第46話 ギガンテス
翌日、ユウナ達はもっと難しい依頼を受けようという事になった。その依頼とは、ジャガーよりはるかに恐ろしい、意志を持たない怪物、ギガンテスが現れたという事だ。その怪物は国に侵入して、今、国の内部を攻撃しているらしい。普通こういうのをやっつけるのは国の仕事だが、彼らは今色々と忙しい。
必死で国の周りを守ってはいるが、それでも完全な魔物の侵入防止には程遠い状況だ。
組織に攻め込んだ時にはアトランタしか出せなかった。
そして、ユウナたちはギガンテスを倒しに行く。完全な戦力としてミコトを連れて。昨日の戦いでも分かった通り、ミコトは組織からの絶望を実質ほとんど得ていないのにも関わらず、かなりの強さとなっている。かの戦争に参加してても、そこそこやれていたと思われる実力だ。
そして、三人は早速ギガンテスの住処となっている洞窟にやってきた。そこは魔物の巣窟となっており、生半端に休憩に入った商人などが引きづり込まれて、殺されるという事件が発生している。早く、中の魔物を全滅させなければならない。
「行くぞ。……ユウナ一応言っておくけど火の魔法はあまり使うな。狭い洞窟に煙が充満したら、死の危険があるからな。あと天井が崩れたら俺たち終わるから派手な魔法は使うなよ」
「注文多いなあ」
「仕方ねえよ。ここから先は光のあまり灯らない場所なんだから」
「分かった」
そして、ユウナたちは中に入っていく。狭く暗く、じめじめとした洞窟。
ギルドの依頼とか関係なかったら、絶対に入りたくないようなところだ。唯一子どもの好奇心でぐんぐんと笑顔で入っていくミコトを除けば、他は全員嫌な顔をしている。
「魔物に出会ったらすぐに教える。その時は頼むぞ」
「うん!」
そして入っていき、
「出たぞ!!」
ウェルツが叫んだ。その瞬間にユウナは剣に雷を纏い、自分の身の回りに風をびゅんびゅんと、回していく。
「お姉ちゃんそれ何?」
「ふふふ、これはねえ、真空の刃。火が使えないんだったら別の方法を試そうかなって」
そしてユウナはその風の刃をコボルトに向けて放つ。
風というのは本来殺傷能力はない。だが、それは空中を漂っている時だけだ。その風をまとめ、素早く放つと、それは実に恐ろしい刃になる。
音がして、形ができるから避けるのはたやすいのだが、コボルトは風の刃に気づかず、前に出てきた。
(よし!)
ユウナはそのまま風の刃でゴブリンを倒した。だが、次の瞬間、後ろから弓矢が飛んできて、ミコトの背中に刺さった。
「うぅ、何?」
そしてミコトは後ろを見る。するとそこには沢山のゴボルトがいた。全員弓矢を持っている。
「お姉ちゃん、後ろ見て」
背中を魔法で治療しながらミコトが言った。ユウナは振り返り、魔物の存在を理解するとすぐに、
「サンダー!」
雷を自在に操り、コボルトにぶつけていく。その攻撃で一気にコボルトは倒れて行く。
「ふう、これで大丈夫かな」
「ありがとうお姉ちゃん」
「それより大丈夫? 背中」
「うん。全然大丈夫。治したから」
そしてさらに進み、洞窟の中の灯りのついた空間に入っていく。その中には、大きな巨人が座っていた。
恐らくこいつがギガンテスだろう。
「こいつがボスってわけね」
「ああ、だが油断するなよ。強いはずだ」
「うん。分かった」
ユウナは早速、雷を纏った剣を作り出す。とはいえ、半端な電気がギガンテスに通じるとは思えないが。
「天井は崩したら駄目なんだよね」
「ああ」
「なら」
そして、岩を空中に作り出す。
「物理でたたく!!」
岩を複数個義眼悦に向けて放つ。ギガンテスは一瞬怯むも、そのまま向かってきた。
「なるほど、威力が弱いか。じゃあ、これならどう?」
風で岩のぶつかるスピードを上げる。だが、ギガンテスはひるむことなく進んでいく。
それを見てユウナはあの時を思い出した。村でのことを。何をしても止まらなかったあの時を。Ý確かあの時は超高火力の炎をぶつけてやっつけた。でも今は出来ない。たぶん、異世界で言う一酸化炭素中毒があるから。
そしてユウナはとりあえず上から雷を落とす。炎がダメなら雷でという訳だ。
だが、やはり思った通り、雷では効果が薄いようだ。一瞬動きが鈍るも、次の瞬間には元通り、再びユウナの方に向かってくる。
「えっと、えっと」
ユウナは困ったようにそう言って、とりあえず攻撃を受けるために、雷がまとわれた剣をギガンテスにぶつける。
ただ、雷でだめだったように、ただの剣では効き目が薄い。それに、剣の方もユウナの筋力では全くその体に切り込めない。
「お姉ちゃん。危ない!」
