第49話 王女

 SIDEウェルツ


 一方ウェルツは、その頃檻への道を歩いていく。拘束はされていないが、周りの檻を見てるとここがどんなところかは簡単に理解できる。


 ここは、地獄だ。この世の終わりだ。


 ふと檻の中を覗く。すると、様々な囚人が手を拘束されて檻の中にいる。目が死んでいるというところを見たら、もう数年も入っているのだろう。

 自分がこれから彼らのようになる。そう思うとウェルツは少しだけ怖くなった。


 そのまま歩いていくと、別の男が待っていた。


「ここからは頼む」


 そう、ラトスが言うと、その男はこくりと頷き、ウェルツを連れて行く。


「俺はタント・ハーティだ。よろしく」


 タントは手をウェルツの方に伸ばす。


「ああ、よろしく」


 ウェルツはその手を握り返した。


 タントに連れていかれる事十分、ある男がその牢の最深部にいた。


「よう、やっと連れてきたか」


 その男は静かに言う。


「お前の情報を訊きたいんだ。頼む言ってくれ」

「組織に関する情報ですか?」

「ああ、そのことだ」


 ウェルツは一瞬考えこんだ。アトランタや剣聖などは置いといて、目の前にいる男が本当に信用できるのか分からなかった。


 その目に宿す光は悪意のこもったものだとウェルツは考えた。

 その雰囲気は信用できるものではない。


「アトランタを呼んでくれ。彼になら話す」


 この男は信用できない。それがウェルツが出した結論だ。

 そもそも初対面の男を信用するという事自体無理なのだ。元々国に対して不信感を抱いていたウェルツにとっては。


「それは出来ない……」


 そして男は剣の柄に手をかける。


「だから言え。全部の情報を吐くんだ!!」

「信用できない」

「何を!!」


 ウェルツの顔に拳が当たり、ウェルツはその場に倒れる。

 鼻から血が出て、ウェルツにジンジンと痛みが出てくる。


「俺にはその情報が必要なんだ、言え!!!」

「っ」


 こいつはやばい。こいつには話してはいけない。

 ミア、彼女もか関わってくる可能性がある。ユウナのためにもそれは絶対に出来ない。


 そもそもの話、今城の中にいるはずのアトランタなんて、呼ぶのに一時間もかからないのだ。

 そう、彼を連れてこれないという事自裸体おかしいのだ。



 そして一日拷問に耐え、情報を隠し通した後、タントに牢に入れ込まれた。

 情報を話したいときに話せと付け加えて。


 そして、手足が拘束され、牢の中に閉じ込められる。

 その中でウェルツはユウナはこんな気持ちだったのかなと、ふと思った。

 これもユウナを数年間閉じ込めていた俺の対する天罰なのかなと。


 それから三ヶ月が経った。



SIDEユウナ


「あーあ、今日もがんばろ!」


 そう呟いて、ベットから起き上がる。今日も訓練に向かうのだ。服に着替え、外に出ようとしたとき、


「誰?」


 そこに一人の少女がいた。


「あの、誰なんですか?」


 ユウナが少女に聞く。


「私は、この国の王女です」


 その言葉を聞いてユウナは困った。王女ということはロティルニア・イングリティアまさにその人だ。

 この人に対してどう対応すればいいのかわからない。丁寧に対応したらいいのか、それとも多少雑にやらなければならないのか。


「ええと、どのようなご用件でしょうか」


 敬語と言うものはよくわからない。とりあえず出来るだけの言葉使いをする。……あっているのかわからないけれど。


「別に為語でいいわよ」


 別に敬語を使わなくてもよかったらしい。ちょっとリラックスして、ベッドに座り直し、ロティルニアに訊く。


「それでなんでここに来たんですか?」

「んーと、なんか面白い人がいるって聞いて、来た」

「面白い人?」


 その言葉にユウナは軽く首をかしげる。


「そう、なんか、完成体? って言う強い人がいるって」

「まあ、強いけど、」

「それで、友達になりたくて!!!」

「友達……」


 その響きは初めてだ。ウェルツさんは友達ではないだろうし、メリーも友達とは違う。ミコトは妹だし、ミアにいたっては今どこにいるのか分からない。

 そう言う訳でユウナはその言葉の響きに魅了されている。だが、その言葉を受けるかどうかは別だ。社会常識をあまり知らないユウナにとって王女様の友達が務まるのか、それにそもそも初対面なのだ。

 相手の人間性もすべてがまだわからない。ただ一つ分かるのは、元気そうな子だということだけだ。


「いいでしょ!」

「……」


 ユウナの答えは沈黙だ。とりあえず今は分からない。


「ねえ、聞いてる?」

「……うん」

「私と友達になりたくないってこと?」

「違うけど」

「じゃあ、私の友達になってよ」

「……うん」


 ユウナは押し切られてしまった。


「じゃあ、ちょっと来て?」

「うん」


 ユウナは訳も分からないまま彼女について行く。ミコトに一言声をかけようとしたが、ミコトはぐっすりと寝ていた。顔を一目見て、これは起こすのはかわいそうという事で起こさずにそのままロティルニアについて行くことにした。


