お嬢様、この異世界転生はアリですか?~その異世界転生、審査しマス!!~

サドガワイツキ

自己中陰キャ君は異世界で俺tueee出来ますか?

第1話 田所修1-1 (自称)寝取られ被害者君

―――何が幼馴染だ。あっさり他の男に寝取られてるんじゃねーよ。


 そんな自分の声が聞こえた気がして目を開くと、そこは自室ではなかった。

 白と黒の正方形のタイルが交互に貼られた床と、真っ白な壁紙の部屋。

 そんな中に黒塗りの長机がポツンと一つあり、金の長髪に白いベレー帽を被った女の子が座っている。見る限り灯りも窓もあるわけではないけど部屋の中は明るかった。

 着ている衣装が白と黒のゴシックファッションというのを抜いても、女の子自身の容姿が際立って美しく白磁の陶器のような肌も、飲み込まれてしまいそうな青い瞳も、人間離れしていて芸術品のように目をとらえて離さない。

 10代前半から半ばぐらいに見えるが、纏っている雰囲気は成人にも見える、そんな不思議な風格も感じる。

 そしてその傍らには黒を基調にした執事服を着て艶のある黒髪を後ろに撫で上げた青年が立っていた。男の方はすっと通った目鼻立ちと整った顔をしていて、こちらも浮世離れした美形だが今は穏やかな表情で微笑みを浮かべている。

 そんな2人が並んでいるとまるで創作世界のお嬢様と執事の様な印象を受ける。


「どうぞおかけになって、田所修さん。私はジェーン、そして隣にいる彼はジョン。短い間だけど宜しくね」


 田所修、というのは俺の名前だ。

 ……名前を呼ばれたという意味を理解するよりも、声そのものが美しい音だなと思って聞き入ってしまった。

 それから、ジェーンと名乗った少女が喋ったのだと気づいてハッとし、促されるままに自分の後ろを見ると可愛らしいデザインをした木製の肘掛け椅子がある。

 言葉を返そうとしたが上手く出ず、反射的にえ、あ、あっ、とくぐもった声を出してから、頷いて座る。

 ミチィギチィと椅子が軋む音を立てる音が鳴ったが、女の子―――ジェーンは俺が座ったのを見るとにこり、と微笑んで頷いた。……美少女の前で恥ずかしいところをみせてしまうとは不覚。俺のワガママXLボディにはこの椅子は窮屈だZE☆部屋のゲーミング椅子位でかい椅子用意して欲しいところ。


「では、はじめましょうか。貴方が異世界に転生するのにふさわしいか否かの審査を」


 異世界転生、と聞いて、ぼんやりした頭が段々とハッキリしてきた。

 ……そうだ、俺は、あのくそったれな毎日に嫌気がさしたんだ。俺を除け者にするクラスのカスども、俺を裏切って他の男と付き合っていた幼馴染、クソみたいな陽キャ野郎、俺が何を言っても取り合わないゴミ教師、俺の気持ちも知らず五月蠅いだけの両親。なにもかもがゴミカスだらけの場所、あんなところにいる位ならいっそ……と、俺は物語の中のように異世界転生を夢見て―――校舎から飛び降りたんだ。あまりにも可哀想すぎる俺、なんという悲劇の主人公。どうみてもネトラレ系ラブコメ主人公すぎるよなぁ!それはこんなの異世界転生して俺tueeeeeeeeee!で無双しまくりーのモテまくりーのするのが残念ながら当然だよなぁ?!?!