ミコトがそう叫び、水が発射される。超スピードの水だったが、ギガンテスの体が一瞬左に動いただけで、そこまでのダメージは与えられていないようだった。だが、それで、ギガンテスの力が緩み、ユウナの剣がギガンテスの手に少し食い込んだ。
その瞬間、ウェルツも動き、剣でギガンテスの背中を突き刺す。ギガンテスの防御が緩まっているからか、軽く突き刺さる。
だが、決定打が足りない。剣は突き刺さるものの、これではかすり傷程度だ。
その瞬間、ユウナは剣に炎を纏った。あまり使いすぎたらだめだが、一瞬の炎の燃焼なら風を操ることで何とかなる。
その炎で、表面を燃やし、そのまま切り込んでいく。またユウナは同時に器用にも、空気を洗浄する魔法を使った。
その剣によりギガンテスの手はじりじりと斬りこまれていく。だが、ギガンテスもただではやられないようで、もう片方の手でユウナを狙う。ミコトがそれを防ぐために、水を放出するが、ギガンテスには効いていないようだった。
そしてギガンテスの手に酔ってユウナが払われ、地面を転がる。
「うぅ」
皮膚の固ささえ何とかなれば倒せるのに、強度が足りない、剣の鋭さが足りない。全てが足りない。
ユウナにはまさかこういう状況になるとは思っていなかった、雷は訊かず、炎は上手く働かないなんて。
自身の体はすでに魔法で強化されている。だが、それでも届いていないのが現状。
事実、ユウナはそこまで自己強化魔法が得意なわけではないのだ。
ミコトはユウナとウェルツが戦ってる今、自分に出来る事はないかと考えた。二人とも中々巨人の体を斬れていない、その一方で段々ダメージを喰らっている。
お姉ちゃんを守りたい。ただ、単純な攻撃魔法じゃだめだ。
そして考えた結果、一つの可能性に気づいた。
自分の中には秘めたる力がある。それはまだ使っていないけれど、他人を強化する魔法らしかった。
恐らく自分には回復魔法だけでなくこちらも使えるのだろう。
「お姉ちゃん。私出来るよ」
「え?」
「お姉ちゃんを強化すること」
ミコトは意を決してそう言い放った。
ユウナは一瞬耳を疑った。他人を強化する魔法は相当難しい魔法であり、ユウナにはできない魔法だ。
そもそも、攻撃魔法と比べて補助魔法は覚えるのが難しいのだ。
だが、出来るというのなら頼みたいところではある。
「お願い」
ユウナはそう頼む。するとミコトによりユウナの体は強化された。ウェルツも同様に。
「これなら」
「行けるな」
二人は一気にギガンテスに斬りかかる。先程とは違い皮膚を少しずつ切り刻んでいく。先程とは
まったく傷の入り方が違う。どんどんとギガンテスの体から血が流れていく。
ギガンテスも抵抗はするが、二人の速度も上がっているため、中々攻撃が当たらない。
「行くよー!」
ユウナが叫び、首に剣を当て、叫ぶ。だが、首は中々斬れない。やはり大事な部分は硬いという事らしい。だが、他のところから切り込むのは致命傷までは届かない。
やはり首が一番弱く、一番命に近い場所だ。
ユウナは力をぐっと込める。早く切り落とさないと、ギガンテスがユウナを払いに来る。
その前に落とさないと。
やはり体を地味地味と斬って行って、体力切れを狙うべきだったかと思ったが、そんなこと今考えても意味がない。
そのまま無理やり力を入れる事七秒、ギガンテスの首に切れ込みが入る。ギガンテスはそれにより、もがき苦しんで、首から無理やりユウナを叩き落そうとした。だが、その瞬間、ウェルツの剣がギガンテスの足を斬り去った。それによりギガンテスの力は弱まり、ユウナがその首を一閃、斬り去った。
その首が地面に転がるのと同紙に、ユウナは雄たけびを上げた。
「やったああああ!!」
それに続き、ウェルツとミコトも雄たけびを上げた。
「それでこれどうしたらいいの?」
「おtりあえず、耳だけ斬って行こう」
「分かった」
ユウナはその耳を切り取って、ウェルツに渡す。
洞窟を出て、ゆっくりと喋りながらギルドまで行く。
だが、ギルドの前には二人の男が立っていた。アトランタと、剣聖だ。
ウェルツがそれを見て「待て」と、ユウナとミコトに言った。もしや、ユウナが完成体という事を剣聖に行ってしまったのか。そんな考えが巡っていく。幸いまだ気づかれてはいないようだが、すぐにばれるだろう。こそこそと逃げるしかない。ユウナとミコトに「逃げるぞ」と言って、逆方向に行こうとする。だが、ウェルツは後ろから肩をポンっとたたかれた。
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