第50話 お出かけ

 「私が町を案内してあげるわね」


 そうロティルニアに言われ、手を引っ張られながら、ユウナは町を進んでいく。

 ユウナが住んでいたところは、所謂郊外だ。王都の説明を聞いたり、探検するのもいいかもしれない。


「ここはね、美味しい美味しいケーキ屋さんよ」

「ケーキ……」


 異世界情報で見たことがある。確か、美味しいやつだ。


「私が買ってあげるわ」


 そう言って、王女はケーキ買ってくれた。


 イチゴが上に載っていて、クリームで生地がおおわれている。

 その、ケーキの見た目は見るからにおいしそうだった。

 そのまま二人で店内の机の前に座り、ケーキを食べた。


(美味しい)


 そう、ユウナは食べた瞬間に思った。やっぱり見た目通りだ。程良い甘みに、ほどほどに柔らかい生地。美味しすぎて、ケーキがあっという間になくなっていく。最後の瞬間、ケーキを食べ終わるのが名残惜しくなる。

 フォークの上に最後のケーキが乗っている。食べたいのだが、もったいなくて、フォークをパクっと口にくわえることが出来ない。


「美味しいでしょ」

「うん。すっごく美味しい」


 そう言ってユウナは最後の一口を口にくわえる。


「良かった」


 そう言って二人は笑う。




「おい、みろ、あの銀髪の方、すごい高そうな装束をしているぞ。あれだけで家買えるぜ。襲おうぜ」


 そう、にやにやと男が言う。


「そうだな」

「俺たち銀狼兄弟にかかったら絶対に勝てるぜ」

「ああ」


 銀郎兄弟。彼らは強者だ。彼らが取れなかったものなどない。金、宝石、そして女。彼らはその力で様々な、女を強姦して楽しみながら、金を盗み、その際に一切捕われたことがないという恐ろしさだ。

 更に銀郎兄弟は、その障害となるものや、犯した後の女はすべて処分する。

 そのため、銀狼兄弟に襲われた者は誰も助からないというのが通説だ。

 その兄弟が、じっとロティルニアの顔を見て、下で口の周りをペロッとなめた。




 ユウナたち二人は町の色々な場所を見ながら探検をする。全ての場所がユウナにとって新しい刺激となった。演劇場や、小さな闘技場などなどすべてが新鮮なものだったのだ。


「はああ、楽しかったー」

「ね、楽しいでしょ」


 二人が王城に帰ろうとしたときにはもう、陽が沈みかけていた。それを見ると二人がどれほど楽しんだのかははっきりとわかる。

 二人は笑顔で、城への近道となる、裏道を通る。


 その時、それは来た。


 そう、銀狼兄弟だ。


 弟のディルがすぐに、ロティルニアの手を後ろにつかみ、そのまま持っていた手枷で拘束した。兄のダルトの方もユウナを襲おうとするが、一手遅く、ユウナは上に飛び、ダルトの方の強襲を耐えた。


「あなたたち誰?」

「俺たちかあ?」

「「俺たちは、孤高の盗賊、銀郎兄弟だ」」


 ユウナの目の前にいるのは、布で顔の大部分を覆って、顔を隠している男たちだ。

 さらにいつの間にか沈んでいる太陽によってその姿を視認するのは難しくなってしまっている。


「ロティルニアを返して!!」

「そう言って、おとなしく返すと思うか?」

「思わないね」


「もし動いたら彼女を殺す。大人しく兄者にやられてくれ」


 そう言って、ディルはロティルニアの首にナイフを当てる。いつでも殺せるという事実を突きつけるかのように。


「く、卑怯だわ」


 そうロティルニアはディルを見てそう言った。


「卑怯? それがどうした。それが俺たちのやり方だ!」


 そして、ダルトはユウナにナイフを突き刺そうとする。ユウナはそれを甘んじて受け入れた。


「ぐうう」


 ユウナにとってナイフで刺されること自体は致命傷には至らなかった。だが、問題なのはそこに塗られてあった毒だ。それにより、ユウナの意識は朦朧としてきた。


「ふん、所詮はカスか。弟よ、そいつ連れていくぞ」

「おうよ」

「待って……」


 だが、毒で弱っていたユウナにはそれは追えなかった。だが、ユウナはただで見逃したわけではない。ロティルニアにマーキング魔法をかけていたのだ。これにより、行先は分かる。


 ユウナは自分の体を解毒して、そのまま静かに、そのマーキングを追う。

 幸い解除されていないみたいで、どこまでもその線は続いていく。

 あのつまらない講義も捨てたものじゃないな、とユウナは思った。


 そしてついた先は、古い倉庫だった。如何にも幽霊が出そうな古びた倉庫だ。

 そこに、ユウナはばれない様に、静かに入る。


 すると、ロティルニアの体から装束がすべてはがされ、裸となっていた。真っ裸で、彼女は赤い顔をしている。しかも拘束具のせいで、彼女は自分の胸を手で隠すことすらできない。



(許せない)


