第47話 連行
ウェルツはすぐさま振り返り、臨戦態勢を取る。だが、そこから逃げられるかは別の話だ。
ゼロ距離にいる今、闘争は現実的ではない。
「そう身構えなくていい。戦闘に来たわけじゃない」
緊張を解くためにラトスが言う。だが、敵のいう事は信用できない。剣を構え、「本当にそうか?」と言う。
「俺は信用されていないんだな」
ラトスはため息を吐き、すぐさま、「おーい剣聖」と叫ぶ。すると剣聖とアトランタがすぐさま向かってくる。
そして、一言。
「完成体の隣にいるそこのお前、確か前完成体を逃がしていなかったか?」
そう言って剣の塚に手をかける。ミコトはそれを見てユウナの背中に隠れた。
「それは……事実だ。俺はお前たち国のことが信用できなかった」
「まあ、あれはラトスが全面的に悪い」
「おい!」
だが、ラトスの言葉がなかったかのように、そのまま剣聖は言う。
「とりあえず、お前がやっていたことは国家反逆レベルだと思っている。そもそもお前は組織の人間だったんだろ? だったら罪も犯しているはずだ」
ウェルツには否定が出来ない。この手で殺した人が何十人いるのか分からない。
間接的な殺人も含めたら一〇〇を超えてしまうかもしれない。
「確かにお前はユウナと一緒に戦争で国の助けをしてくれた。ユウナと一緒に組織に攻め込んでくれた、そこは認めたい」
アトランタが、言う。
「だがな、罪によっては消える物じゃない。すでにお前が過去にやったものについては調べがついている。あのハイト村襲撃事件もお前がやったんだろ」
「つ」
確かにハイト村を襲撃して村を壊滅させたこともある。それは紛れもない事実。
「待って、ウェルツさんを捕まえないで!!」
ユウナがウェルツをかばうようにウェルツの前に立ちふさがる。
「気持ちは分かる。だけど……無罪放免は流石に……」
アトランタは言葉をそこで止めたが、ユウナとウェルツにとってその後に続く言葉は分かっている。
勿論、出来ないが続くであろう。
「ユウナ、いいんだ。どうせいつかはこの日がやってくるんだ。俺はおとなしく捕まるよ」
「……ウェルツさん」
だめだ、このままウェルツさんを行かせたらだめだ。絶対に。
「ウェルツさん!!!!!」
ユウナはウェルツの手をつかみ、ラトスの方に向かう。強行突破のために。
「おいおい、行かせると思うな!!」
ラトスはその豪力で、ユウナの手をつかみ地面に叩き下ろす。
「うぅ、でも!」
ユウナは、手から火の玉を出そうと思ったが、ラトスに即座に手を後ろ手にされる。
「手荒な真似をしてすまん。だが、このまま行かせるわけには行かん」
「うぅ、このゴリラ」
「ご、ゴリラ!?」
ラトスが驚くと同時に、剣聖が思い切り笑った。
「ゴリラはいいな。これからお前のことをそう呼ぼうか」
「やめろ!」
「はあ、全く話が進まん。それでウェルツのことは置いといて、……完成体。今回は私たちの軍には行ってくれないか? お前の力がこれから必要だ。ゲルドグリスティ、あいつに対抗するためにな」
「あの」
「ん? なんだ? 質問か?」
「私完成体だけど、ユウナと言う名前がちゃんとあるんですけど」
流石に完成体としか言われないのは嫌だ。ちゃんと、人間扱いして欲しい。
「ああ、そうか。それはすまない。改めてユウナ。我々の軍に入ってくれないか?」
「断ったら?」
「それは断ってからの話だ。とはいえ手荒な真似はしたくない、素直に了承いただけると嬉しいのだが。それにお前が軍に入るのなら、ウェルツの罪も減刑されるだろう」
「……なら、三つほどお願いしたいことがあるんですけど」
ユウナは覚悟を決めた顔を見せる。どちみち今ついて行く選択肢しかない。だったら要求をのませたい。
「何だ?」
「ミアにあわせて欲しいのと、この子、ミコトを一緒に連れて行かせて欲しいのと、私とミコトに稽古をつけて欲しいです」
ユウナは真剣な顔で自分の希望を告げた。稽古とは剣と魔法どちらもだ、ユウナは先ほどの戦いで両方が足りていないと思った、もっと出来ることがあったんじゃないかと思った。だが、結果はウェルツに頼るしか出来なかったのだ。ユウナにとってそれが一番な悔しさだ。本当なら完成体の自分が皆んなを守らなければならないのにだ。
そしてミアにも会いたい。それもだ。ミアに会って本当の意味で改心させて、一緒に戦いたい。その気持ちがユウナの中で芽生えてるのだ。
そしてミコトもだ。ミコトはまだ子供、ユウナたちの庇護が無ければ生きてはいけない。
そしてミコトにも才能がある。
ミコトのけいこもお願いしたい。
そして友達になって仲良くなりたいという気持ちも。
「分かった。出来る限りのことはしよう」
そして会釈をして、剣聖はユウナに「来い」と言ってユウナはついていく。
そして三人は馬車に乗った。
その馬車は国が用意したものらしく、豪華な装飾をしている。席は前に三席、後ろに三席あり、前はウェルツ剣聖ラトス、後ろはユウナミコトアトランタだった。
馬車に乗り込むと、馬がゆっくりと歩き出し、それを見てミコトは「すごい」と一言呟いた。それを見てアトランタが、「だろ」と言ってミコトの頭をなでる。
ミコトが満足そうな顔をしていたので、ユウナは「なんかむかつく」と、腑に落ちない様子だった。
可愛い妹を取られて複雑な心情だった。それを見たミコトが、「お姉ちゃんは私にとって一人だけだから大丈夫」と言ったのを聞いて、ユウナが愛情表現とばかりにミコトに抱き着いた。
「気分はどうだ?」
「うーん。見た目ほどじゃないかな。まあ歩くのよりは楽だけど」
それよりは振動が意外と伝わってくる。前乗ったのよりはましだが、それでも満足には至らない。
「そうか、お気に召さなくてすまないな」
「うん。もう少し座り心地がいい方がいいな」
「えー私は満足だよ」
「そっか」
そして揺られること、二時間。陽が沈みかけてきたころに馬車は到着した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます