俺、田所修はどこにでもいる平凡な男子だった。勉強も、体力も、大体人並み。得意な事があるわけではなく、強いて言えば、人よりも漫画やゲームが好きだった。

 だがそれに不満があるわけではなかったし人生明るくをモットーに、クラスの中でも賑やかな方だった俺は日々毎日友達と楽しく過ごしていた。

 ただ、小学生から中学生になっていく中で仲の良かった友達が漫画やアニメやゲームを卒業していったが、俺は変わらずそう言ったものが好きで、次第に周りとは趣味が合わなくなっていった。

 中学3年になるころには、俺はアニメやゲームが好きで教室の中でもパッとしない枠、すっかり“陰のもの”……いわゆるところの陰キャになっていた。


――――高校受験を前にした中学3年の夏休み。


 俺は母さんに頼み込み、高校受験に備えて塾に入れてもらった。せっかくの夏期講習だったが、暑いし怠いしどうにもやる気が起きずに、授業中にノートの隅に落書きを書くのがもっぱらの楽しみになっていた。

 ……おっ、けっこう可愛く書けたじゃん。俺って才能あるんじゃね??俺って同年代に比べたら美少女イラスト描くの上手いと思うし、将来神絵師になれるかもしれないからこれも将来のための勉強だよな、うん。そんな風に自分のイラストを褒めて悦に浸るのは毎日のルーティン。何か不思議なんだけど授業中に落書きするといつもより上手く描けるんだもん仕方ないよね☆


「シュウ君、授業中だよ?しっかり聞かないと」


「チッ、うっせーな、わかってるよ亜理紗」


 そんな俺の様子を見て、俺の隣の席で真面目に授業を受けている女子―――幼馴染の平田亜理紗がひそひそと小声で咎めてきた。

 注意をされたので反射的に悪態をつくと、亜理紗は哀しそうに俯いた。まったくお前は俺の母さんでもないのにあれこれ五月蠅いんだよ。顔とスタイルはいいけどこういう所が玉に瑕なんだよな、こいつ。

 塾が終わった帰り道でも、折角塾に通わせてもらっているんだからもっとまじめに勉強しなきゃだめだよ、とか、色々と御小言を言ってくる。うぅん、これがなきゃ最高の幼馴染なんだけどなぁ……。

 それを適当に聞き流しながら歩いていると、道行く男どもが、黒い髪を靡かせながら歩く亜理紗のことを振り返る。羨望と嫉妬の入り混じった視線を感じて優越感に浸る事が出来る。これは、幼馴染の贔屓目を抜いても、亜理紗が間違いなく美少女だからだ。

 お互いの家の前での別れ際も、シュウちゃん授業中サボってたんだから夜にきちんと復習しないと駄目だよ、授業についていけなくなるよと念押しをされた。

 はいはいわかってますよと鼻歌交じりに応えて部屋に戻った俺は―――まずはPCをつけた。推しのVtuberの配信があるからだ……勉強なんてしてる場合じゃねぇ!!

 はぁ~、V活は受験勉強で荒んだ心の癒しだ……全く、Vtuberは最高だぜ!!!


 フゥーッ☆気づけば1時間くらいガッツリ見入ってしまっていた。でも仕方ないよねVの配信はリアタイしてなんぼってもんよぉ!中学生の俺にはスパチャとかできないからスパチャして読み上げてもらっている卑怯なズル野郎に歯噛みしながら、高校生になったらバイトして絶対スパチャして推しに読み上げてもらおうと決意を新たにする。

 そもそも無課金コメントを読み上げないなんて不公平すぎるぜ、スパチャはしてないけどグッズは買ってるし、配信は毎回欠かさず観に行ってるんだから課金厨のコメントばかり読んでないでこっちを優先的に読み上げて欲しいよな、無課金を何だと思ってるんだよ。


 そんな事をしていたら母さんに呼ばれて渋々晩御飯を食べにおりて急いでかきこむ。食事中に勉強の進捗や塾の事を聞かれたが無視して部屋に戻り、V活の続きだ。

 楽しい時間はあっという間に終わってしまったので勉強をするか、と思ったところでソシャゲのイベントが今日からなのを思い出した。いけない、デイリーやらなきゃ!あ、そういえばSNSチェックしてなかった。ツブヤイターしていいねして回ったり、昨日のアニメもみなきゃいけないし色々とやる事山積みだ!!受験生って忙しいぜ。いましかできないことばかり、エンジョイしまくらなきゃ損っ!なんだぜっ!!


「………ってあれ、なんで俺の話に合わせてあの頃の映像が?」


 まるで走馬灯のように、白い部屋の壁に中学3年生だったころの俺の夏の様子が映し出された。異世界転生の審査、というだけあって何か不思議な力でも働いているのだろうか?受験勉強に勤しんでいた頃の俺の姿だ、懐かしい。


「……これを受験勉強と言うのかしら?」


「普通に遊びほうけているだけに見えますね。しかも親に安くないお金を払ってもらって塾に通わせてもらっておきながら……」


 一方で、映像を眺めていたジェーンとジョンは半目で俺を視てきた。図星をつかれて居心地が悪くなり嫌な気分になるが、それを振り払うように怒声をあげる。


「う、うるさい黙れ!!こういうのは受験のストレスとか、そういう事の発散に必要だったんだよ!!それに俺のイラストはこうやって書いていたらいつか神絵師になって企業案件が舞い込んでくるかもしれねーから無駄じゃないんだよ!!!将来に活きるんだよ!!!お前らにはわかんないだろうけどな!

 それに大事なのはこの後だよ!この後、高校受験の合格発表で、俺には理不尽な悲劇に襲われるんだよ!!」


「……そう。貴方がそう言うのなら、そう言う事にしておくわね。それでは次はその合格発表を確認しましょうか」


 ため息交じりにジェーンが告げると、場面が変わった。

 そこは忘れもしない俺にとっての悪夢の始まり、合格発表の場だった。


「……ない。俺の受験番号が、ねぇ!!」


 ――――薄々予感はしていた。試験は全然ダメだった。受験の最中、問題がもう本当に全然わからなかった。自分なりに勉強したと思っていたけど、問題を全て解くことすらできない科目が幾つもあった。最終的に俺の天才的な奇跡の勘を信じて適当に穴埋めだけはしたけどダメだったようだ。

 なんでだよ、おかしいだろこんなの?!


「……シュウちゃん」


 俺の表情と様子から察したのか、亜理紗が沈痛な面持ちをしている。


「……俺、落ちちまった」


 亜理紗がどうだったかなんて、聞くまでもない。……亜理紗は成績優秀だ、合格するのも当然だ。落ちたのは俺だけだった。

 合格発表の帰り道、俺は終始無言だった。亜理紗が色々と声をかけたりしてくれた気がするが、それらすべてに悪態をついて返した。亜理紗に八つ当たりをしても何にもならないのはわかっているが、もうむしゃくしゃして、イライラして、そうするしかなかった。


「……親父や母さんに話さなきゃ。……俺、私立に行くことになるかも」


「……うん」


 家の前で絞り出すようにそう言うと、かける言葉を失くした亜理紗が静かに頷いた。なんなんだよ、幼馴染ならここは俺に寄り添って慰めてくれるべきところなんじゃないのかよ?!

 それでそのままいい雰囲気になって初☆体☆験とかそういうストーリじゃね????


 ――――けど、この時はまだ俺は甘い考えでいた。ずっと一緒にいた亜理紗は俺の事が好きなんだと確信していたし、俺が私立に行くなら亜理紗も同じ学校に進学してくれると、そう思っていたんだ。

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