第40話 新たな仲間
「あー、今回はご苦労だったなガキども。腹立たしいデリザイア侯爵家をぶっ潰した祝いだ、好きなだけ飲め!!」
「「「うおぉぉぉぉ!!!!」」」
侯爵家のお城であった戦いが落ち着いて、数日経った後。私達“紅蓮の鮮血”は王都の拠点に戻って、団長さんの音頭で祝杯っていうのをあげていた。
ただ、私も一緒に飲もうとしたら、ネイルさんに飲み物をジュースに変えられてちゃった。
私にお酒は早いって言われたけど、みんなと違うのはちょっと寂しい。
「やれやれ、ネイル副団長様は過保護だな。こういう時くらい好きにさせたらいい」
「好きにさせたらいいではありません!! いいですか、体が未成熟なうちから飲酒するというのは……」
ぐちぐちと、ネイルさんの説教が始まった。
ラスターは早々に聞き流す体勢に入り、目の前のお酒を飲むことに夢中。一方のネイルさんは、もう聞かれてないって分かってるはずなのに、根気強く話し掛け続けている。
やっぱり、二人は仲良しだなぁ。
そんな風に思ってたら、お酒を片手に私達のテーブルまでやって来たアマンダさんが隣に座り、片腕で思い切り抱き寄せられた。
ぼふっ、とアマンダさんの大きな胸に顔が埋まって息苦しい。
「おいミルク、聞いたよ、あのクソ侯爵を最後に捕まえたのはアンタなんだってね? 大戦果じゃないか、さすがアタイの助手だ」
「んむぅ……ありがと、アマンダさん。でも、勝ったのは私じゃなくて、ラスターとネイルさんだよ」
私が侯爵様とバッタリ出くわした時、向こうはもうフラフラだった。
何せ、いきなり魔法を撃ってきたから、それを跳ね返しただけで終わったもん。
あんなの、普通なら絶対勝負はつかないと思う。
「いや、いくら弱っていたにしても、あの場面で侯爵を捕まえてくれたのは大手柄だ。よくやったぞ、ミルク」
「えへへ……」
ラスターに撫でられて、私は思わず頬が緩む。
ガル達がはしゃぎ過ぎてカリアさんに絞め落とされる光景を横目に、しばし穏やかな(?)時間が流れ……そこへ、ネイルさんが溜め息を割り込ませる。
「実際、ミルクはよくやってくれました。この一件だけで侯爵家が取り潰されるようなことはないでしょうが、分家から新たな当主を見繕って引き継ぎとなれば、弱体化は免れ得ない。侯爵家に弾圧されていた西部貴族の多くから感謝の手紙が届いていますし、民からの評判も上々。良いこと尽くめなのですが……」
「が……?」
「……まさか、あんな拾い物をしてくるとは思いませんでしたよ。侯爵家の暗殺者など……どうするのですか?」
ネイルさんが視線を向けた先、食堂の隅で小さなテーブルには、不貞腐れたように肘をつくクロの姿があった。
自分の話だと気付いたのか、クロは私が口を開くよりも先に、小さく鼻を鳴らす。
「どうもこうもねえよ。雇い主が駄目になっちまった以上、新しい仕事先を見付けるだけだ。……仕送りを途絶えさせるわけにはいかねえしな」
クロは元々、妹の薬を手に入れるために侯爵様に忠誠を誓い、暗殺者になったんだって。
仕事をするようになってからは、妹さんと会うこともなくなり、侯爵領の小さなパン屋さんに幾らかの仕送りと引き換えに育てて貰ってるんだとか。
クロの話だと、人の良い夫婦が営む優しいパン屋さんで、妹さんのことも家族同然に育ててくれてるから、仕送りを止めたからどうなるってことはないみたいなんだけど……それが途絶えた時は自分が死んだと思えと伝えてあるから、妹さんが心配してしまうんだって。
「クロは、妹さんのところに帰らないの?」
「ああ? 帰れるわけねえだろ、せっかく幸せに生きてんだ、こんなクソみてえな兄貴が会いに行ったら、あいつの生活が壊れちまう」
「でも……私だったら、やっぱり会いたい」
私がそう言うと、クロは目を丸くする。
もちろん、私はその妹さんに会ったことないから、どんな反応が来るかは分からないけど……たとえ、暗殺者になってたとしても。やっぱり、家族と一緒にいたいって、そう思うはずだから。
