第98話 復活の英雄
「いっちにっ、いっちにっ」
「い……いっち、にっ、いっち、にっ」
「おお〜〜、いいぞぉ二人ともぉ……効くぅ」
みんなが外で戦っている間、私とリリアは二人でグレゴリーさんの治療をしていた。
治療というか、マッサージだけど。
リリアと二人でグレゴリーさんの上に乗って、腰をふみふみ。
周りが戦場だって考えると、これでいいのかなって心配になってくるけど……プルンハウスの中で、外はブレイドラが守ってくれてるから、今のところ特に問題は起きてない。
お陰で、クロはプルンに包まれたまま治療に専念して眠れてるし……グレゴリーさんの腰が復活すれば、相手が誰だろうと吹っ飛ばせるし、今はこれが一番だよね。多分。
「それに、みんなの魔力はまだ視えてるし……」
死ねば魔力が霧散して視えなくなるけど、今のところみんなの魔力は元気に膨れ上がってる。
特にガバデ兄弟は張り切ってるのか、魔力だけじゃなくて「ヒャッハー!!」って声まで聞こえてるんだよね。
だから大丈夫、と自分に言い聞かせてたら、足下から真面目な声が聞こえてきた。
「心配するなミルク、奴らは強い。こんなところでくたばるようなヘマはしないだろう」
「グレゴリーさん……うん、そうだね」
グレゴリーさんの言う通り、みんな私より強いし、気にしても仕方ない。
ただ、そんな真面目な話をしている間も、グレゴリーさんは私とリリアに踏まれて気の抜けた声を漏らしてるから、ちょっと締まらないなぁ。
──そんな風に思ってたら、急にグレゴリーさんの表情がスッと引き締まる。
「全く、どうやら無粋な客が来たようだな」
「っ……プルン、守って!」
グレゴリーさんから一瞬遅れて“それ”に気付いた私は、プルンハウスをぎゅっと小さくしてより分厚い防壁にする。
それでも一発で分裂体が吹き飛び、私達もバランスを崩して倒れそうになった。
そんな私達を、体を起こしたグレゴリーさんが受け止める。
「おっと、大丈夫かミルク、リリア」
「大丈夫、ありがとう、グレゴリーさん」
「あ、ありがとう、ございます……」
「気にするな。それより、今はコイツだな」
グレゴリーさんが、プルンの壁を吹っ飛ばした元凶へ目を向ける。
そこでは、既にブレイドラが一人の男に戦いを挑んでいて……派手に吹き飛ばされるところだった。
「ブレイドラ!」
『くっ……すまないミルク、コヤツ、なかなか厄介な力を持っている』
すぐ近くに倒れ込んだブレイドラのところに行くと、やっぱり魔力が足りないのか元気がない。
ひとまず治療しようと、私がブレイドラのところに駆け寄っていくと……ブレイドラが戦ってた男の人に、声をかけられた。
「やはり、似ていますね……ニンフィアに……」
「……?」
ニンフィアって誰だろう?
よく分からないけど、ブレイドラと戦って、私達にも攻撃を仕掛けてきたくらいだし、敵に違いないよね。
そう思って警戒する私と違って、リリアが信じられないものを見るようにその男を見た。
「レバン……!? どうして、ここに……!?」
「え……」
レバンって確か、リリアを無理に戦わせようとしたっていう、サーシエの家臣?