「そうだ、そうだ!俺は異世界に転生するんだ!あんなつまらない毎日なんかとアディオスグッバイして、異世界で無双してやるんだよォーッ!!」


 目の前の非日常な光景に俺は自分の目論見が成功したんだと思わずガッツポーズをする。……だがそれを制止するように、男―――ジョンが瞳を閉じ、静かに首を左右に振りながら言った。


「あわてないでくれ田所君、まだ君が異世界転生に足ると決まったわけじゃない。それをこれから審査するんだよ?」


 ジョンはジェーンに対しては丁寧な物腰で接しているけど俺に対して随分とフランクなしゃべり方をするんだな、と思った。別にこっちもその方が気を遣わなくていいけど、超絶美形の癖に明るく人懐っこい喋りとかモテそうで妬ましい、モテるイケメンは速やかに滅びて欲しいなぁ……!!クソがっ!!

 ……そして審査、という言葉にずきりと胸の奥が痛む。

 あんなに頑張ったのに第一志望の高校にはいけず、そのせいで幼馴染とは別々の高校になって、それで、アイツは同じ高校の奴と仲良くなっていて、それで、2人がラブホテルから出てくるのを見て、俺は、俺は――――。


「―――なんなんだよ審査って!!いいから俺を異世界に転生させろよ!!

 異世界で最強のチートで無双させてくれるんだろ?!はやくしろよ!!あくしろよ!!!

 俺を馬鹿にして舐めまくって嫌な思いをさせたあいつらにざまぁしてやれるくらい俺は異世界で充実した生活を過ごさせろよ!可愛い女の子に囲まれてチートのハーレムライフをだせおらぁっ!!」


 嫌な記憶を振り払うかのように俺は立ち上がって叫ぶが、ジェーンもジョンもそんな俺の様子に驚く事もなく、静かに――――悲しそうに俺を視ていた。やめろ、そんな養豚場の豚を見るような目で俺を視るんじゃぁ、ない!!


「落ち着いて、そして座って田所修さん。……先ずは、説明をするわね。今、異世界への転生というのは希望者が多すぎて誰もかれもを簡単に転生させるわけにはいかないのよ」


「だからお嬢様と僕達のように、異世界への転生を希望する人間が異世界に転生するに足りるかを審査する部屋を設けて、その審査をクリアしたら異世界に転生してもらうようにしているんだ。そして今、君はまさにその審査の場にいるんだ。わかるかい?」


 ジェーンとジョンがそう説明してくる。わかるよー、じゃねぇんだよなぁ!なんだよそれ、ふざけんな!!何が審査だよそんなの聞いてないしネットの小説やラノベだってそんな事は書いて無かったぞ。

 クソみたいなリアルが嫌になって命を落としたら異世界でチート与えられて最強の力で無双して美少女に囲まれてハーレムができて何不自由なく過ごせるって書いてあるじゃないか!!!!!!


「うるせえええええええええええええええええ!!黙れ黙れ黙れうるせえええええんだよおおおおおおおおっ!!ゴチャゴチャ言ってないでいいから俺を転生させろー!!!ふざけんなああああああああああああああああああああごらあああああっ!!!!!お前らに現実で踏みにじられ続けた俺の悲しみがわかるかあぁぁぁ、幼馴染を寝取られて、僕が先に好きだったのにで苦渋を舐めさせられた俺を可哀想だと思わねえのかよ!!!!!」


 怒りのままに手を振りながら絶叫すると、俺の動きに合わせて腹を中心にした俺のBODYがばるんばるんと揺れるがこのさい構うものか!俺はデブじゃないぽっちゃりさんだ!!

 学校や外では通じなかったが、こうやって怒鳴って、壁を殴ったり地団太を踏めば母さんは言う事を聞いてくれた。だがそれはこの2人にも通じないようだった。

 俺の叫びや動きが収まるのを待ち、にこりと優しくほほ笑みながらジェーンが言う。


「怒鳴っても、叫んでも、暴れても異世界転生審査の結果は変わらないわ。なぜ貴方が異世界転生したいのかという理由やこれまでの人生と能力、それから転生先の異世界にとってプラスになるかどうかで転生するに足る人物かを判断します。では――――準備は良いかしら?」


 ジェーンの言葉には有無を言わさない圧力があり、俺は自分が唾を飲む音を聞いた。

 

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