第75話 お風呂でお話
傭兵団の拠点にもお風呂はある。
魔法の力でお湯を出すから、いつでもすぐに入れるのはすごく便利。逆に、グルージオは魔道具の力を借りても魔法を使えないから、誰かに入れて貰わないとダメみたいだけど。
ただ、グルージオは特殊なケースで、普通は誰でも魔道具を使える──はずだった。
「リリアって、魔道具が使えないんだ。瘴気のせい……?」
「……(こくん)」
クロから話を聞いた翌日。脱衣所で服を脱ぎながら、思わぬ話を聞いてびっくりした。
瘴気は普通とは違う特殊な魔力だし、魔道具が反応してくれないのかもしれない。
よく考えてみれば、拠点の家事を手伝ってくれてる吸血鬼やコーリオも、魔道具は全然使ってなかった気がする。
「じゃあ、これからは毎日一緒に入ろうね」
昨日までは、コーリオが体を拭いてあげてたみたいだけど、やっぱりちゃんとお湯に浸かった方が気持ちいいよね。
「あ、えと……」
「ダメだった?」
「……(ふるふる)」
ちょっと恥ずかしそうに顔を赤くした後、小さく首を横に振るリリア。
あまり人と関わって来なかったから、誰かとお風呂に入るのに慣れてなくて恥ずかしいみたい。
「大丈夫だよ、行こ」
「う、うん……」
少し躊躇いながらも服を脱いだリリアと一緒に、お風呂へ入る。
といっても、まずは湯船に浸かる前に、体を洗うところからだ。
「こうやって、プルンを石鹸で泡立ててから洗って貰うとね、手が届かないところも綺麗になって気持ちいいんだよ」
「へ、へー……」
泡まみれになったプルンに包まれてお手本を見せてあげたんだけど、初めて見る洗い方だったからか、リリアはちょっと腰が退けていた。
本当に気持ちいいんだけどな、プルンに洗ってもらうの。
「じゃあ、リリアは私が洗ってあげるね!」
「えっ、ええ!?」
「ダメ?」
「だ、だめじゃないです……」
本人の許可も下りたので、私が直接リリアの体を洗ってあげることに。
泡立てた手で優しく触れながら、リリアの背中で撫でるように泡を広げていく。
「どう? 痛くない?」
「大丈夫……」
「えへへ、ならよかった」
そうやって、リリアの体もしっかりと洗い、髪まで流してあげる。
ずっと封印されてたからか、リリアの体は傷一つないくらい綺麗で柔らかくて、髪もすっごく滑らかだ。
強いて言えば、ちょっと細すぎて、少し力を入れただけで折れちゃいそうに見えるのが難点かな?
「ええと……私、そんなに汚れてる……?」
そうしていると、少し長くやりすぎたのか、リリアが不安そうに私の方を振り返った。
「あ、ごめんなさい。リリアが綺麗だなって思って、ちょっとやりすぎてた」
「……き、綺麗……かな?」
「うん、ずっと見ていたいくらい」
「ありがとう……ミルクも、すごく可愛いと思うよ」
「えへへ、ありがとう、リリア」
そんな話をしながら、体を洗い終わった私達は湯船へと移動し、ちゃぷん、と浸かる。
はふー、と息を吐くと、リリアもそれを真似して小さく息を吐いていた。可愛い。
「リリアは、もうここでの暮らしは慣れた?」
「……まだ……ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ、ゆっくりでいいから」
「……(こくん)」
そこからは、いつもみたいに他愛ない話をする。
ガバデ兄弟が依頼でやり過ぎてネイルさんに怒られた話とか、アマンダさんが瘴気のを利用した魔法を開発するってコーリオをこっそり連れ出したら、町の人達にうっかり目撃されてパニックになりかけた話とか。
前は反応すらしてくれないことも多かったけど、今はこういう話をしていると、ちょっとだけ笑ってくれたりもするようになって、嬉しい。
だから、本題を切り出すのには、ちょっと勇気が必要だった。
「……ねえ、リリア」
「……?」
「私、話すのあんまり上手じゃないから、ゆっくり聞いて欲しいんだけど……」
そんな前置きをして、私はネイルさんから聞かされた話をリリアに伝える。
反応はほとんどなかったけど、リリアの瘴気がどんどん元気を失くしていってるのが分かるから、正直辛い。
「コーリオは、リリアが国のためにがんばる必要はもうないって言ってた。最後はリリアの意思で決めて欲しいって……リリアは、どうしたい?」
何とか説明を終えた後も、しばらくはリリアも無言のままだった。
やがて、何とか絞り出した言葉は、今にも泣きそうなくらい震えてる。
「……わからない……私、どうすればいいの……?」
自分の体を抱き締めて、湯船に深く沈み込む。
まるで自分の殻に閉じこもるみたいに小さくなったリリアは、迷子の子供みたいだった。
「私、あの時……レバンに、国のために戦ってくれって言われた……それが、出来なくて……そのせいで、国がなくなっちゃって……それなのに……国のことはもういいからって言われても……そんな風に、割り切れないよ……」
「リリア……」
リリアもグルージオと同じだ。自分のせいで故郷が滅んだと思って、苦しんでる。
今のリリアに答えを求めても、きっと本心なんて返って来ない。
そう思った私は、リリアをぎゅっと抱き締めた。
「大丈夫、答えなんてすぐに出さなくていいよ。ゆっくり考えて」
「ぐす……でも、もうすぐ、この国の宰相さんが来るんでしょ……?」
「それも、大丈夫。私が何とかするから」
グルージオの時は、故郷が滅びたのはグルージオのせいじゃないって言い切れるだけの根拠を見つけられたけど、リリアはそうじゃない。
でも、リリアにはコーリオがいる。時間さえあれば、きっと悪いことにはならないはずだから。
それまでの時間は、私が稼ごう。
「私が、リリアの代わりに宰相さんとその子供の相手をするよ。大丈夫、私に考えがあるから」
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