傭兵団の看板娘～王国最恐の傭兵団は今日も私にメロメロです～

第61話 アンデッド暴走

　お姫様が、封印を解くのと同時に拐われた。

　サーシエの王宮が崩落して、それに巻き込まれかけた私達は、潰されないように逃げ出すので精一杯だったんだけど……事態はそれだけに収まらない。

　なんとか脱出した後、今後の方針を話し合おうとしたところで……コーリオが突然、『あっ』と声を上げた。

『申し訳ありません、どうやら私は……あなたがたの敵になってしまったようです。逃げてください』

「えっ……」

　急に何を……と問い返す暇もなく、コーリオの魔力に殺意が灯り、その指先を私達へ向ける。

　その瞬間、グルージオの拳がコーリオを吹き飛ばした。

　骨の体がバラバラになり、吹っ飛んでいくコーリオ。

　同時に、周囲にいたアンデッド達もまた、私達への敵意を全開にして襲いかかって来た。

「《殴打風（ぶっとべ）》ぇ！！」

「《魔翔剣（ましょうけん）》！！」

　アマンダさんの魔法と、ラスターの剣が周囲のアンデッド達を吹き飛ばす。

　けれど、そうして打ち倒されたアンデッドが、すぐにその体を再生させていく。……コーリオの魔法だ。

　グルージオに砕かれた骨の体を再生させながら、風に乗ってこの場に戻ってくる。

『ははは、以前申し上げました通り、我らの存在はリリアの力に縛られている限り不滅ですので、そのような攻撃は時間稼ぎにしかなりませんぞ。まあその分、リリアの命令には絶対服従なのですが』

　連中の口車に乗せられたか、あるいは操られてでもいるのかもしれない。

　そんな風に、どこか困ったように語りながらも、コーリオは止まらない。

　自分の体を再生させると同時に、次々とアンデッドをこの場に召喚している。

『私個人の意思ではもはやどうにもなりませんので、どうか逃げてくだされ』

「口でそう言う割には、絶対逃がさないって意思をアンデッド共の動きから感じるんだけどねえ！？ ラスター、ミルクを！！」

「ああ！！」

　私達を包囲するように、次々とアンデッド達が集まってくる。

　私の体をラスターが抱き上げたのと同時に、全員がアマンダさんを中心に集まり……。

「《飛翔風（とべ）》！！」

　その一言で、私達全員が大空へと舞い上がる。

　スケルトンも、グールも、空を飛べない魔物だ。

　空中に浮かべば、ひとまず攻撃されることはないはず……。

『ははは、甘いですぞ』

　と思ったら、肉体を持たない魔力の塊みたいなアンデッド……レイスが、何体も何十体も地面から湧き出し、空にいる私達へと殺到してくる。

　けれど、そんなの関係ないとばかりに、アマンダさんが魔法を使う。

「どっちが！！ 《破邪風（おちろ）》！！」

　対アンデッド用……瘴気を吹き飛ばす風の魔法で、レイス達が吹き飛ばされる。

　でも、それはあくまで囮だった。

『やりますな。ですが、次のこれはどうですかな？』

　地面から無数の腕を生やして足場にしながら、コーリオが空中まで迫ってきた。

　あまりにも恐ろしい光景にぎょっとしている間に、コーリオは手のひらでスッと虚空を叩く。

『《死者の手（デスハンド）・掌底》』

　コーリオが足場にしていた無数の腕が、一つの巨大な手のひらへと形を変える。

　頭上から迫る圧倒的な質量に、アマンダさんは舌打ちを漏らす。

「全員、衝撃に備えな！！」

　アマンダさんの風魔法が壁になって受け止めるけど、そのまま私達は地上に落とされる。

　もうもうと上がる土煙の中で、ラスターの剣が手のひらを切り裂き、私達を解放してくれた。

「ふう……ミルク、無事か？」

「うん……プルンが守ってくれたから」

　地面に叩き落とされた時、プルンが私の体を包み込んで、衝撃から守ってくれた。お陰で怪我ひとつない。

　逆に、私以外のみんなは何の守りもなく叩き落とされたはずなのに、当たり前みたいにピンピンしてた。すごすぎる。

「はあぁ、ったく、来て早々に面倒なことになったね。どうしたもんか」

「そうだな、これではキリがない」

　周囲にはアンデッドの群れ。

　目の前には不死身の王様スケルトン。

　空を飛んでも追い付かれて、地上にまた戻されちゃう。

　どう対処するべきか、結構余裕がありそうな態度で悩む二人に、私は思い切って声をあげた。

「私は、お姫様を助けに行くべきだと思う。ううん、行かせて」

「ミルク……確かに、この状況は王女が連れ去られたことが原因だが……」

「大丈夫」

　ラスターが何を懸念してるかは分かってる。

　ラスター達三人だけならまだしも、こんな風にアンデッドがずっと襲ってくる中で、私をいつまでもここに残しておくのが不安なんだろう。

　だから私は、ラスターを安心させるための“切り札”を取り出した。

「これがあるから」

「それは……炎龍の鱗か」

　前に、ラスターとアマンダさんの二人が炎龍を追い払った時、お詫びの印にって渡された鱗。

　これを私の力で砕くと、中に込められた力が拡散して、炎龍が助けに来てくれるんだって。

「プルンもいるし、私は大丈夫。ううん……お姫様を助けるなら、私が行かなきゃダメだと思う」

　コーリオは、お姫様が操られてるかもしれないって言ってた。

　もしそれが魔法によるものなら、私じゃないと解いてあげられない。

「だから、お願い」

「……分かった。となると、分担をどうするかだが……」

「……俺が、ミルクを守ろう」

　そんな時、真っ先に声を上げたのはグルージオだった。

　意外に思う私を余所に、グルージオはラスターに言葉を重ねる。

「俺も……このままではいけないことは分かっているんだ。頼む……俺に、もう一度……機会をくれ……」

「……いいだろう、この場は俺とアマンダで持つ。グルージオ、元はお前の仕事だ、きっちり決めてこい」

「ああ……」

「じゃあ、やるね」

　話が纏まったところで、私は炎龍の鱗を取り出し、その中に込められた魔力を解放する。

　鱗が砕けると同時に、大きくて温かい魔力が溢れ出し、一気に空へと昇り──間もなく、大空を絶大な魔力が真っ赤に染め上げた。

『思ったよりも早かったな。古き友の末裔よ、会いたかったぞ』

　大空を舞う紅蓮のドラゴン、炎龍。

　世界最強の生命体が、サーシエの空に現れた。