第100話 復讐鬼との戦い
「プルンの、だと……? ニンフィアは私のものだ!! つまり、ニンフィアのものは全て私のもの!! 誰にも渡さないというのはこちらのセリフだ!!」
レバンが激昂して、プルンに斬り掛かる。
でも、プルンは人型になってもあくまでスライムだ。
斬られた端から再生して、何の意味も成していない。
「ちいっ、ならば魔法で……!」
「させんぞ」
「っ、くぅ!!」
剣がダメなら魔法でと、レバンが構えを取った瞬間、今度はルルークが斬り掛かった。
いくら不死身の体でも、さすがに斬られながら魔法を使うことは出来ないみたい。
プルンへの攻撃魔法が中断され、代わりにルルークに斬られた傷が跳ね返る。
でも、一度やられて慣れたのか、ルルークは特に動揺することもなくレバンに話しかけていた。
「一度死んでアンデッドとなった俺よりも、生きているお前の方が“死”に囚われているというのは皮肉だな」
「黙れ、お前に何が分かる!!」
レバンが叫び、ルルークに斬りかかる。
肩を上下させ、癇癪を起こしたように暴れる姿は、まるで泣いている子供みたいだった。
「ニンフィアだけだったんだ、私に優しくしてくれたのも、私個人を見て笑ってくれたのも……!! 親に愛され、国民に愛されて育ってきたお前達に、私の気持ちなど分かるものかァ!!」
「っ……!!」
レバンの体から瘴気が溢れ、圧力が強まっていく。
こんなの、もう生きたままアンデッドになってるみたいなものだ。多分、正気もほとんど失ってる。
「プルン、リリア、手伝って。私、あの人を止めたい」
私の発言に、プルンもリリアも驚いたみたい。
問答無用で私を刺し殺そうとした人だし、実際刺されたわけだから、助ける必要なんてないかもだけど……目の前で泣いてる“子供”を見捨てるのは、良くないと思うから。
それに……ニンフィアって人が、本当に私のお母さんなのかどうかは分からないけど、もしそうだとしたら。
お母さんが狂わせてしまった人を助けるのは、私の役目だ。
「プルンはごしゅじんのペットだ、ごしゅじんのいうとおりにするぞ!」
「お兄ちゃん……!」
「……やれやれ、可愛い妹の頼みだ、やってみせるとしよう」
「うおぉぉぉ!!」
斬り掛かってくるレバンの剣を、ルルークが弾き返す。
そのままがら空きの胴体を斬り裂いて、魔法でそのダメージがルルークに跳ね返って、それをルルークが再生する。
お互いに不死身の体同士、一見すると無意味な斬り合いにしか見えないけど……そうでもないのか、レバンは一生懸命斬り続けるルルークを、鼻で笑う。
「無駄ですよ、私はいくら斬られても再生する。それはあなたも同じでしょうが……手数が違う」
「…………」
ルルークが斬ったダメージは全部跳ね返されるけど、レバンが斬ったダメージはルルークにしか入らない。
つまり、どうがんばってもルルークの方が斬られる量は多くなっちゃう。
「いくら不死身のアンデッドとはいえ、細切れにしてしまえば再生には時間がかかるでしょう、その隙に姫様を殺してしまえば、あなたは終わりだ……!!」
「……誰が誰を殺すって?」
その瞬間、ルルークの体からぶわっと、すごい勢いで瘴気が噴き上がった。
私でもびっくりするくらいの量に、けれどレバンは気付かない。
「私やあなたと違い、姫様は生身ですからね、それを殺しさえすれば……ぐはっ!?」
「やれるものなら、やってみるがいい」
ルルークの剣を振るう勢いが、一気に加速する。
斬ったら斬っただけ自分も斬られるのに、それでもお構いなしにどんどん早くなっていく剣を前に、レバンは何も出来ないでいた。
「ぐうぅ……!! いくら斬ろうと、その全てがあなたに跳ね返る、あなたに勝ち目は……!!」
「あるさ。簡単な方法が一つだけな」
そう言って、ルルークはレバンの首を斬り飛ばした。
同じように、ルルークの首も飛ぶんだけど……すぐさま、残された体から首が生えて来て、飛んで行ったレバンの首と、棒立ちになった体を両方真っ二つにする。
