第48話 王宮

「ここが……」


 王宮。この場所には沢山の人がいる。国王、大臣、騎士団など様々な国のまつりごとに関する人達がいる場所だ。

 この中でこの国に関する様々なことが行われていると思うと、ユウナは少しドキドキしてきた。一方ミコトはユウナの手をつかんで、そのまま背中に隠れる。


「大丈夫。ミコト。怖くないから」


 そう、ユウナはミコトに語り掛ける。


「とりあえず、俺はウェルツを引き渡してくる」

「……」


 それを訊き、暗い顔をするユウナ。


「大丈夫だ。悪いようにはしない。何なら場合によっては無罪放免の可能性もあるしな」

「……そうなの?」

「ああ、だから安心してくれ」


 そう言ってラトスはウェルツを連れて、階段を下りる。階段の下は独房が置かれている。

 冷たい檻があり、敵国の捕虜、政治犯、大罪人などの人達が入っている。

 その中に入れば最後出られないとも言われているが、あくまでもウェルツの罪は確定していない。

 とりあえず、話を訊くためにその中にある取調室のような場所に向かうだけだ。




 ウェルツとラトスが行った後、

 ユウナはウェルツを心配してもしょうがないという事で気を取り直し、宮殿内を一通り見ることにする。

 そして一通り見た後、「はあ、綺麗」と言った。


 ミコトは相変わらずのビビりようだったが、少しずつ慣れてきたようで、一通り見た後は、だいぶ震えもなくなっていた。

 そしてそのまま夜遅いので、アトランタに部屋へと案内される。

 ミコトとの二人部屋だ。


「はあ気持ちいいよお、このベッド!!!」


 とユウナはベッドの上でゴロゴロする。布団にくるまりながらごろごろ。なんて幸せなんだろうか、とユウナは思った。確かにメリー達の宿の布団も気持ちよかったが、これはレベルが違う、流石王宮と言おうか。

