第88話 ちびっこ無双
私達がネイルさんから頼まれたのは、人助けだ。
危ないことはしちゃダメだって言われたけど、目の前でもっと危ない目に遭ってる人達を放っておけない。
「ごめんねリリア、ちょっと待ってて」
今回の事態で、リリアが王都の救援作業を手伝ってくれるか分からなかったけど、こうして一緒に来てくれた。
そんなリリアをいきなり戦いの場に引っ張り出しちゃったことを謝ると、リリアはぶんぶんと首を横に振る。
「ううん……私も、戦います!」
ぎゅっと、私と握った手に更に強く力を込めながら、リリアが顔を上げる。
その目には、今まで見たこともないくらい、力強い意思が籠っていた。
「ミルク、ありがとう、私のこと、ずっと支えてくれて。私、決めたの」
リリアの決意に呼応するように、その全身から瘴気が噴き出す。
溢れた瘴気は、まるでその一つ一つが意思を持つかのように分離して、リリアを守るように辺りを巡り始めた。
「痛いのは嫌。怖いのも嫌。でも……ずっと私の傍にいてくれたみんなのこと、裏切りたくない」
瘴気の欠片が、騎士団詰所にある砕けた岩や取り落とされた剣、それに倒れた騎士の鎧に次々と入り込む。
「サーシエを滅ぼして、その上更にあの国を利用して悪さをしようとしている人達がいるのなら……私も、王女として戦う」
ひとりでに騎士の体から剥がれ落ちた鎧が、無理やり繋ぎ合わせて人の形を象った岩が立ち上がり、そして剣の一つ一つが宙に浮かぶ。
それら全てを従えながら、リリアは告げた。
「死霊魔法……《
宙に浮かぶ剣が、一斉に悪者兄妹に襲い掛かる。
それに対して、妹さんが舌打ちと共に魔法を使った。
「《
すごい勢いで全方位から叩き付けられる剣の雨を、魔法の結界が全部弾いていく。
それでも構わず、
「無駄だってぇ、私の守りは誰にも抜けない、ましてやお前みたいなお子様にはねえ!!」
「私一人では……そうかもしれません」
でも、と、リリアが私の方を見る。
握り締められた手のひらから感じる信頼に応えるため、私はリリアの魔法を押し留める結界を“視た”。
「消えて」
私のその一言で、妹さんを守っていた結界は全部その効力を失い、リリアが従えるアンデッドの剣が素通りする。
「は……?」
「ちっ!!」
呆然とする妹さんを、兄が手を引いて助け出した。
「油断するな、精霊眼を前に魔法は絶対の力じゃない」
「ご、ごめん兄貴」
「俺が精霊眼の娘を殺る、お前は王女を押さえておけ」
「分かったよ!!」
二対二じゃなくて、それぞれ一対一がしたいのか、兄の方が私に突っ込んでくるけど……向こうのやりたいことに乗っかる必要がはない。
私とリリアは、二人で戦う。
「プルン、守って」
私とリリアを守るように、プルンが半透明の身体をドーム状にして壁を作る。
それに対して、兄は何かの魔法を使って剣を強化し、破ろうとしてるみたいだけど……当然、そんなことは認めない。
精霊眼の力で魔法だけ解除し、ただの剣になったそれをプルンの体で絡め取る。
そこへすかさず、リリアのアンデッド達が襲い掛かった。
「くっ……!?」
「兄貴!!」
妹さんが魔法の結界で何とか守ろうとしてるけど、それも全部私の眼で無効化していく。
兄の方も、何とか素手でアンデッドを蹴散らし、助かろうともがいてるみたいだけど……魔法が使えず、武器も失い、無限に再生するアンデッドの群れに勝ち目はないみたい。
段々抵抗が弱まって、最後はボコボコに殴られて地面の中へ埋めるように拘束されていった。
ちょっとその中で反省しててね。
「クソッ……クソッ、クソッ!! てめえ、魔法を全部なかったことにする力なんざ卑怯だぞ!! ちゃんと戦え!!」
「……??」
一人になった妹さんが何か叫んでるけど、正直意味が分からない。
魔法を使えなくする力一つで、何を言ってるんだろう?
アマンダさんなら魔法がなくても、素手だけで私とリリアの二人くらい簡単に倒しちゃうよ?
「まあ、いっか。リリア、やるよ」
「うん……悪い人には、お仕置です……!」
私が精霊眼の力でリリアの制御を手伝いながら、瘴気で動く巨大ゴーレムを作り上げる。
詰所の建物より大きくなったそれが、妹さん目掛けてその手のひらを真っ直ぐ振り下ろす。
「ああ……あぁぁぁぁぁ!!?」
悲鳴と共に、妹さんが叩き潰された。
大きな砂埃が収まった後には、死なないように巨大ゴーレムの手のひらに空けられた穴の中から、白目を剥いて気絶した妹さんが出てきて……。
こうして、私とリリアの戦いは、完全勝利で終わりを迎えた。
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