「お前の再生が追いつかない速度で斬り、お前よりも早く体を再生させ続ける。そうすれば、いずれお前は動けなくなるだろう、さっきお前が言った通りにな」
「なっ……!?」
これ以上ないくらいシンプルな答えに、レバンは絶句するけど……ルルークは、本当にそれを実行するつもりなのか、更に剣を振るスピードが早くなっていく。
レバンの体がバラバラになっては、一つの破片から何とか体を再生していく一方で……ルルークの体はもはや再生以前に、斬られた端からくっつき直してる。
あまりにも違い過ぎる再生スピードに、レバンは目を見開いた。
「なぜ、同じ瘴気を使って、これほどの差が……!!」
「そんなもの、決まっている」
ルルークが、レバンの体をどんどんバラバラにして、もはや一切の抵抗を許さない怒涛の嵐になっている。
そんな状態で、ルルークは堂々と言い放った。
「妹の声援を受けた兄に、敵う者などいるものか」
「はあぁ……?!」
「も、もう……お兄ちゃんってば……」
大真面目なルルーク、絶句するレバン、照れてるリリア。
うん、なんというか、リリアは可愛いからね、わかるよ。
「ともかく……今がチャンスだよ、プルン、お願い!」
「りょーかい!」
無抵抗のレバン目掛け、一気に体を膨張させたプルンの体が降って来る。
バラバラになった体を全部取り込んじゃえば、いくら再生しても抜け出せないからね。
その上で……私は、プルンの中で何とか抜け出そうともがいてるレバンの額に、指を置いた。
じっと精霊眼で観察する私に、レバンは引き攣った顔で問いかけて来る。
「何を……するつもりだ……」
「決まってるでしょ。あなたを、普通の人間に戻すの」
この人は瘴気の力で生き返ったアンデッドじゃなくて、生きたまま瘴気の力で不死身の体になってる半アンデッドみたいな存在だ。
だから、その瘴気を取り除いちゃえば、この人はちょっと使いづらい魔法を使えるだけのただの人間になる。
「やめろ……!! それは、私の復讐のための力で……!!」
「そんなの、いらないでしょ。お母さんを傷付けた悪い王国なんて、どこにもなかったんだから」
そう言って、私はレバンの体から瘴気をひっぺがす。
ちょっと痛いかもしれないけど、流石にそこまで気を使ってあげるつもりはない。
これは、お仕置きでもあるんだから。
「ぐわぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉぉ!!」
「……あなたは、自分を見てくれたのはお母さんだけだって言ってたけど、そんなことない。リリアはずっと、あなたの言葉で苦しんでた」
十年も封印されて、たった一人残されたリリアが、ずっと気にしていたのがレバンからの「戦って欲しい」って言葉だった。
どうでもいい人に言われたことなら、きっとリリアだって忘れてたはず。
でもリリアは、ちゃんとレバンからの言葉だってことまで覚えてたんだ。
それだけ……リリアだって、レバンのことをちゃんと見ていてくれてたんだよ。
そんなリリアを、あなたは裏切ったの。
「あなたを見てくれる人は、ちゃんと周りにいたの。あなたがちゃんと見てなかっただけ。復讐なんかで目を閉じないで、ちゃんと見なさい!」
「っ……!? ぐぅ、あ、あぁぁぁぁ!!!!」
レバンの体から、どんどん瘴気が抜けていく。
見るからに辛そうだけど、だからって手加減したりはせず、心を鬼にして最後の一滴までその全てを引き剥がした。
「その上で……あなたがこれまでしたこと、きっちり反省しなさい!! めっ!!」
瘴気が抜け、完全に生身の人間に戻ったところで、その頬っぺをペチンと引っぱたく。
その一撃を最後に、レバンは白目を剥いて気絶して。
こうして、サーシエの地を襲撃した帝国軍の指揮官は、私達の捕虜となったのだった。
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