 彼女はどんどんと階段を上がっていき、城の上へとい向かっていく。

 その時剣聖が言ってた言葉を思い出した。「ここから上は、国王陛下が住まう場所だ。決して上がってはならない。分かったな」と言っていた。

 少し不安になったが、まあ私悪いわけじゃないし、と上に上がっていく。


「お父様!!!」


 彼女が扉を開いて、国王陛下に向かってそう言ってハグをする。

 ユウナは、一気に緊張する。まさかこのような形でこの国で一番偉い人に出会うとは思っていなかった。


 国王、彼はこの国の7代目の王様で、今の過去最大の国土を有しているのは、国王の政治と、その人望の厚さだと言われている。


 そんな人と会う、そのことでユウナは緊張したまま、二人の抱っこを見る。


「お父様、友達作ったの」

「おお、偉いぞ。自分から友達を作るとは」


 実のところ、ユウナはここにどう入って行けばいいのかがわからなかった。この二人の輪の中に。


 とりあえず、


「ユ、ユウナです。よろしくお願いします」


 と、がちがちに挨拶した。らしくない、その言葉が今のユウナには当てはまるだろう。

 ユウナには遠慮という言葉はあまり似合わないのだ。


「おお、よろしく。君がこの子の友達になってくれるでいいのかな」

「はい」

「それは良かった。この子と遊んでくれ」

「はい!」


 と、そして大広間に行き、


「じゃあ、行くわよ!」


 と、異世界で言う相撲? みたいな感じでユウナに向かってきた。子どものじゃれ合いとも言おうか。とはいえロティルニアも一四で、そこまで子どもという訳でもないのだが。

 ユウナはすでに力がある。だが、それは魔力で強化したときの事であり、巣の力はそこまで強いわけではない。

 ユウナは彼女の攻撃をしっかりと受け止め、暫く手を組みあっての膠着状態となった。


「思ったより強いじゃん」

「まあね、王女だからって鍛えてないわけじゃないのよ」


 確かにじっくりとユウナが見るとそこには確かな筋肉があった。

 王女だからとは言え、のびのび贅沢な暮らしをしてるわけではなく、次の王になるための勉強やとr-人具をしているようだ。


「へー、じゃあこれはどう?」


 とユウナは地面を蹴り、勢いで王女の腰をつかみ、そのまま押して、土俵と生じた余暇に置かれたヒモから押し出そうとする。


「いいね。でも、私には勝てないわ」


 そう言って彼女は素早い動きで私の手を跳ね除けて、素早く私の背後に行く。そう、ユウナが反応できるかできないかのレベルで。


(やはり、油断したらやられる)


 魔力強化はやりすぎだと思うが、少しだけ目に魔力を込めて、ロティルニアの動きを察知して動く。

 あくまでも完成体とは言え、筋力があるわけじゃないのだ。


「これが私の本気だあああ」


 ユウナはさらにその後ろに周り、手に魔力を軽く入れて、持ち上げ、そのまま場外に運ぼうとする。しかしロティルニアは地面に手をついてクラウディングスタートの格好を取り、勢いでユウナを押す。

 確かにルールが異世界でいう相撲と同じとは限らないよね。

 よく考えたらロティルニアは場外に出たら負けとしか言ってなかったのだから。


 ユウナは本気を出す事を決めた。魔力で身体を最大限に強化して、素早く動き、ロティルニアを力強く押す。


 その手の力を感じたロティルニアは「本気出すの?」と言う。


「うん」

「じゃあ、私も」


 ロティルニアは手に力を込めて、ユウナの手を押し返そうとする。その力に軽く押し返されそうになったユウナはこのままではまずいと思い、手に魔力をさらに込めて押し返そうとする。


「ダメだ。こうなったら勝てないわ」


 そう言って王女は諦めた様子で大人しく手を地面につける。


「ハアハア、ハアハア」


 ユウナは息を軽く切らす。それを見て王女は「おめでとう、あなたの勝ちよ」と言った。


「ねえ、なんでそんなに強いの?」


 ユウナは誇る事なく、真剣な目でそう訊いた。ただの王族にしては強すぎるのだ。


「えへへ、私はね、将来国を守らないといけないから」

「どういう事?」

「私は……王女として、次の国王としてみんなを守らないといけないから」


 そう言うロティルニアの顔は悲壮な面だった。それは瞬時にユウナに何か事情があると悟らせるほどに。

 それはユウナに「どうしてそう思うの?」という言葉を話さずに封印させるには十分なものだった。

 そしてユウナは何も聞くこと無く、そのまま手を離し、ロティルニアの手を自由にさせる。


 そして暫くの無音の時間が過ぎた後、王女は過去について聞いてきた。


「完成体としてどんな生活してたの?」と。

「……」


 ユウナは話すのを躊躇した。というよりも、あまり話したくはない。いつもは笑い話みたいにしているが、それはウェルツ相手だからだ。誰にでも話せるわけではない。


 ユウナが数秒黙り込んだのを見て、しまったと思ったのか、ロティルニアは「ごめんね、話しにくい事を聞いちゃって」と言って、手を合わせて謝るポーズをした。


「私は空気を読めないから、たまにやっちゃうのよね」

「……」

「気を悪くしたかしら?」

「いや、そんな事は」

「じゃあ別の事をしましょう」

「別のこと?」

「散歩よ」


 そう言ってロティルニアはユウナの手をつかみ、そのまま城の外へと連れだした。


「えええええ」


 ユウナはまさかこんな強引に連れ出されるよ思っていなかったので動揺している。護衛なしで外に出かけていいものなのか、とふと思う。だが、いざという時になれば、ユウナが守れるからいいかとすぐに判断し、そのままロティルニアの手に引っ張られようとする。

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