 そうユウナは心の奥底から思った。


 こうなったら銀郎兄弟が次にすることは一つだろう。

 それは、それだけは避けなければならない。ロティルニアの尊厳のためにも、彼女の心のためにも。



 早速、ユウナはロティルニアを助けようと、魔法で気配を消しながら走り、素早く駆けだす。だが、それだけではばれるし、ロティルニアを人質にとられる可能性がある。

 そこで、煙を手から出して、目くらませをずる。これで、錯乱させられるだろう。


 そして、銀郎兄弟が互いに「どこだ兄者」「どこだ弟よ」と言って互いを探す。この状況で、全ての者の居場所が分かるのはユウナだけだ。


 そして、ロティルニアの手をつかみ、安全を確保する。


「大丈夫?」

「う、うん。ありがとう」


 ロティルニアは、ユウナに感謝をする。

 そしてユウナはロティルニアに自分の着ていた上着を着させる。


 そして、銀郎兄弟の方に歩いていき、


「あなたたちは許さない」


 そう言った。

 その後地面を蹴り、ユウナはダルトの元に駆けだす。そして距離を縮めた後、自分の頭上に炎の巨大な球を作り出し、そのまま投げ込む。


 それを見た銀郎兄貴はニヤリと笑って「リフレクションバリア」と言って、炎を跳ね飛ばした。


「ふはははは、自分の魔法で滅べ!!」

「それがどうしたの?」


 そう言ってユウナは炎を消滅させる。


「自分の魔法は消滅させられるっていう事かぁ?」

「うん、そうだよ」


 そしてユウナは自分の懐から刀を取り出す。


「魔法が効かないなら、剣でやるしかないよね」


 そう言ってユウナは周りをぶんぶんと回す。


「俺の存在を忘れるな」


 そして、ユウナに向かって青い弾丸が飛んでくる。ディルの魔法だ。


「邪魔」


 そう言って、その弾丸を斬り、そのままディルの方へと向かう。

 ディルは魔法を連発する。その素早い攻撃に、数発被弾するが、ユウナは怯まない。


「くそぅ」


 そしてディルはせめてもの抵抗とばかりに自分の周りに炎を纏う。

 その火を消そうにも、ダルトがまたバリアを貼ってくる可能性がある。

 ユウナにだって、ミコト並ではないものの、回復魔法が使える。そのまま剣で飛び込み、


「ごめん」


 そう言って銀郎弟の体を斬る。死なない程度に。

 ユウナの体も焼けていたいが、この程度なら回復することが出来る。


「次はあなただね」


 そう言ってユウナは剣を持って、走ってダルトを斬りに行く。


「くそ、おりゃあ」


 ダルトはナイフで受け止める。


「弟は、急襲専門だ。だが、俺はしっかりと戦闘もできるぞ!!」


 兄は必死でユウナの剣を捌いていく。ユウナにとって、剣での実践は初めてだ。

 だが、そうとは思えないような落ち着きが彼女にはあった。

 この戦いは勝たなければならないという思いが彼女をそうさせた。

 ユウナは、戦争により、死地を何度も経験してきた。その経験が彼女を強者にする。その状態でダルトは少し恐怖を感じた。

 恐れなく向かってくるユウナ、やられることを考えていないユウナ、その姿に……ダルトは敗北を察した。勿論ダルトも攻めのみを考えていた。だがユウナのその修羅のような攻めに、ダルトは精神的に敗北を喫したのだ。



 そしてダルトは防戦一方となり、そのままユウナにナイフを弾き飛ばされた。


 その後、ダルトはその場に倒れこみ、


「終わった……」


 そう呟いた。ユウナはそれに対して無言で、ダルトが持っていた拘束具を持ち、彼を拘束した。ディルも同じように。


「さあ、帰ろっか」


 そうユウナがロティルニアに対して笑いながら話しかける。ロティルニアはそれに対して何も答えることが出来ない。ユウナのことを末恐ろしいと思ったからだ。


「あ、そうだ。鍵! えっと、どこだ?」


 ユウナはいつもの調子に戻り、ロティルニアをその場に置いとき、鍵を探し出す。

 そして、そのカギで、ロティルニアの拘束を外し、二人で手をつなぐ。


「本当にありがとう……ございました。ユウナ」

「いいよ。別に、町を案内してくれたお礼」

「うん。やっぱりユウナは強いね。なんかずるい」

「ずるい?」

「うん。強くて羨ましい。私はそこまで強く慣れなかったから」



 そう、ロティルニアは、腰に抱えていた剣の柄をぎゅっと握る。

 ロティルニアには、辛い思い出がある。

 過去に、盗賊に襲われたことがある。

 その時に、護衛の兵士に助けられた。ただ、そのせいで数名が死んだ。その時にロティルニアは見ていることしかできなかった。

 その時の悔しさが残っている。護衛がやられている間、指をくわえてみていることしかできなかった過去が。

 それから、剣を剣聖から学び、実力をつけてきた。だが、今回の銀郎兄弟との戦いではまた見ていることしかできなかったのだ。

 そのことがまた悔しい。


 ユウナはそれを無言で見つめる。


 完成体っていいわね。そう、ロティルニアはただ思った。

 それはユウナの知るところではないのだが。


 そしてせっかくのお出かけは、重々しい雰囲気と共に終わりを告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る