第67話 墓参りと新たな仲間
グルージオの暴走を止めることが出来た。
夢の世界から戻ってきた私は、ドッと押し寄せる疲労感の中でフラッと後ろに倒れる。
「おっと……大丈夫か、ミルク?」
「ラスター……うん、ちょっと疲れただけ」
そんな私を受け止めてくれたラスターに、そのまま体を預ける。
そうしていると、グルージオもゆっくりと顔を上げた。
「……すまない……俺はまた、お前に迷惑を……」
「違うでしょ、グルージオ」
また謝ろうとするグルージオを、私はぷんすかと叱りつける。
私もようやく、グルージオの扱いが分かってきたよ。
この人は優しくしちゃダメだ。どんどん怒らなきゃ。
「おかえりなさい。無事でよかった、グルージオ」
「……ああ、ただいま。ありがとう、ミルク」
「やれやれ、戻ってきたら説教してやろうかと思ってたけど、ミルク一人で十分だったね」
私とグルージオが話してると、アマンダさんが肩を竦める。
どうやら、私が無事にグルージオを抑えられたら、心配かけた罰に少しお仕置きしようと思ってたみたい。
「それとも、やっぱりやってみるかい? アタイの人体実験に二十四時間付き合う刑だ」
「自分で自分の実験を刑罰扱いするんじゃない、自覚があるならやめろ」
企み顔のアマンダさんに、ラスターが溜め息を溢す。
いつも通りのやり取りに、私も……それに、グルージオも小さく笑みを浮かべていた。
『では、我はそろそろ帰るとしよう』
すると、不意にブレイドラがそう宣言した。
バサリと翼を翻すその龍に、私は手を振ってお別れする。
「またね、ブレイドラ。今日は助けに来てくれてありがとう」
『この程度、大したことではない。また何かあれば呼ぶといい、すぐに駆けつけよう』
そう言って、ブレイドラが私に鱗を一つ落としてくれた。
それを、落とさないように大事にポケットにしまっていると……横から、アマンダさんが口を挟む。
「なあ、ちょっと待ちな」
『む、なんだ?』
「どうせならその鱗、もうちょっとおくれよ、研究したいから」
『いや研究したいと簡単に言うが、我も鱗を剥がすのはそれなりに痛くてだな……』
「えっ……そうなの? ごめんなさい……」
私のために、わざわざ痛いの我慢してくれてたんだ……。
ちょっぴり申し訳ない気分になっていると、ブレイドラは大丈夫だと慌てだした。
『お前はいいのだ、我が望んでしたことなのだからな』
「ならもうちょっとくらいいいじゃないか。アタイが剥がすの手伝ってやろうか?」
『ええい、この人間は本当に人間か!? 龍の同族より恐ろしいぞ!!』
ぎゃあぎゃあと、ブレイドラとアマンダさんが大騒ぎしてる。
それがなんだか可笑しくて、くすくすと笑っていると……そんな空気を破るように、グルージオが口を開いた。
「みんな。……依頼も片付いた以上、後は帰るだけだが……最後に、一つ……寄り道をしても、いいか……?」
「寄り道……?」
首を傾げる私に、グルージオは「ああ」と頷く。
「俺の……故郷だ」
グルージオの故郷は、意外にもサーシエの近く……王国との国境近くにあった。
なんでも、グルージオの町がサーシエと王国とを結ぶ中継地点だったから、そこを失ったことで交流が途絶え、帝国の動きに気付くのが遅れて……サーシエが国ごと滅びる遠因になったんだって。
そんなグルージオの町は、廃墟が全部そのまま残されて、何の片付けもされていない。滅びた時のまま放置されたんだろうって、誰でも分かる。
でも、じゃあ寂しい景色かっていうと、それも少し違った。
滅びてからずっと、長い年月が経っているその町は緑に覆われ、草花が咲き、廃墟はそのまま小さな動物達の巣として利用されている。
たくさんの命が逞しく生きるその光景に、グルージオの心は複雑な揺らめきを見せていた。
寂しさ。懐かしさ。悲しみ……色んな感情が混ざりあって、一言じゃあ表現しきれない。
そんな町の中心にやって来たグルージオは、朽ちた町の中でも未だに形を残している教会……そこに建てられた女神の像にお酒を供え、手を合わせた。
静かな雰囲気に、私も、ラスターやアマンダさんも、コーリオも倣い、黙祷を捧げる。
「……ミルクのお陰で、気付くことが出来た。俺の故郷が滅んだのは、単なる事故じゃない。俺が長らく見落としていた“何か”がある」
ゆっくりと振り返ったグルージオには、これまでみたいな不安定に揺れる心はもうなかった。
決然と、確かな目標を見据えて覚悟を決めた、戦士としての姿がそこにある。
『ええ、そうでしょうとも。それは恐らく、我が国サーシエが滅んだこととも、無関係ではありますまい』
そんなグルージオに応えたのは、意外にもコーリオだった。
未だに目を覚まさないお姫様を大事そうに抱いたまま、私達の前に進み出る。
『我が国は大国同士の戦争に巻き込まれ、地図から消えた。歴史を省みればよくあることに違いありませんが、不自然な点はいくつもある。リリアの力が国を呑み込むほど暴走したのも、今考えてみればおかしな話でしたしね』
何となく、そうなのかなって思ってたけど、やっぱりお姫様はコーリオの娘だったみたい。
そんなリリアに目を向けながら、コーリオは言葉を重ねる。
『この子を守り、人の世界で幸せにするためには、私のようなアンデッドではあまりにも力不足。どうか、あなた方の手でこの子を守り、育てていただきたい。必ずや、あなた方の望む真実を知る手掛かりになるでしょう』
お願いします、とコーリオは頭を下げる。
それに対して、グルージオは迷うように視線を彷徨わせ、私達の方を見た。
ラスターとアマンダさんは、お前に任せると言わんばかりに肩を竦め、私も大きく頷く。
「私も、もっとコーリオやお姫様と仲良くなりたい! よろしくね、コーリオ!」
『ふふふ、やはり、私の目に狂いはなかった……よろしくお願いします、ミルク殿。そして……傭兵団、“紅蓮の鮮血”の皆様』
こうして、私達は異国の地での依頼を無事に達成し、新しい仲間と共に王国へ帰ることに。
……その後、「そういえば何か忘れてない?」と全員で頭を捻った末に、グルージオに殺されかけてたからって地面に埋めたままになってる、暗殺者っぽい男の人がいたことを思い出すまで、ちょっぴり時間が必要だった。
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