「クロは、会いたくないの?」
「そんなことあるわけねえだろ。だが……」
「だがじゃないの」
「うぐぉっ!?」
言い淀むクロのところに駆け寄った私は、そのままお腹に頭突きする。
何しやがる、って苦しそうな顔で抗議してくるクロに、私はハッキリ言った。
「会いたいなら、会わなきゃダメ。大事な人が傍にいない時間は、ずっと辛いもん」
クロに捕まって、侯爵様のお城にいた間、ずっと辛かった。
ひとりぼっちで、もうみんなに会えないんじゃないかって不安で、頭がどうにかなっちゃいそうで……。
もしクロや、クロの妹さんが同じ気持ちなら、私よりずっと長い間苦しんでたことになる。そんなの可哀想。
「どうしても暗殺者がダメなら、傭兵になっちゃえばいいよ。“鮮血”のみんな、西の方だと今は大人気だって、ネイルさんも言ってたし」
「まあ確かに言いましたし、暗殺者よりは多少真っ当な仕事だとは思いますが……だからといって、一度はミルクを狙った暗殺者を迎え入れるなど……」
「いいじゃないか、好きにしろ」
「団長!? いいのですか!?」
あっさりと承諾する団長さんに、ネイルさんが驚いてる。
だけど団長さんはそれを気にした様子もなく、酒を一杯飲んでからニヤリと笑みを浮かべた。
「本人が気にしてないんだ、ならば何も問題あるまい。どうせ無法者の集まりだ、今さら暗殺者を招き入れたところで大差はない。それに……“仲間”と呼ぶに値するヤツなら、たとえそいつにどんな過去があろうと受け入れるのがウチのモットーだ。違うか? ネイル」
「……そうですね、その通りです。ミルクを襲うばかりでなく、雇い主に逆らって逃がしてもくれたようですし……団長とミルクが認めるのであれば、文句はありませんよ」
「私も歓迎するよ!! たくさん食う子は特にね!!」
団長さん、ネイルさん、それに、はしゃぐガル達を締め終わったカリアさんまで集まって、クロの入団を認めてくれた。
後はクロ自身が決めるだけ! と、私が思い切り詰め寄ると、クロは頭を掻きむしる。
「ほんっとーに馬鹿だなてめえは。こんなところまで連れてきたこともそうだが、俺を“鮮血”に入れようなんざ……どうかしてる」
「でも……ここまで来てくれたってことは、嫌ってわけじゃないんだよね……?」
呆れ声で語ってるけど、正直、本当に興味がないなら侯爵領から王都までついてきたりはしないはず。
侯爵領にはもういられないから、って理由ですんなり一緒に来てくれたけど……本当に私達の仲間になるのが嫌なら、侯爵領を出た時点で別れてたと思うから。
それに、何より……クロの魔力は、私の存在を拒絶してない。
「……チッ、本当に、お前は面倒なヤツだな。だが……嫌いじゃねえよ」
「クロ?」
私を退けたクロは、そのまま団長さんの……みんなの前に行き、その場で膝を突く。
「俺をアンタらの仲間に入れてくれ。俺は……借りはしっかり返さねえと、気が済まねえんだ」
「???」
私の方をチラッと見ながらお願いしているクロに、こてんと首を傾げる。
借りって何のことだろう……と疑問に思うけど、そう考えたのは私だけみたいで、“鮮血”のみんなは全く気にすることなく声を上げた。
「いいだろう、お前の“紅蓮の鮮血”への入団を許可する!!!! ガキども、今この瞬間から、この宴の内容は祝勝会兼新人の歓迎会へと変わった!!!! せっかくだ、いつもの二倍飲みまくれ!!!!」
「「「うおぉぉぉぉ!!!!」」」
団長さんの掛け声に合わせて、カリアさんに締められてたはずのガル達が元気を取り戻し、勢いよく飛び上がる。
こうして、クロは私達の仲間として受け入れられ……“紅蓮の鮮血”は、私の家は、前よりももっと賑やかで、楽しい場所になったのだった。
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