第89話 救出作業

 騎士団詰所での戦闘は、そんなに苦労することもなくすぐに終わった。


 騎士の人達から感謝されつつも、まだ他に手が必要がな所もあるだろうからとその場を後にする。


 ラスター達ががんばってくれているのか、戦闘の音はだいぶ収まってるけど……一体どんな激しい戦闘があったのか、周辺の建物全部崩れ落ちてるような酷いところも多い。


 早く助けなきゃ。


「プルン、下敷きになってる人がいないか、探して。それから、怪我をして動けない人も順番に治してあげて」


 了解! って感じでぴょこんと跳ねながら、プルンの分裂体が瓦礫の中に潜り込んでいく。


 怪我人に飛び付いて治してあげたり、場合によってはそのまま安全なところは運んであげたりと、プルンが忙しなく動いてるのを見ながら、私もプルンからの発見報告をしっかり受け取る。


「リリア、そこに人が埋まってるみたい、助けてあげて」


「うん……!」


 リリアの死霊魔法は、瘴気を宿した物質を自由に操れる力みたい。


 そんなリリアの魔法で、瓦礫の山に大量の瘴気が浴びせられ、それら全てが一斉に動き出す。


 ガタガタと揺れた瓦礫の一つ一つが、ひとりでにふわりと浮かび上がって……その下から、奇跡的に潰されずに済んでいた人が露わになった。


「大丈夫ですか?」


「あ、ありがとう……助かったわ」


「お礼なんていいです。安全なところまで連れて行ってあげますね」


 というわけで、助けた人もプルンの分裂体にお任せする。


 えっ、連れていくってこれで!? みたいな反応をされちゃったけど、結構快適だから大丈夫。


「リリア、大丈夫? 疲れてない?」


「だ、大丈夫です、これくらい……」


 そうやって救助を進めていたけど、途中でリリアの息が上がって来た。


 大丈夫だって言ってるけど、無理をしてることくらい見ればわかる。


 そもそも、リリアはずっと封印されてたから、こういう緊迫した場面にはまだ慣れてないはずだし、体力だって少ない。


 ちょっとは休憩しないと。


「無理しないで。一度拠点に戻ろ」


「で、でも、まだ……」


「大丈夫、私達はお手伝いだから。それに、ネイルさんにもう一回みんなの状態を聞きたかったし」


 急ぎで出てきたけど、状況はひとまず落ち着いたみたいだし……一度戻って、ネイルさんの指示を聞くのも良いと思う。


 そういった感じのことを、リリアに話した。


「だからね、戻ろう?」


「うん……ありがとう、ミルク」


「どういたしまして」


 納得して貰えたところで、私達は一度拠点に戻ることに。


 みんなはどうしてるかな、と思いながら中に入ると……なぜか、ネイルさんの前でズラッと正座させられていた。


 具体的には、アマンダさん、グルージオ、ガバデ兄弟の五人が。


「ああミルク、それにリリア様、戻りましたか。ご無事で何よりです」


「えと、それはいいんだけど……何してるの?」


「それはもちろん、説教です。調子に乗って賊に戦いを挑み、派手に町を破壊したこのアホ共に」


「待ってくれネイル、アタイは確かに結構な数の建物は壊したが、民間人は誰も巻き込んじゃいない。ミルクに誤解されるようなことは言わないでくれ」


「俺も……今回は、ちゃんと暴走せずにやったから、人的被害はないと……断言出来る……」


「俺達だってそうだぜェ!? なァ!?」


「そうでヤンス! オラ達悪いことしてないでヤンス!」


「ウェヒヒヒ!」


「ええい、人的被害がなければいいという問題ではありません、無闇に物を壊すなと言っているのです!! せっかくミルクが引き上げてくれた我々の立場を落とすつもりですか!? 反省しなさい!!」


「「「「「はい……」」」」」


 しゅん、と全員が小さくなるのを見て、私はどう声をかけたらいいか迷った。


 悪い人達をやっつけて混乱を鎮めてくれたのは確かだろうし……でも、町を壊しちゃうのは良くないよね。


 うん、ネイルさんに任せよう。


「行こっか、リリア」


「えっ、うん」


 そのまま通り過ぎる私に、アマンダさん達が何か色々言ってるけど……ここは心を鬼にして無視しようと思う。


 みんな、やり過ぎはダメだよ。めっ!

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