 明らかに金がかかっている。


「ミコトもゴロゴロしてみなよ。気持ちいいよ」

「うん。でもやっぱり不安」


 ミコトにはユウナには見えない不安でもあるのだろうか。

 確かにウェルツも国は信用できないと言っていたけど……


「でも、不安に感じてばかりだったら面白くないよ。楽しまないと」

「……うん」

「じゃあ、とりあえず寝よっか」

「うん」


 そしてそのままユウナは眠りに落ちた。

 だが、ミコトはなかなか寝付けなかった。

 寝ようと思い目をつぶっても、意識を閉ざすことが出来ない。

 不安なものは不安だ。

 ミコトにはあの日の出来事が思い起こされていた。


 あの日、村が襲撃された日。

 ミコトたちの村は組織ではなく、兵士たちに襲撃されていたのだ。まさにこの国の兵士に。

 ミコトは村長に逃がされ何とか逃げ切ったが、その先で組織の手によってとらえられてしまったのだった。


 あの時の恐怖はしっかりと覚えている。

 あの一番前にいた男の恐怖を。

 あの男は残忍に村の人達を、皆を殺していったのだ。その話はお姉ちゃんやウェルツには話していない。

 口に出すのが怖いのだ。




 そして一時間もの戦いののちようやくミコトも無事に眠りにつくことが出来た。



 翌日、使いの者が来て、二人を呼び出した。それに対し、ユウナは「はーい」と言ってミコトを起こし、二人で修練室の方へと向かう。

 そこにはもう剣聖がいた。そして剣聖がある言葉を告げた。「すまない。ミアには合わせられない」


「なんで!?」


 それはユウナにとって予想外の者だった。会わせてもらえると完全に思っていたのだ。

 条件の一つにミアと会わせてくれることと頼んだはずだ。

 これではまるで約束が違う。


「それは、私より上の者がそれを拒否したのだ」

「上の者?」

「ああ。本当にすまない。だが、約束する。何とかして会わせると」

「……私、無理やり会ってくる」


 ユウナは今感じたのだ。これはウェルツが言っていた国のきな臭い部分だと。ここは強引にでも行っておいた方がいい。ミアを助けるために。

 おそらく今、ミアは地獄の中にいる。

 結局、ミアは組織という名の地獄から王宮という名の地獄に移っただけなのだ。

 それはあくまでもユウナの推察に過ぎないのだが。


「だめだ。それでは君が犯罪者になる。そこは耐えてくれ。流石に無理やり突破しようとしたら私でも擁護できない」

「……でも!」

「……お姉ちゃん。その人の言う通り、今はやめといたほうがいいと思う」


 ミコトがユウナの服の裾を引っ張りながらそう言った。それを訊いて「むむむ」と少し考え込んで、

「分かりました」と言った。

 今は剣聖を信じるしかない。


「とりあえずだ。前者の願いとして剣は私が、魔法は魔法体長のユランゲルに教えてもらうことにする。それでいいか?」


 ユランゲルとは、戦争の時に一回会ったことがある。ユウナは正直ムカついていたが、教えてもらえるのなら別に構わない。


「うんありがとう」


 そう感謝を告げたユウナ。それに続いてミコトも感謝する。

 ミコトはどちらかと言えば魔法の方が得意なのだが、剣も一応覚えておいた方がいい。


 剣聖に剣を教えてもらう事。それは並の事ではない。この国でトップクラスの剣の使い手が剣のけいこをするのだ。

 ユウナも軽くはウェルツに剣を教わったことはあるが、それは初歩の初歩程度だ。実践で使えるレベルではない。

 とりあえずミコトには先に魔法の方に行ってもらい、ユウナは剣聖の剣の訓練を受ける。


「さあ、ユウナ、剣を持て、いや君の場合剣を作れの方が正しいのか?」

「うん、そうだね」


 と、ユウナは魔法で剣を作り出した。


「どこからでもかかってこい」


 その言葉に反応し、ユウナは剣聖の方へと向かっていく。だが、数回剣でやりあった後、「ふむ」と言った剣聖に背中を叩かれ、その場に倒れる。


「いったー」

「なるほど。これは基礎からだな。長くなりそうだ」


 そして剣聖はユウナの至らないところを丁寧に教え、そして立ち合いで何度もユウナをボコす。

 そして一〇回ほどユウナがボコられたのち、休憩を告げられ、ユウナはその場に寝転がる。


「……お疲れ様」


 と、その様子を見てたアトランタが水を持ってきた。アトランタは先程からこの戦いを見物していたのだ。


「うん……」


 ユウナが静かにそれにこたえ、水を飲む。


「あの人強いだろ」

「うん」

「驚くよな。俺も一回立ち会ったことあるけど、その時は全然勝てる気がしなかったぜ」

「私は勝つけどね」

「なんだと」

「そのうちね」


 そう言ってユウナは笑う。


(ミコトは上手くやれているのだろうか)


 そう、ユウナは一瞬不安に思った。自分もウェルツもいない状況で、昨日からビビりまくりのミコトがだ。

 だが、今心配してもしょうがない。夜に訊こう。そうユウナは思った。



 そしてユウナはぼろぼろに負けまくった後、ミコトと入れ替わりに魔法の訓練の方へとうつった。


「久しぶり」


 早速そこにいた人物に声をかける。ユランゲルは前に見たのと同じ、金髪の女性だった。

 とはいえ、一目では男に見えてしまうくらいの無性な見た目なのだが。


「お前か。……戦場で騒がしかったやつ」

「うん」

「そして、勝手に消えてたやつ」

「扱い酷いね」

「まあな、でもお前の魔力は確かに凄まじい。そこは認める。だが、荒削りだ。今から本当の魔法というものを見せてやろう」

「……分かった!」


 そして魔法の訓練が始まった。だが、魔法とは言っても、主に理論の説明ばかりで中々気持ちよく魔法を使わせてもらわなかった。

 ユウナはその講義を受けていて、こんなので本当に魔法が強くなるのかなと、疑問に思った。だけど、やるしかない。

 ユウナは見事に魔法の講義のつまらなさに耐えきった。


「ミコトはどんな感じだったの?」


 講義が終了した後、ユウナはユランゲルに訊く。


「あいつか、中々楽しそうに訊いてたよ。お前とは違ってな」

「……そう、ならよかった」

「良かった?」

「うん。あの子の周りには目まぐるしい変化が起きてるんだもん。自分の村があっ物に襲われ、組織にとらわれ、そして解放されたと思ったらよくわからないまま王宮に連れていかれたんだし」

「まあ、それはそうだな」

「だから……楽しんでくれるならそれ以上望むものはないよ」

「……お前は大人になったんだな」

「……うん」



 そして、夕食を食べに行く。


 夕食としてユウナとミコトには結構豪華な食材が与えられた。

 ユウナとミコトはそれに夢中でかじりつく。

 今まで食べたことのあるどんな料理よりもおいしいのだ。

 これが王宮の料理家と、二人は食事を味わいながら楽しんだ。



 そして夜。


「ああ、もう。眠ーい」


 ユウナは布団に寝くるまる。まさかここまでしんどいとは思っていなかった。

 スパルタすぎて、一日で体力が尽きそうになる。

 料理は美味しいし、寝床も気持ちいい。だが、これではなかなか体力が回復しない。

 これから大変だ。そうユウナは思った。


 しんどいなあ。もう……寝よう。


「ミコトお休み」


 お姉ちゃんお休み


 そして二人は寝た。



 実はしんどい思いをしているユウナの一方ミコトはこの状況を楽しんでいた。

 不安なことはいっぱいで、そこはしんどいのだが、結構訓練や講義は楽しかったのだ。

 明日はどんな一日になるのだろうとわくわくしながら眠りについた。

 その頃にはミコトの内なる不安も大分晴れていた。

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