第45話 ジャガー

 翌日、ユウナとウェルツはミコトの様子を見に、病院に行く。


「ミコト大丈夫かな」

「……お前が来てくれたらあの子も喜ぶさ」

「うん」


 そして、二人は建物の中に入っていく。


 病院では、ミコトが元気に飛び跳ねており、ユウナは驚いた。昨日はかなり衰弱していたのに。そんな面影はもうほとんどない。


「あ、お姉ちゃん!」


 ミコトがユウナに向かって笑顔で手を振った。


「ミコト、なんでそんなに元気……なの?」

「分からない」

「分からないって……」


 でも、思い当たる節はある。ミコトの体には完成体になる素質がある。そのため、ケガの直りは早いのだろう。ユウナも怪我の回復具合は他の人よりも早い。


「なるほど。てことはもう体調は大丈夫?」

「うん。ご飯食べたから大丈夫」


 だが、いくらユウナでも、そこまで体力の回復が早いわけではない。もしや、ミコトはそちら方面に特化しているんじゃないかと思った。そう、回復魔法という方面に。


 そして、二人はミコトを引き取って宿に帰った。


 家に帰ると、女将さんにもう一人増えますと、伝えた。歓迎の反応を示し、「子どもが増えるなんて腕が成るわ。どんどん美味しい料理を作っちゃう」と、腕を振り回していた。


 だが、いつまでここにいられるかは分からない。いつ、あの人が国に伝え、完成体であるユウナ、そして完成体に餡れる素質のあるミコトを回収するのか分からない。


 とりあえず、昼ご飯を食べ、ミコトを連れてギルドへ行く。依頼をこなすために。


 ミコトはある程度力をコントロールできるようにはなったらしい。だが、その力はまだそこまでの力ではないようだ。

 とはいえ、実践に連れて行くのは大丈夫だと判断した上だ。組織に狙われるかもしれないし。


「お姉ちゃんと共闘するなんて楽しみ」

「うん私も」


 そして二人は手を繫ぎながら依頼の場所へと向かって行く。その二人を見てウェルツは良かったと思う反面、仲間外れになりそうで、悲しいという感情があった。二人でばかり話しており、ウェルツは中々話に入れない。

 だが、二人の楽しそうな顔を見てたら、まあいいかと思った。


 そして依頼のあった場所に行く。そこには大きな魔物がいた。ジャガーだ。

 数日前のゲルドグリスティ、つまり魔王軍を名乗る集団の登場から魔物が多くなり、凶暴化している。このジャガーも同じだ。

 従来の、ゲルドグリスティが現れる前に存在していたジャガーよりも大きい、恐らく強さも前までとは違うのだろう。


「ユウナ、油断するなよ」

「うん!」


 そしてウェルツが前線に出て、ユウナが魔法でサポートしようと、頭上に五つほどの火の玉を浮かす。


「わ、わたしは?」


 ミコトがそれを見て慌てて言う。


「まあ、サポート溶かしてくれたら。勿論、ミコトの方に来たら、私が倒すから」

 そう、自信満々に言うユウナに対し「あまり調子に乗るなよ」と、ウェルツがくぎを刺した。


「大丈夫だよ」


 そしてユウナは火の玉を一発ずつジャガーに向けて投げる。


 ジャガーは器用に五発の玉をすべて避けていく。そこにウェルツが現れ、ジャガーを斬ろうとする。

 だが、素早く後ろに避けられる。


「素早っしこいね!」


 ユウナはすぐさまジャガーとユウナたちを囲い込むように、雷の檻を作った。


「これで遠くには逃げられないよね」


 ユウナは叫ぶ。その瞬間、逆上したように一気にジャガーがユウナに襲い掛かる。

 ウェルツは全く気づかないうちに。


「ユウナ!」

「分かってる!」


 ユウナはまっすぐに作り出した剣を構え、ジャガーの方に向ける。

 ジャガーもそれには気づいた様子で、地面を蹴って、剣とは違う方向に向かってこようとする。

 だが、ユウナはそれを把握し、地面をトンと叩き、自分の正面以外の周囲に壁を作る。

 そしてジャガーはユウナの目の前の壁の隙間を狙い突進する。


「よし!」


 ユウナはそのまま剣でジャガーの腹を一刺しにする。

 だが、ジャガーは刺されてもなおユウナに向かってきた。


「うそ」


 腕を噛ませることで、何とか直撃を避ける。だが、腕から大量の血が流れていく。だが、ユウナは痛みに耐えきってそのままジャガーを剣で倒した。


「ユウナ、油断しすぎだ」


 実際、ちまちま変なことをせずに魔力をふんだんに使っていたら瞬殺できたような魔物だ。


「ウェルツさんこそ、抜かされてたじゃん」

「うるさいな」


 そしてミコトの方に歩き出す。


「お姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも。ちょっと腕が痛い」

「任せて」


 ミコトは腕に回復魔法をかける。すると、すぐさま腕の傷が回復していった。


「流石ミコト。やるねえ」

「でょ? お姉ちゃん褒めてえ」

「うん、すごい」


 そしてユウナはミコトをなでる。


 そして町に帰ろうとする。だが、周りにジャガーの群れが現れた。


「ひったいじゃなかったのか」

「うん、依頼書にはそう書いてたよね」

「仲間がいたっていう事か」

「分かった。さっさと倒すよ。ミコト待ってて」


 そしてユウナはさっきの反省を踏まえ、地面から土を上に着き上げ壁を作った。逃走防止兼、行動可能域を狭めるためだ。

 ちなみにウェルツは外に出している。むろんミコトも。

 そして、土の上からどでかい炎をぶつけた。

 魔法なんて使えないジャガーにはその炎を避けられるなんてことはなく、無残に消し炭となった。


圧倒的な魔力を持つユウナならではの技だ。

「最初からこうやってたら良かったね」


 ユウナは土の壁を解き、二人に対して言う。


「ああ、にしても……」


 ウェルツは焼き野原となった地面を見て、


「チートだな、その魔法」

「だね、私最強だもん」

「……私だって強いもん。お姉ちゃん」


 ユウナは一目見て、ユウナが一人で倒しちゃったのが不満だろうという事が分かった。


「うん、次戦う時はミコトにも活躍の機会を挙げようか」

「うん!」


 その後、近くにゴブリンがいたので、ミコトに戦わせる。このゴブリンはそこまで強くはなく、ミコトに倒させるにはちょうど良かった。しかも、ゲルドグリスティの支配下にあるのか、凶暴化もしている。


「行くよ。お姉ちゃん見ててね」

「うん」


そしてミコトは火を手に持ち、後ろにはねながら、火を一発ずつ丁寧に放ち、ゴブリンを一体ずつ倒していく。


そして、あっという間に全滅した。


「お姉ちゃん、褒めて」

「偉い偉い!」


ユウナは圧倒的な力を見せたミコトをなでた。

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