インスタント面接 ※大幅加筆修正
ぬるま湯のような
夢見心地から覚めたはずで、けれど未だ
───瞼を開けて最初に映ったのは見覚えのない部屋の天井だった、という
直前の境遇的にもそれが適用されるとは
気づけばミーティングテーブルと、それを挟んだ向こう側にパイプ椅子が一脚置かれただけの部屋にいた。それ以外に特筆すべきことがなく、そしてだれもいないこの空間にはどこか見覚えがあった。より正確に言い表すなら、そう───
状況が呑み込めない。どうにも受け入れられない。
だって████は───死んだ、殺された。
自我が死という概念で
「うん、それで?」
〈それで───……え?〉
声がした。男とも女ともつかない声が耳朶を打ち、困惑の色を濃くした自身の声がなぜか脳に直接響く。エコーが変に効いたカラオケボックスにでもいるようだ。鳴音がひどい。
「こっちです、こっち。 ……見えてますかね?」
誘導されるようにして声の発生源を辿れば、いつのまにかパイプ椅子に腰を下ろしている人物がいた。蛆のように湧き、煙のように唐突に現れた。勿論、音などあるはずもない。
黒のタートルネックと同色のスキニーを身に纏っているそのひとは、細く長い足を優雅に組んでテーブルに頬杖をついている。
驚くべきことに、その人物の顔には一切の表情がなかった。……否、表情どころでなく、あるべきパーツが存在していなかった。それらすべてを隠すように、ただ白いだけの面で顔を覆っている所為だ。
訝し気に見すぎたか。一点を注視していた████の視線に気づいた人物は「あ、ごめんなさい。いまパチスロ起動しますねー」などと意味不明なことを、やっぱり男女どちらか判別できない声質で言って───そうして宣言どおり、パチスロとやらを起動させた。
パッと電源が点いて、模様や装飾がないただ白いだけの面の中央に絵柄が表示された。液晶画面と化したらしい面の上で、複数の絵柄が高速で流れていく。
なるほど、これがパチスロ……と妙に感心し、ほぅと丸っこい空気を吐いたところで「お好きなところでストップって言ってください。なんかこう、フィーリングで止めてもらえると」と指示を受けた。
てれれれー、とどこか間抜けな音を伴って絵柄が循環していく。高速すぎてどんな絵柄の群れが流れているのかてんでわからず、ただ適当に止める他なかった。
〈えっと───……ストップ〉
ぞんざいに止める。てれれれー、と鳴っていた間抜けな音と、何通りあるのかもわからない絵柄がピタリと止まり、面の中央に固定される。
黄色い球体に潤んだ目がついてる……ぴえんと呼称される絵文字だった。
「あ、ぴえんだ。ふぅん、なるほど把握です」
なにやら納得したらしい人物が、おもむろに手を伸ばして面に手をかけた。そうして外された面の下を見て、████は絶句した。
ひどくうつくしいひとだった。
この世に存在する、ありとあらゆる美の概念が、きまぐれで人間の
████は怖気ついて、けれどその怖れは瞬時に吹き飛ぶことになる。息つく間もなく捲し立てられ、その勢いのすごさに圧倒されたからだ。
「はいどうもはじめまして、採用担当係のロアって言います! エル、オー、エーでロアです! 気軽にロアって呼んでください! じゃ、こっちの身分を明かしたのでインスタント面接を始めまーす! ───……はい採用! これ内定書! というわけでいまこの瞬間から働けます! おめでとうございます、ご愁傷さまです!」
さきほどまでの平坦な声音はどこへいったのか。語尾すべてに感嘆符がついているのかと訊ねたくなるほど怒涛の勢い。氾濫した川の水が押し寄せてくるよう。
どこで息継ぎをしているのかもわからないほど矢継ぎ早に話す
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