第64話 依頼達成と帰宅準備
「……ルク……ミルク、しっかりしろ!!」
「ミルク!!」
「ん……」
ゆっくり目を開けると、私を心配そうに覗き込むラスターとアマンダさんが見えた。
きょろきょろと周囲を見渡せば、私が刺された場所より結構離れた、私達のキャンプ地。
近くにはブレイドラとプルン、それにまだ気絶したままのお姫様……リリアの姿もあって、ちゃんと全員無事に脱出出来たみたい。良かった。
「一体何があった? 炎龍が、プルンに包まれたお前をここに運び込んできた時は何事かと思ったぞ」
「えっと、話すと長くなるんだけど……」
「ゆっくりでいいから、話してくれないかい?」
「うん。えっとね、お姫様を助けたら、グルージオに化けた男の人に刺されたの」
「「は?」」
胸をぶすって、と手振りを交えて説明すると、二人の魔力に剣呑な感情が宿る。
え、ええと。
「大丈夫、これくらいなんともないから」
私は服をぺろんと捲って、刺された場所を二人に見せる。
傷一つない綺麗な胸を見て、二人はホッと息を吐く。
「プルンのお陰だよ」
最近、ちょっとずつ出来ることが増えてきたプルンは、治癒属性への変化も覚えた。
傷口に分裂体を押し込んで止血しつつ、治癒属性に変化して治して貰えば、即死しない限りは大体の怪我をなかったことに出来るの。
「そりゃあ凄い。最近はご無沙汰だったし、帰ったらまたプルンをじっくり研究したいところだが……ミルク、その前に一つ」
「うん?」
「乙女はね、人前でそんな風に肌を見せちゃいけないよ。特に男の前ではね」
「???」
よく分からなくて首を傾げる私に、アマンダさんとラスターは揃って溜息を溢す。
なんで?
「まあいい。それより、これからのことだ」
『でしたら、私もその話し合いに参加させて頂きましょう』
ラスターが仕切り直すと、どこからともなく聞こえてきた声と共に、地面からコーリオが生えてくる。
その姿に、ラスターもアマンダさんもうんざりした表情を浮かべた。
「アンタ、あんなに粉々に砕いて燃やして灰にして氷漬けにした上で地中深くまで埋め込んでやったってのに、まだ復活するってのかい……」
『ははは、言ったでしょう、我らはアンデッド、リリアが生きている限り不滅だと。まあ、さすがにあれほど念入りに滅されると、復活にも時間がかかりましたが』
「はあ、厄介な……まあいい、それじゃあ始めるぞ」
私がリリアと戦ってる間、アマンダさん達も大変だったみたい。
コーリオ、そんなにされても生きてられるなんてすごいなぁ……。
「そのお姫様を助けたんだ、瘴気はもう収まると見ていいんだな?」
『ええ、今も徐々に収まっていっておりますので、直にこの国は死者の国ではなく、ただの廃墟となるでしょう』
どこか寂しそうに、コーリオはそう告げる。
何か言ってあげるべきなのかもしれないけど、私にはその言葉が見つからない。
それに……今はこの国より、どうしても気になることがある。
「そうか……なら、俺達の依頼もこれで、終わり、なんだが……」
「グルージオ、まだ戻ってないんだよね? 大丈夫かな?」
言葉を濁すラスターに、私は問い掛ける。
私が刺されて気を失ってから、まだそんなに時間は経ってないと思うけど……グルージオがこの場にいないってことは、まだあの男と戦ってるってことだ。
そんな私の心配に、アマンダさんが答えてくれた。
「アイツなら負けはしないさ。たかが暗殺者、時間はかかっても捻り潰して終わりだね。ただ……ミルクが刺されたところをアイツが見てるなら、ちょっと心配ではある」
「どういうこと……?」
「アイツは普段、自分の力を理性である程度押さえ付けて、セーブしてんのさ。全力を出し過ぎれば、本当に敵味方関係なく、辺り一面全部破壊し尽くすまで止まらなくなっちまうからね」
暗殺者どももバカなことしたもんだ、とアマンダさんはボヤく。
ミルクを刺し殺そうとした代償をこの手で刻んでやりたかったのに、これじゃあ獲物が残らないじゃないか──なんて真顔で言われると、どう反応したらいいか分からない。
「グルージオはあんな態度だったが、ミルクのことを相当気にかけていたからな……そんなミルクを目の前で傷付けられたのなら、完全に理性を飛ばしていてもおかしくないだろう。そうなると、もはやカリアさんでも止めるのは難しい。相手になるのは団長くらいだ」
アマンダさんに続いて、ラスターも懸念を口にした。
団長以外誰も止められない、グルージオの本気の暴走。
やっと依頼を達成出来たのに、まさかそんな問題が出てくるなんて思わなかった。
でも……。
「それなら、私がグルージオのところに行く」
グルージオかどんな状態でも、やることは、決まってる。
私は今回、グルージオが暴走しないように、ちゃんと帰ってこられるようにってついてきたんだもん。
だから……グルージオを止めるのは、私の仕事だ!
「ははは、ミルクならそう言うと思ったよ。行くかい、ラスター?」
「危険だと言って、止まるような子でもないからな。ミルクが無事にやり遂げられるように、全力でサポートしよう」
「うん、ありがと!」
プルンやブレイドラも手伝ってくれるつもりなのか、私の傍に寄ってくる。
そして、お姫様を抱いたコーリオもまた、恭しく私の前に跪く。
『でしたら、我らの力もお貸ししましょう』
「アンタら、アンデッドがかい?」
『左様。姫を助けて頂いたのですから、これくらいの恩返しはさせて頂きたい』
「コーリオも、ありがと」
自然と私を中心に輪になった面々を見渡して、宣言する。
気負う必要なんてない。
もう仕事は終わって──後はみんなで、帰るだけなんだから。
「みんなで、グルージオを迎えに行こう」
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