でも、男……レバンは、まるでリリアのことが眼中にないみたいに無視して、私に向かって問い掛ける。
「答えなさい、傭兵の小娘。あなたの両親は誰ですか?」
「……そんなの、知らない」
嘘じゃない。私は両親の顔も名前も知らないし、むしろ知ってるなら教えて欲しい。
でも、レバンはそれで納得しなかった。
「そうですか。ならば仕方ありませんね……その体を持ち帰って、私の疑念を解消させて貰うとしましょうか!!」
「っ!?」
レバンが地面を蹴り、どこからともなく現れた剣を手に襲いかかって来る。
一瞬反応が遅れた私の前に、リリアが立ち塞がった。
「来てっ、二人とも!!」
「「うおわぁぁぁ!? なんだぁ!?」」
リリアが魔法を使うと、いつも王都の拠点で掃除をしてくれてる吸血鬼の元暗殺者二人が呼び出され、文字通りの肉壁となった。
悲鳴と共に切り裂かれ、そのまますぐ再生する二人にちょっぴり同情しながら、私はリリアと隣に立つ。
「ありがとう、リリア。助かったよ」
「ううん、これくらい、当然だよ……」
二人で笑い合う一方で、ようやくリリアを視界に収めたレバンは心底見下したような顔で言い捨てる。
「ああ……いたのですね、姫様。自国を守る勇気もなかった癖に、新しいお友達のためには力を振るうとは……何とも麗しい友情ですね」
「リリアを悪く言わないで!!」
頭に来た私は、反射的に前に出ようとして……当のリリアに手を掴まれ、止められた。
「大丈夫、ミルク。レバンの言う事も間違ってないから。……でも」
スッと、リリアが顔を上げる。
レバンのことを見つめるその瞳は、ゾッとするくらい冷たかった。
「死んで行った国の人たちならともかく……レバン……あなたには言われたくない」
「おや、生き残った私に批難する資格はないと?」
「私ね……ミルクに助けて貰ってから、たくさん練習して……今はもう、死んだみんなの声を聞けるくらいになってるんだ」
リリアの発言に、レバンの眉がぴくりと跳ねる。
対するリリアは、あくまで淡々と、気持ちを整理するかのように語り続けた。
「最後の日のこと、私が知らないこと、たくさん教えて貰った。だから、知ってるんだよ。レバンが帝国と裏で通じて、サーシエを滅ぼした元凶だってこと」
リリアの体から、すごい勢いで瘴気が溢れ出す。
それは寒気がするくらい恐ろしくて、おぞましくて……それなのに、まるでたくさんの人の想いがリリアを守ろうとしているみたいに、優しい。
「だから私は、サーシエ最後の王女として、あなたを裁かなきゃならない。ミルク……手伝って、くれる……?」
私を掴むリリアの手が、小刻みに震えている。
がんばって王女として立とうとはしていても、やっぱりまだ怖いんだろう。
だから、私はリリアを勇気付けるように手を握り返す。
「うん、一緒にがんばろう!」
「……ありがとう……」
「どうやら、俺がわざわざ手を貸すまでもなさそうだな。全力でやってみろ、失敗した時は俺がケツを持ってやる」
私達の後ろで、グレゴリーさんが腕を組んだまま観戦の構えを取る。
……ケツを持つってどういう意味だろうって思ったけど、聞かない方がいいのかな?
まあ、いっか。
「……死者の魂よ、今ここに新たな生を……」
そうしている間に、リリアが瘴気を操って魔法を発動する。
ありったけの力を込めたそれを手伝うように、地面に浮かび上がる魔法陣へとプルンが身を投げた。
「来て……“お兄ちゃん”!!」
紫の光が爆発し、地面から一体のアンデッドが這い上がってくる。
コーリオによく似た顔立ちの、まだ少年の面影が残る男の人。
紫の髪と、吸血鬼であることを示す深紅の瞳。
瘴気を押し固めて作った紫水晶の鎧で身を包み、手には同じく紫の剣が握られている。
「……こうして再び、現世に戻ってくる日が来るとは思っていなかった。会いたかったよ、リリア」
「うん……私も……」
「だが、再会の喜びに浸るのは後だ。まずは裏切り者の粛清を終わらせなければ」
リリアのお兄ちゃんが、剣を構える。
その先に立つレバンは、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「サーシエの“英雄王子”、ルルーク・フィア・サーシエ……まさか、アンデッドとして蘇るとは……!!」
「十年前の因縁に決着を付けよう、レバン!!」
こうして、亡国の王子と裏切り者、二人の戦いが始まった。
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